第50話 ランゴバルド最期の日
よかった!
よかった!よかった!
やったよなあ、がんばったもんなあ、わたしたち。
災厄級の魔物が、はしゃいでいる。
正確には、魔王1名、真祖吸血鬼1名、古竜1名、神獣1名。アモンとギムリウスはたして一人として数えていいか疑問である。
ネイア先生の頭脳を通して、ぼくらは、実際に会っているかのように顔を付き合わせていた。
もちろん、映像ではあるが、声も「声」としてちゃんと認識できている。
ウィルニアの黒い鏡に、こんなことが出来ないかいろいろ、研究していたら、膨大な魔力をもつ者を媒介にすれば同じような効果が得られることがわかったのだ。
ネイア先生自身は、会話を聞くことは聞けても、話はできない。
ここら辺は今後、改良の必要があるだろう。
彼らが喜んでいるのは、「一般常識」の科目に全員が受かったからだ。
難しいのか、と言われると確かにランゴバルドまたは西域の生まれでないと答えられない問題は多い。
クラスメイトになった冒険者の卵たちは半分くらいが、ランゴバルドの出身。ぼくたち以外は残りもぜんぶ西域のどこかの出身で、入学試験を経て「一般常識」を受講するように言われたのが、ぼくらだけ。
今回の騒動の原因となった決闘騒ぎのために、試験を落としたのは仕方なかったとしても、やっぱり田舎育ち、および迷宮生活の長いものは不利なのだろう。
迷宮生活の長い冒険者志願がどのくらいいるのかはわからないけど。
「明日の外出許可は取ってあるぞ!」
ロウが自慢げに言った。
明日は休息日でもなんでもないから、授業をさぼる気だ。そもそも彼女に「さぼる」とかいう意識すらないかもしれない。
ネイア先生の意識がなにか不満げにわだかまるのを感じた。
ロウに強要されれば、断れないのだろう。
ロウが自慢げに胸を張った。いやかわいそうだからやめろ。
「状況はざっと話したとおり。」
一通り、合格の喜びをわかちあったところで、ぼくは言った。
現状は、階層主がつかう「圧縮思考」で伝達してある。
「目標は、とっても安易に楽しく波風立たずに学校生活を送り、銀級冒険者の地位をすみやかに獲得すること。
それを阻むものは、断固排除する。」
おー。
と、ギムリウスが気の抜けた返事をした。ギムリウスの掛け声は基本、気が抜けている。
「だが、邪魔なものを片っ端から排除していくと、聖光教会および帝国とことをかまえることになってしまう。
そうなると、冒険どころではなくなるので、それは避けたい。」
「断固排除と言って排除しないのか。」
リウが面白そうに言った。
「矛盾してないか?」
「理屈はおかしなことになってる。」
ぼくは認めた。
「でも聖光教会の目的は、冒険者組合への影響力を強化することだ。
そのための、学長選挙への介入だったり、ルールス先生への暗殺だったりするわけだ。
『神竜騎士団』やその上部組織『神竜の息吹』を抱き込んだりしたのも全て、そこにつながる。」
「邪魔だな。」
リウが断言した。
「排除したらまずいのか?」
「もっといい方法がある。」
「悪い顔をするなあ。」
アモンが笑った。
「フィオリナに嫌がられるぞ。」
いかんいかん。
ぼくは口角を引き締めて、続けた。
「要するに、あいつらには『すべてうまく行っている』と思わせておけばいいのです。
『神竜騎士団』はつぶさないし、『神竜の息吹』も存続する。
ルールス先生の暗殺はうまくいかなかったが、左遷されて、学校内の要職に返り咲くことはない。
そして、ネイア先生もルールス先生の護衛からはずされ」
ネイアが懸命に不満を訴えた。
「ルールス先生はいわばいつでも暗殺できる状態にある。
あせって暗殺しなくても、いつでも命を奪える。だから、いますぐ命を狙いにいくこともない。」
「そりゃあ、希望的にすぎるんじゃないか?」
ロウが言う。
「そうなるように、コントロールする。
暗殺者は『神竜の息吹』が手配し、校内への暗殺者の侵入は、『神竜騎士団』が手引していた。
この構図はまったくかわらない。
だが実際にはどちらも、もう聖光教会の指示はうけない。うけたふり、はするかもしれないが。
そしてそのうちに、聖光教会の意向を受けたジャンガ学長は、勝手に失脚する。
ルールス先生の告発など待たずにね。」
ロウが手を上げた。
「600万ダルで、『神竜騎士団』を買い取ったときいたが、金欠王子のルトがどこからその金を工面するんだ?」
「貧乏真祖にたかることはしないから安心してくれ。」
ぼくは安請け合いした。
「とにかく退場いただくべきものにはすみやかに退場していただく。」
「誰を退場させるかはもう、決めてあるのか?」
リウが面白そうにたずねた。
「これからの己の行動で決まるでしょう。
では、#情況を開始する__さくせんかいし__#。
名付けて・・・・・・
オペレーション;ランゴバルド最期の日
です。」
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