遅くなって、ごめんね
扉が開いて、現れたのは華君と晴海君だった。
「ごめん、しおりん。遅くなって」
「お取り込み中だった?」
晴海君が泣いてる椚さんを見て言った。
「いや、大丈夫だよ。」
美咲さんは、椚さんの頭を撫でながら抱き締めた。
「しおりん、はい」
「ありがとう」
華君が、栞さんに花束を渡してる。
「これ、俺から」
そう言って、晴海君はワインを渡した。
「ありがとう、嬉しい」
栞さんと麻美さんが笑ってる。
「何かあったの?くぬりん泣いちゃって」
華君の言葉に美咲さんは、さっきの話をした。
「なんだ、そんな事」
椚さんは、華君の言葉に驚いた顔をした。
「くぬりん、もしみんながやめちゃうなら、僕等が働けばいい事だから」
「でも、海の華は?」
「あっちは、昼間だけあければいいから。こっちは、たまにしか昼間開いてないわけだし」
晴海君の言葉に椚さんは、また泣いていた。
「もう、言っちゃえば?」
「駄目だよ。真矢さんの結婚式が終わるまでは…。」
「あっ、あとさ。兄貴には、言ってなかったけど…。俺、結構兄貴の店の料理作れる自信あるから」
晴海君の言葉に美咲さんが驚いた顔をしてる。
「なんで?作れるの?あれは、しーちゃんが作れるんだよ。」
「晴海は、椎名さん嫌いだから、凄く練習したんだよ。僕は、知ってるよ。店をopenしてから、ずっと練習してたから」
美咲さんは、華君の言葉に泣いてる。
「辞めてくれたらいいと思ってたから、椎名さんがいなくなればいいって。だけど、椎名さんの料理にお客さんがついてるのわかってるから。俺は、兄貴に幸せになって欲しくて…。あの人を辞めさせたかった。」
その言葉に栞さんが、何かを考えてる。
「もし、みんなが辞めるなら僕が詩音の為にお店を出すよ。心配してるのは、みんなの就職先でしょ?」
「兄貴、この店、手放すのか?」
「その方が、いいと思う。みんなが、辞めるなら」
「そんな…。なら、なおさら言わないでいましょう。詩音さん」
「店なんかいらないよ。俺は、優君がいればいいんだよ。しばらくは、華と晴海の店で雇ってもらうよ。」
そう言って、美咲さんは笑ってる。
「兄貴、本気なんだな。」
「詩音は、くぬりんを選んだんだね」
晴海君と華君は、嬉しそうだ。
「俺はね、さっきも話したけど、しーちゃんを好きな気持ちだけでお爺ちゃんになっていって。俺には、この店しかなくてって未来をずっと想像していた。なのに、椚と一緒になってから…。毎日が、前よりも楽しくなった。」
「よかったね、詩音」
華君は、美咲さんの肩を叩いてる。
「だから、みんなが辞めるなら俺は、椚と0から始めたい。この店じゃなくても構わない。」
「そんなせっかくこんなに立派なお店で、たくさんのお客さんもついて」
「そんなのは、たいした問題じゃない。」
そう言って、美咲さんは椚さんの頭を撫でる。
「やっと、詩音が自分の為に生きるならいいと思うよ。ここだって、僕と晴海と母さんを養うために最初は、始めた事でしょ?」
「そうだね。向こうからやってきてすぐにお金を貯めて、お店をやる事を決めた。だけど、こんなに流行るとは思わなかった。大好きで大切なお店だよ。でも、自分の為には生きていなかったと思うよ。華が言ったみたいに、家族の為だった。でも俺も、自分の人生を生きてみようかなって、そう思わせてくれてありがとう、優君」
美咲さんは、椚さんの手を握った。
「詩音さんと一緒に人生を歩いて行けるなんて。思わなかったです。5年前から、ちゃんと気持ちを伝えててよかったです。」
「くぬりん、プロポーズするならちゃんとしなきゃ駄目だよ」
「プ、プロポーズ!?した方がいいですね」
椚さんは、照れくさそうに頭を掻いた。
僕達は、この日みんなで栞さんのプロポーズを祝った。
それと、美咲さんと椚さんの事もお祝いしたんだ。
美咲さんが、この店をしたのは家族の為で自分の為ではなかった。
お兄ちゃんではなく、美咲詩音としての人生を選ぼうとしている事を誰も反対などしなかった。
付き合った日にちは、短くても…
椚さんと美咲さんの時間は、とても濃いのがわかった。
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