何があったの?

僕が、家で待っていると二時間後に本当に二人は戻ってきた。


ワインをこぼした服を着たるいと、涙で頬が濡れてる美咲さんと少し怒ってる晴海君が帰ってきた。


「どうしたの?その服」


「ああ、ワインかかった。」


「ワインってかかるものなの?」


「洗濯機に持ってくわ」


「スーツ染みになるよ」


「いいよ、別に」


月は、洗面所に消えていった。


「美咲さん、コーヒー飲みますか?晴海君も…。」


「お酒ある?」


「ありますよ。」


「そっちがいい」


「わかりました。晴海君は?」


「コーヒーで、飲んだら帰るので。」


そう言って、お辞儀をする。


僕は、ビールとコーヒーを持っていく。


ひかる君、月君貸してくれてありがとう」


「いえ、全然。月が決める事ですから」


月も戻ってきた。


「あのさ、兄貴。何で、月君ワインかかってるの?何で、兄貴は泣いてるの?いい加減、話せよ」


「何も聞かない約束だろ?」


美咲さんは、泣きながらビールを飲んでる。


「月もビール?コーヒー?」


「ビール」


「わかった。」


僕は、ビールを取ってきた。


「話したら自業自得って笑うだろ?俺達の言うことを聞かないからそうなるって」


「何も話されてないのに、わからないよ」


「晴海、しーちゃんに気持ち捨てろって言われた。嫌なんだってさ。大人だから気持ち悪いとは言わないって。それって気持ち悪いって事だよな?情けないよな。昔から、男見る目ないな。」



美咲さんの言葉に晴海君は、驚いた顔をする。


「何だよそれ。俺、やっぱり椎名さん嫌いだわ。」


晴海君は、苛々しながらコーヒー飲んでる。


「それが、普通だよ。どう考えたっておかしいのは俺だから」


「兄貴、何言ってんの?物心ついた時から好きなのは、男だったろ?俺達の普通は、それだったろ?」


晴海君が、怒ってる。


「それが、おかしいんだよ。」


自分の普通は、誰かにとっての異常なのだろうか?


じゃあ、普通って何なのだろうか?


「おかしいって、何だよ。俺達、兄弟が否定されてるだろ?兄貴は、悔しくなかったのかよ」


「悔しいよ。辛いよ。悲しいよ。当たり前だろ?だけど、それ以上にしーちゃんが好きなんだよ。そんな自分が、今は一番許せないんだよ」


美咲さんは、そう言って泣いた。


「気持ちの捨て方が、うまく出来ないんだよ。」


「兄貴…。しばらく、店休めば?」


「無理だよ。俺が居ないと来ない人だっているんだよ。」


「でも、そんなんで明日から椎名さんに兄貴がまた会えると思えないよ。」


晴海君は、そう言って美咲さんの肩に手を回した。


「何で、いつも兄貴は辛い恋愛ばっかりするの?優しくて、真っ直ぐなだけなのに…。」


僕も泣いてた。


「何でかな?やっぱり見る目がないんだよ。」


「なぁ、くぬぎさんの事考えてみてあげてよ。」


「なんで?」


「もう、椎名さんがいいならだけど…。」



「椚さんって?」


月が尋ねた。


「兄貴の店の人だよ!!5年前からずっと兄貴に告白してる。ずっと、フラれてるけどね。」


晴海君が、笑ってる。


「優しい人だよ。華の事を兄貴が話したら、次の日病院にやってきたんだよ。俺達の事、みんな大切にしてくれてる。あの人の作るデザートは、大人気でしょ」


「デザート作ってる人なの?」


「うん」


「あの綺麗で美味しいデザート作ってるんだ。」


僕は、あの日食べたのを思い出した。


「たまには、自分が好きになった相手じゃなくて好きになってくれた相手と付き合ってみたら?」


晴海君の言葉に、美咲さんは悩んでる。


くぬぎの事は、タイプじゃないし、好きだけど違う。」


「プライベートで会った事ないだろ?いい人かも知れないだろ?今なら、好きになれるかもしれないだろ」


「今日、ここで飲みましょうよ。呼んでみませんか?」


僕は、そう言って提案した。


「椚と、仕事以外で会うとか考えた事なかった。」


美咲さんは、泣きながら電話してるスピーカーにしてかける。




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