第25話 解毒
ドアが開き、フォシアが戻ってきた。ミカナがすがるような声でいった。
「フォシア。ハルトが」
「わかってる」
うなずくと、フォシアは小さなボトルを取り出した。中には赤いとろりとした液体が入っている。俺の口に押しつけると、フォシアはいった。
「飲むのよ、ハルト。さあ!」
「う、うう」
俺は液体を飲んだ。ほとんど無意識で。
すると苦痛が少しおさまった。安らかな闇が俺を包み込んでいく。
俺は闇に意識を沈めた。
意識が明瞭になっていく。ゆっくりと俺は目を開いた。
視界に飛び込んできたのはフォシアの、やや気の強そうな美しい顔だ。あらためて見てみると、やはりその美しさは人間離れしていると思う。
「よかった。気がついたのね」
心底安堵しているような声をフォシアはもらした。思わずといった様子の微笑をもらす。
そのフォシアの声に気づいたのか、視界にポリメシアとミカナの顔を入ってきた。二人とも喜びに顔を輝かせているような気がする。思い過ごしかもしれないが。
よくみるとミカナの目には涙がひかっているようだ。
「心配したんですよ。もし治らなかったらどうしようかと……」
ミカナがいった。後は言葉にならないようだ。隣ではポリメシアがうなずいている。
「そうよ。あんたが死んじゃったら、バレートになんていったらいいかって思ってたんだから。バレートが助かったのはあんたのおかげだもの」
「違うだろ」
俺は笑みを顔におしあげた。
「バレートが助かったのはミカナの聖魔法のおかげで、俺は関係ないよ」
「そうかもしれませんが……でも、ありがとうございます」
ミカナが俺の手を握ってきた。柔らかい手だ。
なんだか俺も泣きたくなってきた。
今まで、心を通じ合わせることのできた友人などいなかった。けれど、彼らは心の底から俺が生きていることを喜んでくれている。やっと友達に巡り会えた気分だった。
「いいや。礼をいうのは俺の方だよ。ミカナが魔法をかけてくれたんだろ」
「いいえ」
首を横にふってから、ミカナはあらためて俺の顔を覗き込んだ。
「あの……覚えていないんですか?」
「覚えてないって……ミカナが魔法をかけてくれたんじゃないのか?」
「はい。ハルトを助けたのはフォシアですよ。薬草をとってきてくれたんです」
「フォシアが?」
俺は慌てて身を起こした。急な動きに、ポリメシアとミカナが慌てる。
「だめよ、いきなり動いちゃ」
「まだ安静にしていないと」
「う、うん。でも……」
俺は身を起こしたまま身体を動かしてみた。
身体が軽い。毒がぬけた後とは思えないほど快適だった。
「フォシアの薬草のおかげかな。まったくなんともないよ」
俺はフォシアを見た。フォシアは満足そうに微笑んでいる。
「ありがとう、フォシア。君は命の恩人だよ。君と出会えてよかった」
「そ、そう」
フォシアが俺から目をそらせた。なんかもじもじしている。いつものフォシアらしくなかった。
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