プレイカード ~元ヒッキーの俺、山に行ったら修行をしあれよあれよと世界最強~

リレシップ

第1話プロローグ

――歴史修正案、48番の開始を確認しました。全対象の現状を観測し、歴史の修正に取り掛かります。これは軌道修正であって世界改変ではありません。世界の変革は当事者の権利です。外界からの改変は規定に違反します。


 


 ――王は死んだ。新たな王の目覚めこそが世界の目覚め。王は自由、種である人を超越した存在、誰もかの者の枷にはあらず。


 


 目を覚ますとそこにはいつもの変わらない退屈な日常が広がっていた。何気ない日常に価値があるそんな事を言う小説を何度か目にしたが、俺にはよくわからなかった。


「はぁ、今日もいつもの変わらぬ日常か……」


 他人頼りな現状の打開を望みながら、ベッドから降り洗面所に向かう。適当に顔を洗った後はテレビをつけて冷蔵庫を開いた。彼の名前はヒラク、今年十五歳になりそれを境に親から一人暮らしをして、学校に通うように言われたごく普通の学生である。


「何もない」


 朝食の準備も出来ない一人暮らし一年目の弊害がこんなところで現れる。


「仕方ない、買いに行くか……」



 自分の想像していた生活と実際の生活とのギャップから引きこもりのような生活を始めて既に3ヶ月が経っている。食事を買いに行くことすらも嫌になる程、周りとの関係を嫌っていた。


 簡単に身だしなみを整えて外に出る。時間感覚すら怪しくなってきていた俺は時計を見て初めて今が10時だと気がついた。


「昼飯もついでに買ってこよう」


 夏の十時は引きこもりの俺に相当厳しい時間だったことを外に出て五分ほど歩いたところで後悔し始めた。ヒラクは今すぐクーラーの効いた部屋に帰りたくなってきた。しかし、コンビニまでの時間は今家に帰るよりも短い、そう考るとコンビニに行く方がマシな気がしてきた。



 コンビニに入ると店は思っていた以上に静かだった。店には客が数人しかおらず、それもグループではなく一人一人が買い物をしにきただけでほとんど物音がしなかった。


 購入可能なパンとサラダチキンとサンドイッチを生徒手帳をかざして購入し、外に出ようとすると店に3人の男が入店してきた。男達は会話をしており、店が静かなこともあって聞く気もないのに聴こえてしまった。


 鳥頭の男が、鼻息荒く興奮して


「昨日のバトル速報の一面飾ったヒトミちゃんの写真見たか?」


 豚鼻の男が冷静に


「見たよ。想像以上に可愛かったし、あれで最年少Dランク達成候補とか信じられないよね。」


 犬耳の男が苦虫を噛み潰したような顔をしながら


「でもさ、自分のカード全部男じゃね?ハーレムパーティってあんまり伸びないって聞くけど?」


「こいつ、そのヒトミちゃんに告白まがいのことしてまでカードにして欲しいって頼んだのに断られて、その上カードには別の犬獣人がなったから、嫌ってるだけだろ! しかもまだ、三人パーティじゃねーか適当言うな!」


「あんま大声出すな。でも、正直高ランクに行ける可能性があるプレイヤーについていくだけでランクも上がるなら、挑戦する価値はあるよね」


「いや、俺はそういうつもりでじゃなく……」


 そんな会話が聴こえてきた。その時俺は最悪な気分になった。


 会話に挙がっていたヒトミちゃんとは多分俺の幼なじみのヒトミだろう。幼馴染の活躍は単純に嬉しく思う。だけどその話題は俺の日常には全くもっていらないものだった。唐突な頭痛に襲われながら走れば五分もかからない家まで、頭を押さえながらゆっくり帰宅した。



 帰宅して適当に買い溜めした頭痛薬を飲もうとリビングに向かうとつけっぱなしのままだったテレビの映像が目に入った。そこには綺麗な自然がいっぱいの山間部にある神社や北の大地の雪化粧の美しい人里や古都キョウトの雨の降るしっとりとした街並みなど日本の美しい風景の特集番組だった。疲れていた頭にこの映像は想像以上のリラックス効果があったのだろうか、頭痛のことも忘れてその映像に釘付けになってしまった。どこか懐かしさを覚えるその情景を自分の目で直接見たくなった俺は今すぐにでもその山に行ってみたくなった。そんなことを考えながら思い出したかのように薬を探そうとすると、すでに頭痛は無くなっていることにやっと気がついた。



 急に無くなった頭痛を不思議に思いながら食事を終えた後ヒラクは、それ以上に気になる先ほどのテレビに流れた映像の場所を探す。いろいろなサイトを覗いても同じような景色が見えそうな場所は見つからなかった。しかし映像の1つの場所には自分の思い出にどこか引っかかる場所だと思えた。その場所を思い出そうと記憶を辿るがある一定より前の思い出に靄がかかったように思い出せない。


 自力で思い出すことを諦め、本棚からアルバムを取り出し遡るように写真を眺めていると1つ気になる写真を見つけた。その写真は先ほどの映像の景色とは完璧に同じではないが、その綺麗な紅葉が先ほどの映像と同じくらい美しいと思えた。この景色はどこなのか知ろうと他の写真を見ればすぐに分かった。この写真は小学四年生の時に紅葉狩りへ行った時の写真だった。その証拠に隣の写真には四年生の時の俺とヒトミが写っていた。その写真には当時のクラスメイトとの写真があるはずなんだがどこか靄がかかったようによくわからなくなっている人が数人ほど写真にうつっていた。



 思い出そうとしても靄がかかったように何も思い出せず俺は徐々にイライラしてきた。日常生活で支障をきたすレベルの頭痛が頻繁に訪れ、昔を思い出そうとすれば存在は覚えているのに情報だけが靄がかかったように全く思い出せない。そんな意味不明な状況に鬱憤が溜まりに溜まっていた俺は衝動的にある決断をした。


 俺は今日その写真の景色の見える長野の麒麟山に行ってみることにした。


 


 ――歴史修正完了。現状のままでは対象が世界に触れず、その生を終える可能性があったため、修正を実行しました。カードネームトリヘッド,ブタノーズ,イヌイヤーの会話の修正とテレビ映像を固有個体情報の電波を受信させました。




 ーIF1ー


 特に何もなく買い物を終えた俺はそのまま帰宅をし、このつまらなくこの生きにくい世界で何のためにか分からないまま、明日を生きていくのだろう。そんなことを考えながら、部屋のクーラーをつけてベッドに潜り込んだ。


 ーIF1 ENDーIF2へ続く

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