7 見るからにいなさそう

「……良かったら一緒に食べていきませんか?」


「え……」


 な、に、を、言っているんだ俺は!


 管理人さんのお気遣いが申し訳なさすぎて誘ってしまった。


 いい大人が、一緒におやつ食べましょってなんだよ、俺。バカなの?


 ほら管理人さん困ってるよ。


 朝から、それも二日酔いの男の部屋で、濃厚チョコとかバニラとかハニーチーズカスタードなんたらとか食うわけないよね? 俺は余裕で食うけどさ。好きだから!


「……じゃあ、お言葉に甘えます」


 あれぇええ……?


 もっと冷ややかなリアクションを想像してた。なにいってんのコイツ? 猫預かったくらいで調子に乗ってない? みたいなやつを。


「でもお邪魔じゃないですか? 土曜日の朝だし、その……彼女さんとか」


「……その辺はまったく心配ないかと」


「いないんですか?」


「いそうに見えます?」


 俺の逆質問に、管理人さんは視線を泳がせた。それから、ゆっくりと首を横に振る。


 そこは嘘でも肯定して欲しかったんですけど……。


「でも、なんでいないのか不思議です」


 慰められると、ちょっと泣きそうになる。管理人さんて、いい人なんだな。怖いとか思っててすいませんでした。


 そうだよ、なに勝手に怖がってんだ。


 なにかされたわけでもないのに。ただたまに、野うさぎを狙う猛禽類みたいな視線が、突き刺さってただけで。


「そんなの、俺がモテないからですよ」


「モテてるじゃないですか」


 猫のことを言ってるんだろうけど、俺は人間にモテたいです……。俺は曖昧に笑って、脚の上でぷうぷう寝息を立てるペペロンチーノの横腹を撫でた。モフモフだ。


「陸田さん、お台所借りてもいいですか?」


「え? 借りてるのは俺のほうですけど」


「そうじゃなくて……お茶、淹れさせてくださいね」


 苦笑する管理人さんの顔を見て、俺は自分がすげーバカな返しをしたことに気付く。


「あ、はい……」


 もうね。猫を膝に乗せて正座しながら、気分だけは土下座。


「あら、陸田さん。シンクぴかぴかですね!」


 それと、普段まったく料理をしない自分に感謝。

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