泳げなくても
「しもべ共による余興は楽しんでくれたかい?
「スキュラ? 冒険者試験で見たような……」
『スキュラは主に海中を縄張りとする〝モンスター〟です。知能が高く、人や魔族の言葉を理解する個体もいると聞いていますが……』
「いいねぇ……。さっきからずっと見ていたけれど、その〝お人形さん〟の中にいる坊やは随分と賢そうじゃないか。この知性溢れる見た目通り、妾は賢い子には目がなくてねぇ……。どうだい坊や、ちょいとそこから出てきて、坊やの顔を妾に見せてくれないかい?」
『既に貴方は僕達に敵対的行動を取りました。本来ならば問答無用で殺しますが、大人しく僕の質問に答えるのなら減刑を考慮します』
「アハハハハッ! ますます気に入ったよ魔族の坊や! まさかスキュラ族を束ねるこの妾にそんな口を聞く奴がいるとはねぇ!?」
「は、はわわ……」
ラキとオルアクアのお陰でキモイ赤い石の群れは全部壊れた。
けど、それで部屋の中に入った俺達を待っていたのは、タコと人が合体したみたいな女の人だった。
人っぽい体の部分は、長い金色の髪に金色の目の凄く綺麗な女の人。
体にはレースみたいな真っ青なドレスを着てて……でも腰から下はオルアクアよりもずっと大きなタコの足がうねうねしてる。
っていうか……こんなに大きいのに今までどこに隠れてたんだろう。
そういうのも含めて超怖いし不気味だ。
背中がぞわぞわする。できれば帰りたい。
だけどラキはそのタコさんをもっと怒らせるようなことを、平気でガンガン言うからさらに怖い。本当に勇気があるなって思う。
『答えて下さい。僕達の宝物庫を荒らしたのは貴方ですか? 拒否権はありません』
「ホホホ……随分と嫌われたものだねぇ。ちょいと遊んだだけじゃなか。言っておくけど、ここを荒らしたのは妾ではない……。妾はこの城から漂う〝えもいわれぬ香り〟に引き寄せられてやってきただけ……そこの扉はとうに〝開いていた〟のさ」
「マジか……」
『魔王城のセキュリティは生きていました。それなのに、貴方以外にもここまで辿り着いた者がいるっていうんですか?』
「ハッ! そんなこと知ったこっちゃないねぇ……。自分の物は自分で守る……それができないのなら、他の誰に荒らされたって文句は言えないだろう?」
『勝手なことを……!』
俺を掴むオルアクアの手が、ラキの言葉と一緒に少しだけ〝キュッ〟てなる。
あれ……これこのまま抱っこされてたら俺が潰れるんじゃ……?
「まあいいさ……妾もこのような廃墟に用はない。坊や達とこれ以上争うつもりもないし……。このくらいで引き上げさせて貰うとするかねぇ……」
『待て――』
「ひえっ?」
「ん~……?」
その時。
ウネウネと手足を動かして扉を出ようとするタコさんをラキが止めた。
ラキの声は氷みたいに冷たくて、機械越しに聞いてた俺でも超怖かった。
『去る前に〝それ〟を置いて行くことです。僕達魔族の持つ究極の食材……インフィニットギャラクシーエビを!』
「インフィニットギャラクシーエビ?」
「おや……〝バレてた〟のかい? おかしいねぇ……このエビはちゃんと〝妾の中〟に隠しておいたはずなのにねぇ……?」
ラキはそう言うと、オルアクアの片方の手で俺を地面に下ろし、もう片方の手で拳銃をタコさんに向けた。
銃を向けられたタコさんは嬉しそうに笑って、手の平の上に〝虹色に光る大きな赤いエビ〟を取り出したんだ。
「あれがリズの言ってた……」
『オルアクアには、リズ様に取り付けて貰ったインフィニットギャラクシーエビの近接探知センサーがあります。部屋の外ならまだしも、ここまで近づけば見逃すことはありません』
「ククク……さぁて、どうするかね。本当につくづく賢い坊やじゃないか。でもね、もしここで妾と戦ったとしても、アンタらに勝ちの目はない……。さっきのしもべ共との〝じゃれ合い〟を見てれば簡単に分かる……坊やのその人形、ちょいと〝準備不足〟なんじゃないかい?」
『……試してみますか?』
え……なにこの雰囲気?
あまりにも怖すぎて、さっきから全然このノリについていけてないんだけど。
やっぱりついてこない方が良かったのかな……。
「いいだろう、ならここは一つ〝殴り合い以外〟で勝負しないかい? 勇敢で賢い魔族の坊やに免じて、このバウハンナが譲歩してやろうって言うんだ。今の坊や達にとっては、悪い話じゃないだろう?」
『……内容によります』
「なぁに、そう難しい話じゃないよ。簡単な〝クイズ〟さ。ややこしい謎かけですらない。妾の出すクイズに答えられれば坊や達の勝ち。このエビは大人しく返してやるよ」
『クイズ……』
クイズ……?
クイズって、なんか最近ラジオでもよくやってる『ピンポーン! 正解です!』って奴のことかな……。
むぅ……残念だけど、俺は全然物知りじゃないから……。
せめてラキの邪魔にならないように、隅っこで座って大人しくしてよう。
『……わかりました。その勝負受けましょう。ただし、僕達が答えられた時にインフィニットギャラクシーエビを返す保証はありますか?』
「アハハハハハ! 妾とて、スキュラの大賢者を名乗る者! 賢者の肩書きとスキュラ族の誇りにかけて、知恵比べにおいて前言を曲げることはないと知れッ!」
『いいでしょう。信じます』
うわ……本当に俺の入り込める世界じゃないな。
まるでお伽話とかに出てきそうな展開だ。
「ラキ……頑張って」
『わかってます……! 魔族四天王の誇りにかけて、このクイズに勝利し、絶対にインフィニットギャラクシーエビを取り戻して見せます……!』
「ならば行くぞ! 妾が持つ億万の知恵と知識の力……その身をもって知るがいい!」
ご、ごくり……。
とんでもない緊張感で、やたら自分の唾の音が大きく感じる。吐きそう。
「では問題です……! 猫のような巨大な体に猫っぽい手足が生え、顔は猫、尾はモフモフの猫しっぽを持つ伝説の生き物といえばなんでしょう!?」
「……?」
『え……っ!? な、なんですかそれ!? そんなの、ただの大きな猫なんじゃ……!?』
「ん~~? ネコ? 本当に猫でいいのかい? ホホホ……なら、坊やの答えは猫ってことで――」
『くっ……!』
「――チュパチュパボンボリアンデスワーム」
あ……言っちゃった
「な……なにっ!?」
『カノアさん!?』
自分でもびっくりした。
その問題を聞いた俺は、自分でも気付かない内にボソッとした声で答えていたから……。
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