男と従者
「フハハハ……! クハハハハハッ! 素晴らしい食材共だ! これだけあれば、我が腕前を存分に発揮することも容易い! さぁて……どのように料理してくれようか……!」
「むぅ……」
「じーー……」
な、なんだこれ……。
むっちゃ空気が重いんだけど……。
俺が家に帰ってきてからちょっと後。
なんでも、今日は初めてリズがお昼の料理を作ってくれるらしい。
いつもは俺が作ってたんだけど、今日はそのお礼だって言ってた。
だから俺はハルさんから貰った野菜や魚をリズに渡して、ラキっていうさっきの子と向かい合わせにテーブルに座って待ってるんだけど……。
「あの……」
「なにか」
「いやその……。なんか俺のこと見てるなって……」
「いけませんか? さっきも言った通り、僕は貴方がどのような人間なのか見極めないといけないんです。リズ様は随分貴方のことを信頼しているようですけど……僕はまだそうは思っていませんから」
「あ、はい……」
そう言うと、ラキはまた腕を組んで俺のことをじっと見つめる。
お……落ち着かない……。
じとっとした灰色の目が俺をめっちゃ観察してて、なんか全部見られてるみたいで超怖い。
ラキはすごく小さくて、多分歳も十歳とちょっとくらいだと思う。
茶色の髪は綺麗に切り揃えられてて、着てる服も超綺麗。
でも腰には二丁の小さな拳銃がぶら下がってて怖い。
さっき俺にゴリゴリしてたのもきっとあれだ。
そんなわけで、とにかくひたすら空気が重かった。
「…………」
「…………」
な、なにか……。
なにか話した方が良いのかな。
話題……話題を……。
「り、リズは……」
「はい?」
「普段のリズは……どんな感じなのかなと……大魔王の……」
「はぁ……」
やった……。
こんな俺だけど……凄く頑張って共通の話題を見つけたぞ。
でもそれでほっとした俺と違って、ラキは呆れたみたいにして大きな溜息をついた。な、なんでだ……。
「……リズ様は本当に素晴らしいお方です。リズ様が大魔王に即位されたのはまだあの方が五歳の頃でした。幼い頃からリズ様は常に僕達魔族のことを考え、知恵を絞り、時に厳しく、時に優しく、僕達を導き続けて下さる偉大な大魔王様です。勿論それだけではありません、何百年にも渡って続いていた人間との戦いを対話によって終わらせようと魔族内の派閥も必死に説得し、聖女を初めとした人間勢力の有力者にも度々特使を送っておられました。今回の大洪水で即座に魔族と人間が一応の和解を果たせたのも、リズ様が魔力を使って彼らを助けたからだけではなく、何年も前からそのように働きかけていたからなのです。さらにさらに、リズ様は常日頃からご自身の鍛錬にも余念がなく、朝五時半には起床して一日のスケジュールチェックを済ませ、さらにはご自身の朝食も今のように自分でお作りになってお食べになります。そして日が暮れるまで大魔王としての激務をこなし、就寝前には毎日欠かさず絵日記まで書いていらっしゃるのです。今だってリズ様はその膨大な魔力が枯渇しているにも関わらず――」
「うわ、すごい早口」
いや、本当にびっくりした。
俺の質問を聞いたラキはどこか得意げに、しかも一回も噛んだり言い淀んだりもしないで凄い勢いでぶわああって語り始めた。
俺はただぽかーんとなってそれを聞いてて、ラキはずっと一人で話してた。
気がついたらいつのまにかキッチンからは凄くいい匂いが漂ってきてて、上機嫌のリズの鼻歌や高笑いが聞こえてきてた。
「――というわけで、僕のような従者ではリズ様の素晴らしさの一欠片すら説明することも出来ないんです。分かりましたか?」
「た、大変よく分かりました……」
「それならいいです。始めはあまりにもショボショボしているので不審に思いましたが、貴方にもリズ様の素晴らしさが理解できるのなら、今後はそれなりに仲良く出来るかもしれません」
「ショボショボ」
ああ、でも……やっぱりリズについて話したからか、ラキの雰囲気が柔らかくなった気がする。
俺はショボショボとか言われてるけど、リズのことは本当に好きなんだな。
それならラキが言うように、俺の方もこの子を怖がらなくて良いのかもしれない。
「貴方と知り合ってからのリズ様は、僕達側近にも毎日のように貴方の話ばかりするようになりました……。リズ様が一体どれだけ貴方を信頼しているか……貴方自身はちゃんと理解していらっしゃいますか?」
「それは、なんとなく……。どうしてかは全然わからないけど……」
「なら、今後も絶対にリズ様の信頼を裏切るようなことはしないでください。これから先、もし貴方が少しでもリズ様を傷つけるようなことがあれば……。その時は、僕が貴方を殺します」
「やっぱり超怖い」
「ナーーッハッハッハ! 待たせたな二人とも! 今日は大魔王であるこの私が腕によりをかけて究極の料理を作ってやったぞ! って、なにやら二人で歓談していたのか? 早速親睦を深めるとは、カノアもやるようになったではないか! ラキも仲直りできて偉いぞ! クッハハハハハ!」
キッチンから戻ってきた凄く機嫌の良いリズの声を聞きながら、俺は完全に覚悟完了してるラキの視線からおどおどと目を逸らした――。
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