カノアと大魔王少女
「――というわけでな、今の私は魔力がすっからかんのクソ雑魚ナメクジなのだ! だからカノアよ、貴様には弱った私を助けるという栄誉をくれてやる! どうだ……嬉しいだろうッ!?」
「むぅ……」
照りつける太陽と青空の下。
とりあえず昼食を済ませた俺達は、ミャーミャーと鳴くウミネコが集まる海岸沿いになぜか戻ってきていた。
しかし暑いな……。
パライソは元から暖かい場所だったけど、どう考えてもここまで暑くはなかった。
なんかもう完全に常夏の島って感じだ。
「けどやっぱり、あれだけの建物を作るのは大魔王でも大変だったんだな……」
「まあな! だがこれは〝絶対に秘密〟だぞ? 人間共の生活基盤建設で私の魔力が枯渇したことは、魔族の同胞達にも殆ど教えていないのだ。バレたら色々と面倒だからな!」
「……? それをどうして俺に?」
言いながら、俺は波間から見える水没した道や建物をぼんやりと眺める。
まだ洪水から一ヶ月しか経ってないのに、そこには沢山の赤とか黄色の魚がキモイくらい泳いでいた。
「……貴様は信用できる。あの日……私が人間共のために迷わず魔力を使ったのも、溺れて死にかけていたところを貴様に助けられたからこそだ……」
「それは……本当にたまたまというか」
「フン……たまたまなどではない。その証拠に、貴様は人類と敵対する我々魔族だけでなく、そこらの動物から適当な虫ケラまで片っ端から助けているではないか。誰がなんと言おうと、私にとって貴様は信用するに足る男だ! 遠慮なく誇るがいい!」
リズはそう言って、自信満々の笑みで胸を張った。本当に凄い自信だな……。
もし俺にもリズみたいな自信があったら、なんか……もっとこう……。
いや……別にいいか。
特に困ってないしな……。
「だからな、さっきも言ったがカノアにはこれからも色々と助けて欲しいのだ。水泳EXだったか? 私や全人類を一瞬で助けた程のスキルだ……さぞや凄まじい力なのだろう?」
「どうだろう……。そういえば、あれから一度も使ってない」
「な、なんだと!? なぜだ!?」
「特に泳ぐ用事がなかったから」
「何を馬鹿なことを!? 先ほどもブラック労働で疲れ果てて……とかなんとか言っていたではないか!? 水泳EXがあれば、そんなところで働く必要もあるまい!? それどころか、うまく立ち回れば富も名声も思いのままだったはずだ!」
「んー……」
「ぬぅ……さっきから思っていたが、随分と変わった奴だな……。まさか聖人君子かなにかなのか?」
いや、全然そんなことないけど。
出来れば昼まで寝てたいし、働かなくて良いならその方がいい。
ただ、漁師とかは本当に無理なんだ。
早起きだけは絶対に無理……。
あれは俺の寿命が縮むのをひしひしと感じる。
「まあいい……! どうせ今の仕事は明日で辞めるつもりだったのだろう? これからはこのリズリセ・ウル・ティオーが貴様の雇用主になってやる! 案ずるな、私のところは福利厚生も完璧だ! クックックック……アーーッハッハッハ!」
「まだやるって言ってないんだが……」
「よーし! ならばまずは軽く貴様の力を見せて貰おうではないか! 実はな……今の私は猛烈に〝シーフードカレー〟が食べたいのだ! さっきランチを食べたばかりだが食べたいのだ! ああ~~っ! 新鮮な貝やイカやエビの入ったカレーが食べたくてたまらぬぅ~~!」
「むぅ……さすが大魔王、人の話を全然聞かない」
ふらふらと海辺の道を歩いて行くと、突然リズは目の前に広がる海を指さした。
けどリズはカレーが食べたいのか。
俺も食べたいな……夜はカレーにするか。
「カノアも知っている通り、今あるこの陸地は魔法で浮上した街にすぎん。港も完全には完成していないし、魚貝類を確保すると言っても結構手間なのだ。だが貴様の水泳EXならば、もっと手軽にとれるのではないかと思ってな」
「なるほど」
「さあカノアよ! 貴様の力でこの偉大なる大魔王に海の幸を献上するのだ! EXスキルの力、とくと見せて――」
「た、助けてくれええええええええ!」
「むむっ!?」
「……?」
だけどその時。
俺達の場所からちょっと離れた辺りの海から、凄い悲鳴が聞こえてきた。
「サメだ! サメがいるんだ! あ、足が攣って泳げない……誰か助けてくれええええ!」
「サメだと!? ……あれか!」
「デカいな……」
悲鳴の聞こえた方を見ると、水着を着たオッサンが海に浮いていた。
そしてそのオッサンの近くには、ゆっくりと泳ぐサメの背びれがユラユラ揺れてる。
オッサンの位置から足が付く場所まではあと少しに見えるけど……きっとびっくりして動けないんだろうな。
「ぬぐぐ……っ! ほ、本当にサメがいるではないか!? なんと恐ろしい!」
「ちょっと行ってくる」
「は!? カノア――!?」
瞬間。俺は上着を放り投げて海に飛び込んだ。
水泳EX……。
使うのは一ヶ月ぶりだけど、大丈夫かな。
けど、俺のそんな考えが終わるか終わらないかくらい。
俺は文字通り一瞬でオッサンを陸に上げ、サメを街が見えなくなる辺りの海まで抱っこして移動させると、イルカみたいに水面から跳ね上がってリズの隣に着地して戻ってきた。
「ふぅ……なんとかなった」
「ってはやッ!? はッッッッッッや!? は……? えええええええ!? ま、まさか……もう終わったのか!? 飛び込んでから一秒も経ってないのに!? あの巨大なサメはどこに行ったのだ!?」
「泳いで遠くに運んだ」
「ば……化け物か貴様!? なんだその無茶苦茶な力は!? 助けられたあの男も、自分に何が起きたのか全く把握してないではないか!?」
ん……リズの言う通り、オッサンはもう大丈夫そうだな。
驚いてはいるけど、ちゃんと自分の足で立ててるみたいだ。
よかったよかった。
「じゃあ、次はリズの魚をとってくる……魚ならなんでもいいのか?」
「ま、待つのだカノア! もういい……貴様の力は十分によく分かった! そしてこれだけは言わせてくれ……! カノア・アオよ……水泳EXの男よ! 貴様はやはり漁師になれッ!」
「え……無理」
リズの力強いその言葉に、俺はノータイムでそう答えた。
ハルさんといいリズといい、なんでみんな俺に漁師をやらせようとするんだ?
でもとりあえず、リズの仕事は早起きしなくてもいいみたいだし、暫くやってみてもいいかもしれない。
俺はそんなことを考えながら、俺達の上をクルクル飛ぶウミネコの鳴き声をぼんやりと聞いていた――。
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