第8話 手作り弁当

 程なくして夏休みも終わり、気が付けば2学期だ。体育祭に文化祭と行事が盛りだくさんだから誠ともっと距離を縮められたらいいな~。


 休み明けの大会も勝ち進んで、惜しくも地区3位になった。皆悔しそうにしていたけど、十分凄いと思うな。


 9月半ばの残暑も落ち着いてきた頃、私たちは土日返上で学校へやってきている。何でかって言うと、文化祭の準備があるからです。10月の始めに開催だからまだ少し余裕はあるかな~。

 ちなみに文化祭の1週間後には体育祭がある。


 私たちのクラスでは喫茶店をやることになりました~。あ、勿論服は制服ね。メイドやら執事なんて予算がなくて出来ません。仮にやったとしたらメインの料理が出せなくなっちゃう。

 さすが公立高校だよね~、予算が少ないや。


 今は教室の飾り付けとかを皆で作っているけど、そろそろメニューの料理を作る練習しないとね。せっかく調理担当に立候補したんだし。雪ちゃんや他の調理担当の子達とある程度のメニューは決めてあるから後はどれだけ上手に作れるかだね~。

 他の人たちにも感想を聞かないと。


「だったら天宮君に試食してもらえば?」


 と、テーブルクロスを作りながら雑談していた時、一緒に作業していた雪ちゃんからそんな提案をされた。


「雪ちゃん、天才。その案を採用します」


 せっかくだから試食ってことにしてお弁当を作っちゃおう! そしてそのまま毎日お弁当を作る流れに持って行こっと。

ということで誠に試食係をお願いしたら快く引き受けてくれた。


 次の月曜日、私は2人分のお弁当を持って登校している。1つは私の分、もう1つは誠の分。喫茶店に出すメニューの試食という体で張り切って作ってきました。

 美味しいと感じてくれるはず、少なくとも未来では誠は美味しいって言ってくれていた。

 味に自信はあるけれど、それでも不安になってくる。

 そしてあっという間にお昼休みになった。


 私と誠それぞれの机を並べて対面に座り、お弁当箱を取り出す。


「ほんとに作ってきてくれたんだ。試食なら弁当じゃなくても良かったのに……」

「気にしなくてもいいの~、私が作りたかったから」


 若干緊張した様子で弁当箱の蓋を開けた誠は感嘆の声を上げた。


「おおぉ、思ったよりも弁当だ。どれも美味しそうだけど、これ全部試食?」

「そうだよ~? ハンバーグもオムライスもパスタも喫茶店では普通に出てくるでしょ~?」


 まぁ確かにサンドイッチとかケーキは入れていないけどね~。

 これは”試食”であっても”練習”じゃない。 

 私の料理を知ってもらうのが目的だもんね~。


「じゃあ、いただきます」

「はい、どうぞ」


 今回特に気を入れたのはハンバーグ。その味に誠も気が付いたみたいで、がばっと顔を上げた。その反応速度といったら黒の剣士もびっくりするほどだ。


「このハンバーグって……えっ!? 『awl』じゃん。作れたの?」

「作れるように練習しました~。どう? 美味しい?」


 『awl』とは夏休みに2人で何度か行くようになったあの定食屋さんのこと。そのハンバーグを練習の末に再現できるようになりました~。あとはから揚げと生姜焼きかな~。


「めちゃくちゃ美味しい。すごいや、ほんとに店の味だよ。他のも凄く美味しいし」

「よかった~」


 どうやら杞憂だったみたい。ちゃんと美味しいって言ってくれた。


「でも喫茶店でこれは出せないんじゃないか?」

「え? どうして?」


 完全に忘れていたけれど、これは一応メニューの試食だった。となるとこれは聞き逃せませんな。理由を誠に聞いてみた。


「これは凄く美味しいよ、それこそ毎日食べたいぐらいにね。でも作るのに結構時間かからない? それに皆が皆咲季みたいに上手に作れるわけじゃないし、咲季だってずっと調理してる訳にもいかないだろうから」


 ……確かに一理あるかもね~。レシピは渡せても練習はいるし、時間がかかるのは本当。ハンバーグとか1時間ぐらいかけたし。

 だけど、


「だったら、もう少しレシピを簡素にして仕込みだけ大量に作っちゃおう。そしたら注文が入ってからの工程を少なく出来るしね。それだけなら誰でも出来るはずだし」

「そっか、それなら問題ないな」


 これで問題は解決ね。それよりもさっき誠は重要なことを口走っていたよね~。


「それより誠君? 私のお弁当、毎日食べたいの?」

「っえ!? い、いやまぁ……そりゃ食べたいけど」


 自分が言ったことを思い出したのか、誠は照れつつも肯定した。

これはまたとないチャンス到来!


「そっか~、じゃあこれから毎日誠のお弁当作ってくるね~」

「いや、それはさすがに申し訳ないというか。大変でしょ?」

「全然!! 全くもって問題ありません! 今までも作っていたんだしね~」

「え、そうなの? 自分で作ってたなんて凄いな」

「え?」

「あれ? 違うの?」

「あー……いや、そうそう~自分でお弁当作ってたから2人分ぐらい大して変わんないよ~」


 うっかりしてた。誠が勘違いしたから良かったけど作ってたのは結婚してたときのことで、高校生になってからは時々しか作っていないもんね。

 料理はしてるから寝坊しなければ大丈夫。


「でも作ってもらうってなると材料費とかもあるし親にも言っとかないと」

「材料費は特に気にしなくても良いけど…………そっか、ご両親に挨拶は必要だよね」


 いずれ結婚もするんだしこういうのは早いほうが良いよね。


「ん? いや、そこまでしなくても」


 誠が何か言っていたような気がするけど私の中で確定事項になりました。


「じゃあそういうことで今日の放課後に挨拶に伺います」

「いや早いな」

「善は急げ、だよ~」


 多分これを逃したら有耶無耶になりそうだしね~。


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