タイムリープした先には本来居るはずのない嫁がいました。しかも俺達は付き合っているらしい
色海灯油
第1話 目が覚めたら
ある日目が覚めると、高校1年生に戻っていた。俗に言うタイムリープだ。
仕事で仮眠をとっていたはずなのに急に授業中に目が覚めたときは焦った。うっかり叫びそうになったのを我慢できた俺は偉いだろう、と自画自賛してみる。
意識がはっきりしていて、腕をつねってみたら痛かった。その他諸々からこれは夢ではなくタイムリープだ、と言うのが目覚めてからの30分で出した結論だ。
……すげー面白い体験してるな、俺。タイムリープとか現実であり得ないだろとか思っていたけどあり得ましたね。
少しだけ楽しんだら未来に返してくれませんか、と神様に祈りを捧げる。高校生活をやり直してみたい気持ちはあるが、今が充実しているから出来れば戻りたい。
と、そこで授業の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。時計に映る時刻を見るに今日の授業はこれで終わりのはずだ。黒板に書かれた日付と曜日から、今日は部活もなさそうだと理解する。
ホームルームが終わったら帰るか、と考えていたとき後ろから声を掛けられた。
「
……女子の声だ。
『一緒に帰る』と聞こえたが? 悲しいことに俺には当時一緒に下校する女子なんていなかったはずだ。
声の主を振り返ってみると、端正な顔立ちの少女がこちらを覗き込むようにして立っていた。長く艶やかな黒髪を肩に垂らし、答えは聞かなくても分かるとでも言いたげな表情を浮かべる彼女の名前は……
「なんでここに
「え~、ひどくない? クラスメイトなのに『なんでここに居るんだ』って」
「え、だってお前……」
「それより~、今日は一緒に帰らないんですか~?」
間延びした口調だが、早く答えろよと目が訴えていた。
「はい、帰ります。是非とも一緒に帰らせていただきます」
「はーい、じゃあまた後でね~」
あの外見にゆったりした口調。うん、間違いなく嫁の咲季ですね。つい先日(といっても2ヶ月前)結婚したばかりのできたてほやほやの夫婦だ。
そのお嫁さんこと咲季とは大学で知り合った。そこから仲良くなり、交際に至ってついに結婚。今は新婚生活満喫中なのだが、そもそも高校は別だ。
さっき口にした事を今一度言おう。――――心の中で。
なんでここにいるんだよ!?
「はぁ、良いよな誠は。あんな可愛い彼女がいて。俺も彼女欲しいわ」
「え? まじ?」
今のやりとりを見ていた昔馴染みの友人、田中から衝撃の事実が暴露された。
「俺達付き合ってるんかい」
「何を今更。もうさっさと結婚しろよと言いたくなる。……式には呼べよ」
「お、おぅ」
すまん、確か人数の関係で呼べなかった気がする。またやれるなら招待するよ。
*
色々と疑問は残っているが、咲季と高校生活を送れるなら今のままでも悪くないかもな。現に今も他愛ない会話しながら下校している。
自転車で併走しながら師走の風を正面から受けるが、めちゃくちゃ寒い。昔はこんなに寒いって感じなかったのに。
「それでね~雪ちゃんがさ~……」
「え、意外。白石さんが?」
「そうそう~」
なんとかクラスメイトの事は覚えていたようで、ぎりぎり話について行ける。今話題になっている人は咲季の友達らしい。
「それにしてもだよ、誠君。『どうしてここに居るんだ』はやっぱりひどいと思わないかい?」
話が一区切りつき、別の話題になったのだが、さっきのことをまだ根に持っていた。なんて言い訳しよう。
「ええっとな……夢を、見ていたんだよ」
「え? もしかして都会に住んでる女の子の夢ですか?」
「そうそう、もしかしたら夢じゃなくて本当に入れ替わっていたりしてな」
「そんな!? じゃあ近々女々しくなった誠が私たちの前に現れるって事?」
「うっかり隕石も落ちてきたり……」
「ってちがーう! 何話を逸らしてんの~」
いや、最初に逸らしたのは咲季だよね。それにしても『君○名は』なんて懐かしいな。ちょうどこれぐらいの時期に公開だったか。
「まあそれは置いといて。授業中寝落ちした時に見た夢がリアルでな。そこに咲季は出てなかったから夢と混同してたんだよ」
「ふーん、どんな夢だったの?」
「もう覚えていないや」
「なんだつまんない」
「忘れっぽくてすみませんねー」
こんな感じで良いだろうか。さすがにタイムリープしたら大学で知り合った嫁がいて驚きました、なんて言えないからな。
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