第1章 グリーンバックの向こうで (霧宮ナツハ編) 後編
…………数時間後。
六郭星学園 寮
僕はテレビを見ることにした。学園キングを見るためにだった。
テレビの向こうには風亥さんが映っていた。
テレビMC
「というわけで今回の勝者はインテリ学生チーム!!」
相変わらずインテリ学生チームは強い。
テレビMC
「風亥!今回は大活躍だね!」
風亥ノクア
「いやー!そうですね!頑張りましたよ!」
他の人たちもすごいけれど……風亥さんも強いな……。
それにしても……
真瀬莉緒
「まさか同室になるとは……。」
風亥ノクア
「思ってなかったね。」
そうルームメイトは風亥さんだった。まさか有名人と同室になるとは思わなかった……。
風亥ノクア
「それよりもナツハのことだけど……大丈夫?」
真瀬莉緒
「何がですか……?」
風亥ノクア
「あいつ……何というか、性格に難ありだからさ。無理矢理に課題を押し付けそうな感じかあってさ。」
真瀬莉緒
「あー……そうですね……でもそんなことはなかったですよ。期間まで待ってくれますから……。」
風亥ノクア
「そうか……それならいいけれど……。」
真瀬莉緒
「…………。」
風亥ノクア
「まあいいや。それじゃあちょっとだけ外に出るからゆっくりしてって!」
そう言うと風亥さんは外へ出て行った。
1人の時間になり、僕は霧宮さんが言っていた作曲の件について考えた。
作曲か……僕は……。
それぞれの特技を活かした方が良いな。作曲をやってみよう。
そうと決まったら、僕はゆっくり休むことにした。
僕の休みの時間には欠かせないものがある。それは最近ハマっているVtuberの動画だ。名前は綺羅星メルマ(きらぼし めるま)。ここ最近で登録者数が60万人を超えた、今1番勢いのある女性Vtuberだ。
綺羅星メルマ
「星々のみんな〜!みんなのアース。綺羅星メルマで〜す!」
いつものかけ声にいつもの挨拶。最近の心の拠り所だ。
綺羅星メルマ……癒されるな……。
メルマの動画をひと通り見終わると僕はすぐに寝床についた……。
六郭星学園 Iクラス教室
教室に入ると霧宮さんがいた。
霧宮ナツハ
「おはよう。」
そう言ってきたので挨拶をしないわけにはいかない。
真瀬莉緒
「おはようございます。」
霧宮ナツハ
「そんなに固くなくて良いわよ。パートナーじゃない。」
真瀬莉緒
「は……はぁ……。」
霧宮ナツハ
「それよりも決まった?課題は作曲で行くことにするの?」
真瀬莉緒
「そうですね……。ちなみにどうして作曲なんですか?」
霧宮ナツハ
「そうね。言ってなかったけれど、今回作曲する理由はね……声優さんにね。作曲の依頼を頼まれたのよ。」
真瀬莉緒
「声優さんに?」
霧宮ナツハ
「ええ、職業柄色々な人と会うことが多いから、声優さんとも共演してね。そこで依頼をされたわけ。」
真瀬莉緒
「声優さんって……どの人ですか?」
霧宮ナツハ
「この人だけれど……。」
霧宮さんが見せた写真はかなり有名な声優さんだった。この人に作曲を……か。
断る理由も考えたが、特に断る理由がない。だったら受けてみよう。
真瀬莉緒
「わかりました。できる限りのことはやってみようと思います。」
霧宮ナツハ
「助かる。それじゃあよろしくね。」
真瀬莉緒
「ええ。わかりました。」
僕はそう言うと、霧宮さんは握手を求めてきた。
霧宮ナツハ
「ん。」
真瀬莉緒
「……はい。」
僕はしっかりと握手を交わした。
真瀬莉緒
「それじゃあ、音楽室で曲調を考えましょう。」
霧宮ナツハ
「そうね。それじゃあ放課後に少し話ましょうか。」
真瀬莉緒
「はい。わかりました。」
そして、授業が終わり放課後……
六郭星学園 音楽室
音楽室に入るとそこには慌てている先生がいた。
??
「うう……音楽室の掃除も大変だな。」
あれは……柿本瑛久(かきもと あきひさ)先生だ。たしか、姉さんのクラスの担任だ。
柿本瑛久
「ああ、君たち……ごめんね。好きに使っても良いからね。」
そうだ。この先生は少しビビりな性格だって姉さんが言っていたな……。
真瀬莉緒
「わかりました……。それじゃあ、使わせていただきます。」
柿本瑛久
「あはは……ごめんね……。それじゃあね。」
柿本先生はそのまま音楽室から離れていった。
霧宮ナツハ
「それじゃあ、早速曲調を練って行きましょうか。」
真瀬莉緒
「ええ、そうですね。やっていきましょう。」
そう言うと霧宮さんは持ってきた箱からヴィオラを取り出した。
霧宮さんのヴィオラはとても黄色いヴィオラだった。
真瀬莉緒
「霧宮さんのヴィオラとても黄色いですね。」
僕はなんとなくヴィオラについて触れた。
霧宮ナツハ
「ええ、このヴィオラはオーダーメイドなの。」
そう言うと霧宮さんは饒舌に語り出した。
霧宮ナツハ
「このヴィオラは黄色いでしょう。私は黄色が好きなの。黄色ってとても華やかな色で見ていてこっちも楽しくなるの。ノクアも黄色が好きなんだけれど、そこには共感しか感じないわ。」
真瀬莉緒
「そうなんですね。黄色か……。僕も黄色は華やかだなって思いますよ。黄色と言えば天然って思われることも多いですが、そんなことはないと思います。黄色ってとても素敵な色です。」
そう言うと霧宮さんは嬉しそうな表情を浮かべていた。
霧宮ナツハ
「ふふ……ありがとう。……さ、コンセプトを決めましょう。」
真瀬莉緒
「はい。」
僕たちは練習を始めた。
まずは互いにどこまで弾けるか改めて確認をするだけではあるが、とても有意義な練習ができたと思う。
どこまで弾けるか確認した数時間。すると霧宮さんがあることに気づいた。
霧宮ナツハ
「あ、そうだわ。私……この後撮影があるんだった。」
真瀬莉緒
「撮影ですか?……ああ、そうですよね。」
霧宮さんは有名なモデルさんだ。こんな練習をする時間すら貴重なんだろう。
改めてすごい人と実感していると霧宮さんはこんなことを言ってきた。
霧宮ナツハ
「あ、そうだ……。見学しない?私の撮影?」
真瀬莉緒
「ぼ、僕がですか?」
霧宮ナツハ
「ええ、他に誰がいるのよ。見学する?しない?」
見学か……せっかくだから見てみようかな?
真瀬莉緒
「わかりました。ぜひ見学させてください。」
霧宮ナツハ
「わかったわ。マネージャーには私から伝えておくから一緒に行きましょう。」
真瀬莉緒
「はい!」
そうして僕たちは撮影所に行くことになった。
撮影所
ここが撮影所か……。
周りにはスタッフさんたちが一生懸命に準備をしている。僕は邪魔にならないように端っこの方にいた。
端っこの方に立っていると霧宮さんのマネージャーさんが話しかけてきた。
マネージャー
「君が莉緒くんだね。今日は見学に来てくれてありがとう。」
真瀬莉緒
「あ、はい。どういたしまして……。」
マネージャー
「いや〜ナツハが友達を呼ぶなんて初めてだからさ……特別な子なのかなってね。」
真瀬莉緒
「ぼ、僕がですか?」
マネージャー
「うん。これからもナツハのことよろしくね。……お、ナツハが来た。」
マネージャーさんが向いた方向を見ると、ファンシーな衣装を着た霧宮さんがいた。
霧宮ナツハ
「どう?私の撮影の雰囲気。すごいでしょう?」
真瀬莉緒
「はい。とってもすごいです!本当に有名なモデルさん何だな……って思いました。」
霧宮ナツハ
「そう……まあいいわ。」
カメラマン
「すみません!霧宮さん、撮影の方をよろしくお願いします!」
霧宮ナツハ
「…………はい!今すぐ行きます!……ごめんね。そろそろ行くわね。」
真瀬莉緒
「はい。いってらっしゃい。」
霧宮さんは頷き、グリーンバックのところへ撮影に向かった。
霧宮ナツハ
「すみません。よろしくお願いいたします!」
撮影をしている時の霧宮さんはとても笑顔だった。…………けれど……どこかその笑顔には楽しそうには見えなかった。
カメラマン
「いいよ!その調子で楽しそうに!そう!その表情最高だよ!」
霧宮ナツハ
「は……はい!」
カメラマンさんは気づいてはいないようだけど、僕は……なんとなく辛そうに見えた。
撮影が順調に進んでいると、先程のマネージャーさんとは別の人が来た。
??
「君かね。撮影の邪魔になっているのは。」
真瀬莉緒
「えっ……?あなたは?」
??
「困るんだよ君みたいな奴がいると……ナツハには稼いでもらわないといけないんだよ。」
真瀬莉緒
「………………。」
高圧的な人だ。心底から腹が立ってくる。
マネージャー
「チーフ。あまり彼のことを馬鹿にしないでください。大切な友人なんですよ。」
チーフマネージャー
「ふん。ナツハには必要のないものだと思うけどな。」
マネージャー
「な……!?」
チーフマネージャー
「まあいい……貴様はさっさと出て行くんだな。」
チーフマネージャーらしき男はそう言い残し去って行った。
マネージャー
「ごめんね。帰らなくていいからね。ゆっくりしててね。」
真瀬莉緒
「あ、はい……。ありがとうございます。」
僕は後味が悪いまま霧宮さんの撮影を見届けた。
しばらくすると霧宮さんの撮影が終わった。
霧宮さんは身支度を済ませてこちらにやってきた。
霧宮ナツハ
「終わったわ。今日はありがとう。」
真瀬莉緒
「いえ、貴重な経験でした。こちらこそありがとうございました。」
霧宮ナツハ
「そう……。良かった。じゃあ帰りましょうか。」
真瀬莉緒
「はい。」
帰り道
霧宮ナツハ
「はぁ……今日は一段と疲れたかもしれないわね。」
真瀬莉緒
「お疲れ様です。」
霧宮ナツハ
「ええ、ありがとう。あと……ごめんなさいね。チーフマネージャーの件で。」
真瀬莉緒
「あ、見てたんですか?」
霧宮ナツハ
「ええ、あの人はいつも私に対して厳しいのよ。私も腹が立つわ。」
真瀬莉緒
「ああ、あの人ですか……。」
霧宮ナツハ
「お疲れ様の一言もなく、何かをぶつぶつと言っているのよ。気味が悪いわ。」
真瀬莉緒
「……苦労しているんですね。」
霧宮ナツハ
「ええ……けれど今日は莉緒くんがいてくれたから少し楽しかったかも……。」
真瀬莉緒
「本当ですか……!?ありがとうございます。」
霧宮ナツハ
「ええこれからももしよければ見学に来ない?マネージャーも歓迎するわよ。」
真瀬莉緒
「それなら……お言葉に甘えていただきます。」
霧宮ナツハ
「決まりね。じゃあ、これからもよろしくね。」
真瀬莉緒
「はい。よろしくお願いいたします。」
その後も僕たちは楽しい帰り道を歩いていった。
六郭星学園寮 莉緒・ノクアの部屋
部屋に帰ると風亥さんが迎え入れてくれた。
風亥ノクア
「おかえり。今日はどうだった?」
真瀬莉緒
「そうですね。今日は霧宮さんの撮影を見学してきました。」
風亥ノクア
「おお。ナツハの撮影見学か!いいね!それで……?撮影はどうだったの?」
真瀬莉緒
「そうですね。とても良かったです。けれど、作曲の方はまだ進展できてはいませんが……」
風亥ノクア
「そうか……ちなみにコンセプトは莉緒くんの中では決まっているの?」
真瀬莉緒
「コンセプトですか?……まあ、一応……。」
風亥ノクア
「本当?……少しだけ聞かせてくれる?」
真瀬莉緒
「今ですか?…………構いませんけど……。」
風亥ノクア
「ありがとう!じゃあお願いします!」
真瀬莉緒
「……はい。」
僕はギターを持ち、弾き始める……。
曲を弾き終えると風亥さんはとても笑顔でこう言った。
風亥ノクア
「なるほど……その声優さんっぽいし、ナツハの特技も活かしていて良い曲だね。」
真瀬莉緒
「ありがとうございます。」
僕は素直にお礼を言った。
風亥ノクア
「ああ……良い曲だよ。……………………。」
真瀬莉緒
「…………?」
風亥さんは何かを考えているのか、少しだけ俯いていた。
真瀬莉緒
「風亥さん……?」
風亥ノクア
「ああ、ごめんね。…………今日はあのマネージャーに会ったのかなって……。」
真瀬莉緒
「あの高圧的なマネージャーですか?」
風亥ノクア
「会ったんだ……そっか……。」
真瀬莉緒
「風亥さんも知っているんですね。」
風亥ノクア
「ああ、あの人は腹が立って仕方がない。正直あの人には関わりたくないよ。」
真瀬莉緒
「やっぱり……。みんなそうなんですね。」
風亥ノクア
「ああ、だから莉緒くんも気をつけてね。」
真瀬莉緒
「ええ、わかりました。」
風亥ノクア
「お、そろそろ撮影の時間だ。じゃあ……出かけるね。」
そう言い、風亥さんは撮影に行った。
真瀬莉緒
「関わりたくないか……。」
あのチーフマネージャーの悪態は腹が立ってくる。僕はそれを忘れるために寝床に着くことにした。
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