第4章 オレンジ色のスポットライト (柊木アイ編) 前編
冬。アイの騒動も終わり、卒業も間近に迫ってきている。……しかし、私たちはあることに悩まされていた。……それは。
柊木アイ
「ここにXを代入して……そう。それでいいよ。」
そう、期末テスト。六郭星学園は期末テストは年度末の1度のみ行われる。
しかし、1度だけであるため、範囲は1年分の授業内容となっており、かなりの難易度である。
私たちは教室でテスト勉強に励んでいた。
柊木アイ
「……うーん。難しいね。」
真瀬志奈
「そうね……私もここまで覚えるのは大変だったわ。」
柊木アイ
「でも……ようやく難しい問題に出会えたよ。」
真瀬志奈
「そっか……アイって偏差値低い学校に通っていたわね……。」
柊木アイ
「うん。学費をかけたくないってことで無理矢理入れられたよ。」
アイの母親はアイに対してお金をかけたくない主義であり、学費の安さかつ偏差値の低い学校に無理矢理入らされた。今となっては合併されて、アイの偏差値に合った学校にはなっている。
ちなみにアイはクイズ番組によく出ている十森さんと言う方が学校に来た際に1対1の勝負に勝ったことがあるなど、学力には申し分ない。
柊木アイ
「まあ、あれは偶然だよ。きっと。」
真瀬志奈
「1問勝負だったからね。」
柊木アイ
「うん。……まあ雑談はこれくらいにしておいて、勉強の続きしよっか。」
真瀬志奈
「そうね。続きやりましょうか。」
そうして私たちは勉強に改めて取り掛かった。
柊木アイ
「………………。」
アイは一生懸命に取り組んでいる。アイの表情もかなり真剣になっている。
その真剣な表情に私は見惚れていてしまっていた。
柊木アイ
「ん?どうかしたの?」
真瀬志奈
「……えっ。いやべつに……。」
柊木アイ
「…………。」
真瀬志奈
「えっ……ちょっと……。」
アイは向かいの椅子から立ち上がり、私の隣に座った。
隣に座ったアイは私の手にアイの手を添えた。
柊木アイ
「ダメだよ。よそ見するのは……。」
アイは優しくそう言う。
真瀬志奈
「あ……ちょっと……。」
柊木アイ
「はい。隣で見てるから。勉強してください。」
真瀬志奈
「……はい。」
私は頬を赤らめるものの、アイの言われるがままに勉強を続ける。
柊木アイ
「そう、そこはそれでいいよ。その調子。」
真瀬志奈
「……はい。こうですね。」
柊木アイ
「うん。その調子……。」
こうして私とアイの勉強は数時間後にわたって行われた……
六郭星学園 廊下
数日後……私たちは勉強がひと段落し、作曲の練習のため、音楽室に向かっていた。
柊木アイ
「今日も練習頑張ろうか。」
真瀬志奈
「ええ、良い曲を作りましょう!」
音楽室に入ろうとした時、ゲーム音が聞こえた。
??
「ふふ……こうして……よし!」
真瀬志奈
「……?ゲームしているのかしら?」
柊木アイ
「ああ、あの子たしか……クラスは覚えてないけど……薮本マサキ(やぶもと まさき)君だね。たしかとあるゲーム番組が好きでそこのスタッフになりたいだとか言っていたな……。」
真瀬志奈
「そうなんだ。夢があるんだね。」
薮本マサキ
「……?どうかしましたか?」
声が聞こえたのか薮本さんは私に声をかけた。
真瀬志奈
「あ、いえ……すみません……。」
薮本マサキ
「いえ、こちらこそ……すみません、邪魔でしたよね……失礼します。」
薮本さんはそのままどこかへ行ってしまった。
真瀬志奈
「なんか……腰の低い方ね。」
柊木アイ
「たしかに!良い人ではあるのかもね。……さあ、そろそろ練習しに音楽室に入ろうか。」
真瀬志奈
「そうね。練習しましょう!」
私たちはテストが近いため練習は短めに行った。
六郭星学園 Eクラス
あれから数日後、期末テストの当日。
鹿崎咲也
「今日は期末テストだ!みんな悔いのないように勉強したよな!頑張れよ!」
クラスメイトたちが「はい。」と答える。
私も頑張らないと……!
鹿崎咲也
「それでは……テスト開始!」
その言葉で私は裏返したプリントをめくる……
テスト終了のチャイムが鳴る。
私のプリントは空白欄は無く、出来る限りの答えを出した。そして全員が提出した……
テストの結果は大広間にて貼り出される。1位から最下位まで名前が載る。貼り出されるまでの間、ドキドキが止まらない。
そして……結果発表当日。
柊木アイ
「いよいよ、結果発表だね。ドキドキだよ……」
真瀬志奈
「ええ……緊張するわ……。」
そして、テストの順位が貼り出される……
生徒の人数は700人前後……私たちの結果は……。
真瀬志奈
「50位……!なかなかの順位ね……!」
700人中の50位。少なくとも低くはないはず……!私は安堵した。
アイの方は……。
柊木アイ
「やった!6位だ!」
すごい……!700人中の6位はかなりの上位。とてもすごい結果!
月川タクト
「俺は……12位!やったぜ!」
夜坂ケント
「18位か……。まさか2人に負けるとはな……。」
そう言いながらも少し嬉しそうな夜坂さん。この1年で自然な笑みを浮かべるようになった。
月川タクト
「ケントも18位はかなりの上位だよ!」
夜坂ケント
「そ、そうか……?まあ、そう言うなら……そうしておこう。」
こうして……期末テストは終わった。
六郭星学園 音楽室
期末テストが終わり、再び練習を再開する。私たちはひたすら練習を行った。そして……
柊木アイ
「完成……だね!」
真瀬志奈
「ええ!これで完成ね。」
柊木アイ
「先生たち呼んで聞いてもらおうかな?」
真瀬志奈
「そうね。そうしましょう!」
私たちは鹿崎先生と笛花先生を呼んで聞いてもらった。
笛花奏
「……うん!これなら文句ないわ!」
鹿崎咲也
「ああ、とても良い曲だ!聞かせてくれてありがとう!」
先生方から太鼓判をいただいた。これなら……!
鹿崎咲也
「でも……この曲は元々……。」
柊木アイ
「はい……。」
そうこの曲は元々は声優さんが歌う予定だった。しかし、アイの親が逮捕されたことにより、声優さんの出演は取りやめになった。
柊木アイ
「でもいいんです。こうして曲を完成出来たのは嬉しいです。それに他にもこの曲を披露できる場所はいっぱいありますから……」
笛花奏
「そうなのね……まあ、仕方ないのかもしれないわね。また課題の時に聞かせてもらうわ。」
柊木アイ
「はい。お願いいたします。」
古金ミカ
「うん。こちらこそ。」
真瀬志奈
「えっ!?」
柊木アイ
「わっ!ミカ!?」
いつのまにかミカがアイの隣にいた。こんな感じでミカが出てくるのは久しぶりな気がする。
ちなみに今日は何も食べていない。
柊木アイ
「ミカ?何しに来たの?」
古金ミカ
「今日はご報告で〜す。」
柊木アイ
「報告?」
古金ミカ
「今度の柊木家主催のパーティーは古金グループと合同主催になりました!」
柊木アイ
「え!?それって……?」
古金ミカ
「色々とね……まあ、よろしくね〜!」
そう言ってミカは音楽室から出ていった。
柊木アイ
「…………。」
アイはずっと考え込んでいる。
ミカが何を考えているのか……そう考えているのだろう。もちろん私にもわからない……
真瀬志奈
「ミカは……何を考えているのかしら……?」
柊木アイ
「うん……なんだろう……?」
私たちは悩んだまま、練習を切り上げた。
六郭星学園 Eクラス教室
教室に戻ったアイは教室にある教科書を寮に戻そうとした。
柊木アイ
「……もうすぐで卒業か……。」
真瀬志奈
「……そうね。1年間だけだけど、とても楽しかったわ。」
柊木アイ
「そうだね。僕も色々とあったけど楽しかったよ!」
真瀬志奈
「アイ……。よかった。」
その時、パラリと1枚の紙がアイの手から落ちた。
柊木アイ
「あっ……。」
私はその紙を拾った。
真瀬志奈
「これって……」
その紙に書かれていたのは歌詞の書いていた楽譜だった。
真瀬志奈
「この歌詞って……。」
柊木アイ
「うん……。」
楽譜の内容はずっと練習していた教科書だった。
もしかして……アイは……。
真瀬志奈
「アイ……やっぱりあの声優さんに歌って欲しかったのね。」
柊木アイ
「……本当はね。……でももう無理なんだ。声優さんはイメージも大切になってくる。逮捕された富豪のパーティーなんて、参加しようにもできないよ……」
真瀬志奈
「まあ……そうよね。……。」
沈黙が走る……何か場をつなげないと。
真瀬志奈
「ねえ、アイ。よかったら今度、お弁当また作らない?」
柊木アイ
「お弁当?」
真瀬志奈
「私、あの時のオレンジ色弁当食べたいな!ねえ、いいでしょ?」
柊木アイ
「……うん、いいよ!それじゃあ、明日とかどうかな?」
真瀬志奈
「ええ、もちろんいいわよ!また屋上で食べましょう!」
私たちは約束をして、お弁当の準備に取り掛かった。
翌日……
六郭星学園 屋上
お互いにお弁当を作り、授業が終わったあとの昼休みに屋上に行く。
外は寒いが、雪も積もっておらず、降ってもいない。おまけに晴天で日差しで暖かさもある。
このくらいならここで食事をしても寒さに耐えれるだろう。
真瀬志奈
「うん、この気温なら大丈夫ね。」
柊木アイ
「そうだね。地面も濡れてなさそうだし、じゃあブルーシートを敷いて…………よいしょ。……じゃあ座ろうか。」
真瀬志奈
「ええ、ありがとう。それじゃあ、はい。」
私はサンドイッチを渡した。前と同じ、具材のサンドイッチ。そして、アイの方も……
柊木アイ
「ありがとう。はい、オレンジ色弁当。」
あの時と同じオレンジ色弁当。パプリカやニンジンを中心に入れたお弁当だ。
柊木アイ
「それじゃあ、いただきます。」
アイはとても美味しそうにサンドイッチを食べていた。とても嬉しい。
私もお弁当を食べる……あの時と変わらない。いや、あの時と以上の味だった。とても美味しい。
真瀬志奈
「前よりも美味しい。ありがとう!」
柊木アイ
「へへ、どういたしまして。……こちらこそありがとう!」
そう言われて私は嬉しくなる。
柊木アイ
「……少し寒くなってきたね。」
真瀬志奈
「本当ね。そろそろ教室に戻る?」
柊木アイ
「そうだね……戻ろうか。」
私たちは教室に戻ろうと屋上の階段を降りて、廊下を歩く。すると校内放送が流れる。
校内放送
「3年生Eクラス、真瀬志奈さん、柊木アイさん。応接室まで来てください。」
応接室……?私たちは何かをしたか心当たりはない。
柊木アイ
「なんだろう……?ひとまず行こっか。」
真瀬志奈
「そうね……怒られなければいいけど……。」
私たちは不安を胸に抱きながら応接室に向かった。
六郭星学園 応接室
真瀬志奈
「失礼します。」
柊木アイ
「失礼します。」
鹿崎咲也
「来たな。2人にすごいお客様が来たぞ!」
柊木アイ
「えっ!?」
真瀬志奈
「あなたは……!」
そこにいたのは本来パーティーで歌う予定だった、声優さんだった。
柊木アイ
「……この度は申し訳ありません。うちの母親が大変ご迷惑をおかけしました……。」
アイが謝罪をすると、声優さんは笑顔で大丈夫、大丈夫と言ってくれた。
今日はどんな用事で来たかと言うと、パーティーの出演を取りやめたお詫びにお会いしたのと、歌う予定だった曲の歌詞や音源を聞いてみたいとのことだった。
柊木アイ
「わかりました。今すぐ取りに行きます。」
アイはすぐに楽譜と音源を用意しに自分の寮の部屋に行った。そして、戻るとすぐに楽譜を渡した。
声優さんはその楽譜をじっと見つめて、何個か質問をした。
柊木アイ
「そうですね……こちらはですね……」
アイと声優さんは真剣な表情でその曲に対して意見を交わしていた。アイの真剣な表情を受け止めたのか、声優さんは笑顔になった。
柊木アイ
「あ、ありがとうございます!」
アイはその後、音源を掛けた。声優さんはそれを目を瞑り、ひたすらと聞いていた。
柊木アイ
「ど……どうですか?」
声優さんは笑顔でこくりと頷いた。
柊木アイ
「…………。」
アイは少し笑みを浮かべる。
その後は軽く雑談をして、声優さんは応接室から出ていった。
柊木アイ
「いやあ……びっくりした……。まさか来てくれるとは思わなかったよ……。」
真瀬志奈
「そうですね。……あれ?楽譜がない?」
柊木アイ
「あっ本当だ。……どうしよう……。」
真瀬志奈
「……切り替えましょう。私たちでまた作り直せばいいじゃない!」
柊木アイ
「そっか……そうだね!じゃあ早速帰ってから作るよ!」
真瀬志奈
「ええ、私も手伝うわ!」
私たちはひたすら楽譜を作り直した……
そして……
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