第2章 黒い魔の手 (月川タクト編) 後編

六郭星学園 廊下


今日も作曲をしに音楽室に行くが、放課後の掃除が長引き、練習に遅れそう。急いで行かないと。


真瀬志奈

「はぁ…はぁ…音楽室に着いた……」


音楽室のドアに手をかけた時…


??

「行かせないわよ。」


真瀬志奈

「三蜂さん……!?」


三蜂さんに腕を強く掴まれた。この人はまだ私たちを疑っているのだろうか……


三蜂レンカ

「あなた、付き合っているんでしょ。あいつと。」


真瀬志奈

「つ、付き合っている……!?」


三蜂レンカ

「とぼけんじゃないわよ!恋愛なんて不要!これ以上あなたたちが付き合うのなら私にも考えがあるわ!」


真瀬志奈

「なっ…!私たちは付き合ってなんか……!」


その時、音楽室のドアが開く。そこには月川くんがいた。険しい表情で。


月川タクト

「その手を離せ……!」


三蜂レンカ

「ひっ……!?」


月川くんの威圧感に恐縮した三蜂さんは逃げるようにその場を去った。


月川タクト

「志奈さん大丈夫?あいつに何かされなかった?」


真瀬志奈

「はい……なんとか。大丈夫です。ありがとうございます。」


月川タクト

「そっか…良かった……。」


真瀬志奈

「あの…さっきの話聞いてましたか?」


月川タクト

「うん……まぁ…気にしなくて良いよ。付き合ってはいないのは事実だからね!」


真瀬志奈

「そ、そうですよね……。はい。」


満面の笑みで月川くんに言われ、ホッとした反面、少しモヤモヤを感じる。それは月川くんの方にもあった。そんな表情がどことなく感じた。


月川タクト

「……。志奈さん、練習しよっか。」


私は黙って頷き、音楽室に入ったがその日はあまり上手くいかなかった……


真瀬志奈

「……。」


月川タクト

「志奈さん……。今日はもう帰ろうか。」


真瀬志奈

「そうですね……。」



六郭星学園 校門前



真瀬志奈

「あ……雨……。」


雨が降っていた……傘……忘れた……。


月川タクト

「志奈さん、傘忘れたの?」


真瀬志奈

「はい……。」


月川タクト

「じゃあこれ。貸してあげる。」


月川くんは私に若竹色の傘を渡してきた。


真瀬志奈

「えっ……月川くんは……?」


月川タクト

「走ればそこまで濡れないよ。」


真瀬志奈

「それはちょっと……。申し訳ないです。」


月川タクト

「いいって!大丈夫大丈夫!」


真瀬志奈

「月川くん……。」


月川くんの傘を借りるのは申し訳ない……


真瀬志奈

「月川くん一緒に入りませんか?」


月川タクト

「一緒に……?」


月川くんは目を丸くしてそう言った。


真瀬志奈

「ダメですか?」


月川タクト

「いや……ダメじゃないよ!じゃあ行こうか。」


真瀬志奈

「はい。行きましょう。」


雨が降る中、私たちは相合い傘をしながら歩いた。

月川くんは鼻歌を歌いながら道中を楽しみながら歩いていく。


私は月川くんの鼻歌を、聞く……とても綺麗な鼻歌……私はいつの間にか聞き惚れていた。私まで楽しくなった。


月川くんの曲には人を楽しませることが、できるとそう思った。私も作曲を頑張らないといけないな。そのためにはひたすら精進しないと。


月川タクト

「志奈さん。これからまた頑張ろうね。」


真瀬志奈

「……はい。」


私たちは雨だけど少し楽しい道中を過ごした……。



六郭星学園 図書室


三蜂レンカ

「あぁ、もう!どうしたらあの2人別れないのかしら!無駄なものなのに……!」


??

「あの…別に良いのでは……?校則的には問題なんて無いですし……。」


三蜂レンカ

「アイラは黙ってて!これは私にとっては問題なの!」


柚木アイラ

「は……はい……すみません。」


三蜂レンカ

「……はぁ、こんな時に新聞記事の整理だなんて……私はあの2人をどう始末するか決めないといけないのに…」


三蜂レンカ

「……ん?この記事…?」


――月川一家交通事故事件まとめ――


三蜂レンカ

「……ふふ。」



六郭星学園 文化祭当日



今日は文化祭。年に一度のお祭りで、六郭星学園にとっては記念すべき最初の文化祭。

休み時間は騒がしい廊下も今日はずっと騒がしくなる。先生も生徒も関係なくお祭り騒ぎ。


私は劇が始まるまでの間、月川くんと柊木さん、夜坂さんの4人で模擬店を回っていた。


柊木アイ

「よし、次はどこに行こうか!」


夜坂ケント

「柊木、楽しいのはわかるけど、落ち着け。」


柊木アイ

「えぇ?こんなお祭りの日だよ!もっと楽しもうよ!ね、タクト!」


月川タクト

「ああ!ケントも少しは楽しもうよ!」


夜坂ケント

「うっ…まぁ今日だけは仕方ない……今日だけだぞ。」


柊木アイ

「やった!じゃあ次はあそこに行こうよ!ほらほら!」


柊木さんに押されながら模擬店に向かう夜坂さん。月川くんと2人になった時…

莉緒達がこちらにやって来た。


古金ミカ

「お!カップル発見!ヒューヒュー!」


真瀬志奈

「かっ……カップル!?」


来川ナナ

「ミカ。あまり囃し立てないの。」


古金ミカ

「えー!?良いじゃない!恋愛なんて禁止されて無いんだから!ほらほら、チューっと……」


柊木アイ

「ミカ!何やってるの!」


古金ミカ

「げっ!?アイだ!逃げろー!!」


柊木アイ

「あ、こら!まて!」


古金さんはそのまま逃げるように走り、柊木さんも追いかけた。


来川ナナ

「…すみません。ミカがあんなことを…。」


真瀬志奈

「い、いえ!謝ることでは……。」


月川タクト

「そ、そうだよ。気にしてないから大丈夫だよ。」


来川ナナ

「ホッ……ありがとうございます。」


星野シキア

「それよりもタクト。あなた、まだ作曲してるの?」


月川タクト

「作曲?もちろん。やってるに決まっているじゃん。」


星野シキア

「そう……まだやるのね。」


月川タクト

「……。」


その一言に眉をしかめる月川くん。それを見た莉緒が和ませようとした。


真瀬莉緒

「……タクト!その作曲さ、俺にも聞かせてくれないか?聞いたことなくてさ、この機会に聞いてみたいな!」


月川タクト

「……ああ、いいよ。じゃあ音楽室行こうか!」


古金ミカ

「お、面白そう!私にも聞かせて!」


柊木アイ

「ミカ!まだ話は終わってないよ!」


月川タクト

「いいよ!アイももう良いじゃん!2人もおいでよ。」


そのまま月川くんはみんなを連れて音楽室に向かう。幸いにも音楽室は使用されてなく、月川くんはギターを手に取り、私はピアノに手をかけた。


柊木アイ

「2人がどんな曲を作ったのか…楽しみ!」


夜坂ケント

「……タクト。真瀬さん。期待しているぞ。」


来川ナナ

「ふふ…。」


星野シキア

「…………。」


月川タクト

「志奈さん。行くよ。」


真瀬志奈

「はい。」


私たちの練習の成果を見せる時……これが私たちの今の精一杯の努力……!


曲を弾き終えたあと、音楽室には静寂が走る。

その静寂を掻き消したのは古金さんだった。


古金ミカ

「すごい……!これが、2人の曲……!最高だよ!」


この一言を機に称賛の声が止まらない。

……星野さんを除いて。


星野シキア

「……。」


月川タクト

「シキア……?」


星野シキア

「いや、なんでもないわ。それよりもそろそろ劇の時間じゃないの?」


月川タクト

「あぁ……。そうだったね。準備に向かうよ。」


星野シキア

「……。何かわからないけど、気をつけて。何か嫌な予感がするの。」


月川タクト

「嫌な予感?大丈夫。そんなの無いって!」


星野シキア

「そう……なら良いけど。」


真瀬志奈

「あ、あの嫌な予感って……」


星野シキア

「この劇のナレーションの子、声が出ないみたいで、別クラスの子が担当することになったの。」


真瀬志奈

「別のクラス…の子……?」


星野シキア

「三蜂レンカ。彼女が受けるみたいよ。」


夜坂ケント

「三蜂が……!?」


来川ナナ

「大丈夫なの…!?三蜂さんって何するかわからないわよ!」


星野シキア

「えぇ、だから少し不安なのよ。2人共気をつけて……。」


月川タクト

「だ…大丈夫だって!さすがにこの大舞台でやる勇気なんてないよ!」


柊木アイ

「タクト……。」


月川タクト

「大丈夫!さぁ、みんな行こうよ!俺たちの劇を楽しみにしている人たちもいるからさ!」


月川くんはそう言って体育館に向かった。


真瀬志奈

「月川くん……。」


星野シキア

「……無理しないでね。」


真瀬志奈

「はい……。」



六郭星学園 体育館



劇の準備ができ、私は若竹色のドレスが衣装。月川くんが好きな色だ。私はお天馬なお姫様役で月川くんはそのお姫様に恋を抱く、ドレス職人だ。


月川タクト

「志奈さん、頑張ろう。」


真瀬志奈

「はい。」


そして、開演のアナウンスが響く。


三蜂レンカ

「ただいまより、Eクラスによる公演を行います。」


開演のブザーが鳴る。


柊木さんや夜坂さんも一生懸命に演じる。何事も無く進んでいく、そして終盤に近づく。


月川タクト

「あの……その若竹色のドレス……似合っています……。」


真瀬志奈

「本当に?ありがとう!あなたのプレゼント、気に入ったわ。」


月川タクト

「良かったです……。僕は…あなたの為にこのドレスを作りました。」


真瀬志奈

「そう、ありがとう。でも、これじゃ足りない。あなたの気持ち、教えて欲しいわ!」


月川タクト

「……お姫様!」


月川くんは私の手を取り、私は月川くんの体に包み込まれる。


月川タクト

「僕の好きなその色で、あなたのことを僕の色に染めたい。……姫、好きです。」


真瀬志奈

「あ…なた……。」


その言葉は役ではあるものの月川くんとリンクしてしまい、私はドキドキしてしまう……。うぅ……。


真瀬志奈

「あなたが言うのなら……私を……。」


スポットライトは若竹色に光る。その光は私たちを覆い、口づけを交わすふりをする。そして、閉演のブザーが鳴り響く。


鳴り響く音、それと共に大勢の人の拍手が鳴る。


劇が終わり、出演者は舞台に並び一礼をする。


三蜂レンカ

「公演は以上になります。今一度大きな拍手をお願いいたします。」


拍手が鳴り、三蜂さんが話をする。


三蜂レンカ

「主演でありますこの月川タクトさんは幼少期の頃にとても大変な過去をお持ちなんです。」


柊木アイ

「あれ……?こんなのあったっけ?」


会場がざわめく、関係なしに三蜂さんは語る。


三蜂レンカ

「月川タクトさんは孤児院出身の方でありますが、何故彼が孤児院で暮らすことになったのか……」


月川タクト

「お……おい……。」


三蜂レンカ

「彼の実の父親は車にはねられて亡くなりました。その加害者は反省をしておりましたが、遺族からの怒り、家族からの絶縁を切り出されおかしくなりました。」


夜坂ケント

「お、おい……これって……!」


月川タクト

「……やめろ。」


三蜂レンカ

「加害者はおかしくなり遺族である、月川タクトの実の母親は殺害。さらには加害者の妻は顔の原型が留められていないほど殴られ死亡。実の子供も身体がバラバラにされておりました。」


真瀬志奈

「三蜂さん……?」


月川タクト

「……おい!やめろ……!やめてくれ……!」


三蜂レンカ

「そして、加害者は――」


月川タクト

「やめろ……!」


三蜂レンカ

「行方不明になりました。」


月川タクト

「やめろぉぉぉぉぉぉ!」


隣でドサッと音がなる。


真瀬志奈

「月川くん!!」


夜坂ケント

「月川!大丈夫か!?」


柊木アイ

「誰か!タクトくんを保健室に!」


会場がざわめく、先生も慌てふためく。その隙に三蜂さんは逃げるように会場を出て行った。


来川ナナ

「月川……さん……!?」


古金ミカ

「…………!?」


さすがの古金さんも動揺を隠せていない。


真瀬莉緒

「柊木くん、夜坂くん!保健室の先生は救急車を呼んだらしい!月川をそのまま横にして!」


柊木アイ

「わっ、わかった!」


真瀬志奈

「月川くん……!無事であって!」


星野シキア

「タクト……。」



六郭星学園 Eクラス教室



柊木アイ

「……タクトくん、大丈夫かな?」


来川ナナ

「……多分、私の親の病院だから、すぐに治療とか出来るとは思うけど……」


古金ミカ

「ね、ねぇ……三蜂の言ってたことって本当なの……?」


星野シキア

「……えぇ。本当よ。私も詳しくは知らないけど、私が聞いてたこととほとんど合ってるわ。」


真瀬莉緒

「そんな……タクトにそんな過去が……!」


真瀬志奈

「莉緒も知らなかったのね…。」


実は莉緒は月川くんのルームメイトであるため、月川くんのことを知っている。


そこへ風亥さんが、やって来た。


風亥ノクア

「皆さん!タクトが倒れたって……!」


真瀬志奈

「風亥さん……そうなんです……。私、不安で不安で……。」


風亥ノクア

「真瀬さん……大丈夫。きっと……。」


夜坂ケント

「三蜂のやつ……!あいつはどこに行った!」


柊木アイ

「ケント!落ち着いて!彼女は今先生方が探しているから!」


夜坂ケント

「くっ……すまん。」


柊木アイ

「ん……?ケント、その腕って……。」


夜坂ケント

「な、何でもない!」


柊木アイ

「ケント……?」


夜坂ケント

「……。」


教室全体が沈黙に侵される。そこに――


三蜂レンカ

「どうやら集まっているみたいね。」


古金ミカ

「レンカ……!」


夜坂ケント

「何しに来た!お前があんなことをしたから!」


三蜂レンカ

「あんなこと?そんなの恋愛したからでしょ。」


星野シキア

「いくらなんでも……そんなことで……!」


三蜂レンカ

「いい?あなたたちも恋愛したらこうなるからね。せいぜい気をつけることね。」


三蜂さんはそう言って教室から出て行った。


来川ナナ

「あんまりだよ……。彼女は何であんなことまでして嫌がるの?」


夜坂ケント

「ああ……そもそも何故あいつは月川の事故の話を知っていたんだ?」


??

「それは……あのファイルを見たからです。」


風亥ノクア

「えっ……君は……?」


柚木アイラ

「私は柚木アイラ(ゆずき あいら)と言います。三蜂レンカと同じクラスです。」


来川ナナ

「柚木さん。先ほど言ったファイルって……?」


柚木アイラ

「そのファイルには……月川さんに関わる……ファイルが……あります。」


真瀬志奈

「そんなファイルが……?」


柚木アイラ

「はい……。そのファイルを見た三蜂さんは……」


真瀬志奈

「………………。」


なんだろうこの気持ち……許せない……それ以上の感情が込み上げている。

でも何で私は月川くんのことを考えているんだろう。この気持ち……もしかして……。


鹿崎咲也

「みんな!ここにいたか!月川が目を覚ましたぞ!」


柊木アイ

「本当ですか!」


鹿崎咲也

「ああ……ただ……目を覚ましたんだが……。」


夜坂ケント

「何かあったんですか?」


鹿崎咲也

「記憶を失っている……。」


真瀬志奈

「……!?」


そ……そんな……!


月川くん……!!

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