第十章 第5話
家壁に肩を強く叩きつけるようにして倒れた
その場に引きずり込まれるようにして、崩れ落ちていく……。
手の届く距離にいた
「どうしよう、劉彗が。劉彗が……っ!」
「傷口から毒が? まずいな」
恐らく、この街に安全な場所はない。莉恩は両の手を組み合わせ、祈るようにその手を唇へ押し当てた。こんな状態の劉彗を連れて、長距離の移動はできない。
――不意に、一人の顔が脳裏に浮かんだ。
「
「この先に、凌安先生の家があるの。あの人なら……」
漣壽はすぐに察したように、大きく頷き返した。
「わかった、そこへ運ぼう。莉恩、案内してくれ」
「
なりふり構わず凌安の家の門前で声を上げると、暫くして中から人の出てくる気配がした。扉を開けたのは、
目の前にいるのが莉恩と知ると、驚いたようにその目を見開く。
「お嬢さん、王都へ戻ったんじゃなかったのかい?」
「先生、どうしよう……劉彗が。劉彗が、死んじゃう!」
悲鳴にも近い声を上げて胸にしがみついてきた莉恩に、尋常ではない事態が起こっていることを察したのだろう。二人の男に肩を抱かれた劉彗を目にした途端、彼の軽口は鳴りを潜めた。
「一体何があった? ……いや、まずは中へ入りなさい」
凌安の対応は、思っていた以上に手際が良かった。二人の男の手を借り、劉彗を布団へ寝かせる。衣服を脱がせ、素早く腕の傷を検分。その間に莉恩へ、
襖に手を掛けたところで、一度。劉彗のことが気に掛かり、振り返った。
今は半身を脱がされた劉彗の、床の上に投げ出された着物の袖。それは今、重く血を吸い。ぐっしょりと朱に濡れている。
不意に。
幼い頃に見た、血にまみれた花唐草の着物が。眼前に色鮮やかに蘇った。
――劉彗は、大丈夫……。
胸を締め付ける息苦しさに。莉恩はそっと、その目を伏せた。
熱と、
時折苦し気に上げる
「
一通りの手当てを終え、劉彗の様子をしばらく観察していた凌安が。腕組みしたままに呟く。莉恩はその言葉に思わず顔を上げた。
「猛毒、ですよね」
「ああ。
いや、それよりも……。
「これ以上我々にできることはない。あとは劉彗の生命力を信じるしかないな……」
劉彗に、視線を落としたままに。
「凌安先生……」
「なんだね」
名を呼んだ、莉恩の声に。凌安は沈痛な面持ちのまま言葉少なに返す。
「解毒剤……が。必要ですよね」
凌安は一瞬、莉恩の言葉の意図を図りかねるように目を細めた。だがすぐに普段の冷静さを取り戻し。今度は言葉を選ぶようにして、ひどく慎重に。その口を開く。
「斎国に……。
「……はい。現在知られている限り、
莉恩は確認するように。膝の上に乗せていた右手の指を三本立てる。
「大陸の北の大国、
「莉恩……、君は…………」
しかしその声に被せるようにして。
部屋の隅にいた男が鋭い声を上げたのはその時だった。
「
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