人間不信の俺が異世界で理想のハーレムを作るお話。

行記(yuki)

#001 プロローグ 売られゆく奴隷の少女

 ――――どこからともなく漂うスエた臭い。店内は一見綺麗だが、裏稼業を思わせる独特の雰囲気が立ち込めていた――――


「安い女の奴隷を」

「安い、ですか……」


 ――――地味ではあるが質の良い仕立て。細身ではあるが引き締まった肉体。そして何より鋭い目つき。その姿は冒険者のソレだが、表情だけ見れば殺し屋か、それこそ殺人鬼を連想させるものであった――――


 チッ! コイツもハズレ。高価な装備に一瞬期待したが、けっきょくコイツも金・金・金! この街は奴隷の仕入れは困らないものの、客単価は安く、何より客の質が最悪だ。とくに冒険者は暴力を生業にするクズの集まりで、最終的には剣をチラつかせて値切ってきやがる。


「種族や状態は問わない。いや、むしろ悪い方が良いな。欠損持ちでも、死にかけでも、居るならソレを頼む」

「なるほど、でしたら……」


 一般的に冒険者が奴隷を購入する目的は3つだ。

①、戦闘奴隷(傭兵)。商人だと護衛目的である程度戦える奴隷が好まれるが、冒険者だと専属の荷物持ちサポーターの場合も。


②、売春奴隷。長旅の際の性処理要員。個人で購入するのは珍しいが、収入次第では手垢のついていない者を購入し、飽きたら捨てると言った使い方もできる。


③、生餌。血の臭いに敏感な魔物をおびき寄せるのに使われる。奴隷も安くはないので個人がこの使い方をするのは珍しい。


 この客は一見③に見えるが…………俺の見立てでは別。単純な娯楽として自由に殺せる女を求める、生粋のサディストだ。できれば関わりたくも無いが、バカとクズは使いよう。処分に困っていた"訳アリ"を押し付けるのに使えそうだ。





 ――――動物小屋を思わせる檻の森。その檻は列ごとに大きさや機能に違いがあり、そのグレードを明確に表していた――――


「おい! 客だ。まだ生きているか?」

「…………」


 完全に精神が壊れちまっているが、それでもまだ息はある。どの道すぐに死ぬ事になるだろうが、商談が終わるまでは生きていて貰わなくちゃいけない。


「なにチンタラしてやがる! さっさと支度しろ!!」

「は、はい」

「………………」


 ――――痩せこけた奴隷が、無反応の少女の体をふきあげていく。その体は酷く汚れ、無数の傷に覆われているものの…………白い肌、金の髪、緑の瞳に、知的で整った容姿。少女ゆえに発育は今一つだが、本来ならば将来を期待されていたであろう事は疑いようがない――――


「ほら、お客様がお待ちだ。これが最後。死ぬ気で媚びろ。さもなくば…………魔物のエサだ」

「「…………」」


 ――――無骨な首輪が少女の体を強制的に移動させる。絞まる首も、肌を切りつける石畳の感覚も、少女には耐えがたい苦痛のはずだが…………彼女の精神はもう、それすらも感じなくなっていた――――





「お待たせしました。コチラなど如何でしょう? 只今ある在庫の中では最も安い商品になります」

「…………」


 ――――冒険者に差し出される無抵抗の少女。その姿はあまりにも酷く、一般的な価値観を持つ者なら目を逸らしても不思議の無い状態であったが…………彼は動じない。それどころか慣れた手つきで少女の体を確認していく――――


 まだ生きているのが不思議なほどの訳アリ。普通なら買うだけ損だが…………この男、やはり喰いついたか。


「酷い状態だな」

「はい。辺境で暮らしていたエルフの子供ですが"事故"で身寄りを失いました。その際、両足と左手を失い、ご覧の通り体にも無数の傷が残っております。ですがご安心を、まだ初物です。たしょう手間ですが、育てれば(種族的に)発育も期待できるかと」


 ――――事故とは方便で、実際には奴隷狩りの被害者。父親はその場で殺され、母親は後の宴で輪姦された際の負担に耐えきれず死亡した――――


「栄養状態は劣悪、傷も…………新しいものが多いように見えるが?」

「よく、転びます故」


 ――――少女は奴隷狩りの際に左手を失った。しかしそれでも、最初のうちは売り物として丁重に扱われていた。しかしながら移送途中に起きた脱走騒ぎで、見せしめとして両足を切断されてしまった。ここまで来ると商品価値は無いに等しく、ろくに食事も与えられず死を待つ状況であった――――


「まぁ、むしろ都合がいいか……。よし、この娘を買おう」

「はい、それでは……。……」


 よっし! 値切られる事も無かったし、趣味嗜好がクソなだけで、案外上客じゃねぇか。これなら今後も期待できるかもしれないな。




 ――――奴隷の権利は法律で守られている。しかしながらソレが守られるのは日の当たる場所だけであり、郊外や治安の悪い街ではその規則は適応されない。度重なる悲劇に耐えきれず壊れた少女の精神も、その事は朧気に理解できていた――――

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