第4章

第56話 みやの能力

不格好だが、そこら辺の木を丸ごと引き抜いて簡単に作った古屋の中で、マンタティクスは目を覚ました。


「……僕は……生きてる……」


周りには木の香りが漂い、暖かな光が木の隙間から差し込み、部屋に穏やかな明るさをもたらしていた。


「……っ!?!?」


ある事を思い出して焦りにより飛び起き外に出る。


「起きたか、マスター」


「ネバーさん……よかった」


どうやらネバーは消えていないようだ。

安堵と共に自分では解らないがまだ戦う意志があるのだと自覚する。


「良かった?」


「いや、何でもありません……それよりも今はどう言う状況ですか?」


最後の記憶は曖昧だ、身体に苦痛が走る中、ネバーの冷たい瞳と、何か悪い事が起こる予感に包まれ力を振り絞り何かを言った気がする程度……今の状況を見るに運良く逃げてきたか__


「魔王を封印した」


「やっぱり……」


そう、魔王を倒し__ん?


「封印?」


「あぁ、どうやらそれが私の魔法らしい」


「相手を封印するのが?」


「そうだ」


……この人は本当に何でもできるんだな。


「でも封印ってどこに?」


「それは__」


「ゎたしの中だょ」


幼い女の子の声に振り向くと先ほどの古屋の入り口に魔物の皮で編み上げられた服を身に纏ったみやが立っていた。


「みや!」


「ゎたしのここにまぉぅ様がぃる」


彼女は服をめくるとパンツも履いてない大胆な状態で腰の辺りに広がる魔法の紋様を見せた。


「わーわーわー!!」


すかさず、マンタは手で目を隠し、みやの裸を見ないようにした。


「みや、そう言う事はマスターの前でやるんじゃない、困っているだろう」


「……別に裸見られるの初めてじゃ無ぃのに……」


みやはマンタの行動を疑問に思いながら服を元に戻す。


「服を着ることで人の印象が変わり、見え方が魅力的になるという心理的な問題だ」


「そぅなの?」


「そうだ」


「あ、あの!もういいかな?」


「いいぞマスター」


「ど、どういうことなの?」


「言っての通りだ、封印には封印先が必要なのか解らないが、みやの中にあの魔王が封印されている」 


「ぅん、奴隷の印は消えてないからまぉう様は生きてる」


「現実味を帯びない話だなぁ」


「それともう1つ、分かった事がある」


「?」


「あの魔王がどうして私を人間と見抜いたか」


それを聞き、みやの目にヘビの紋章が浮かび上がった。

その瞬間、何か不思議な力が彼女に宿ったように感じられる。


「マンマティクス__職業テイマー、現在は犯罪者、レベル32、異能は『作成』」


「え?う?え?作せ……え?」


「私はまぉう様の異能を使えるの」

 

「ええええええええ!?」


仮にも“魔王”の座についていた者の能力だ、そんじょそこらの物とは比べ物にならない。


「マスター、私たちは魔王を倒したんだ、これくらいの報酬があってもいいだろう」


「そ、そうだけど……」


チラッとマンタはみやの方を見る。


「なぁに?」


「い、いや……その、こんな事言うのもなんだけど良いの?僕達は魔王を倒しちゃった仇なんだけど」


「ぅーん、わかんなぃ」


「分かんないって……」


「わかんなぃんだもん、みやは農場で育って何も知らなぃし、農場のみんなも……それにぃまはまぉう様の元に行かないと!って気持ちにならなぃしみやもどぅしてぃいかわかんなぃ」


「そ、そっか……ごめん」


「ん!」


みやは手を広げる。


「????」


「ん!!!みゃは頭がパニックになりました、抱きしめて!」


「ええ!?!?」


いきなりの状況にマンタはネバーの方を見て助け舟を出すが……


「相手は子供なんだから頭も撫でてやれマスター」


寧ろ要求を増やしてきた。


「僕の考えがおかしいのかなぁ」


観念してみやを抱きしめ頭を撫でてやる。


「ぇへへ、ぁりがと、マンタ♪」


「え?えーっと……どういたしまして」


からかわれたのか本当に落ち着いたのか分からないが……みやが落ち着いたのでマンタは話を続ける。


「話を戻すけど、その異能で僕を見たら色々とわかるの?さっきレベルって言ってたけど、それって扇風機とか物の強弱に使われるやつだよね?」


「ぅん、みゃたちの世界ではそうだけどネバーの世界ではちがぅみたぃ?」


「そうなんですか?」


「あぁ、私達の世界ではその人の強さの数値としても扱われる、その話をみやにしたら適応されたみたいでな……つまりこの能力はまだまだ使い方が未知数にあると言うことにもなる」


ちなみにネバーが言ってるのはテレビゲームの事だが、この世界にはボードゲームはあるがもちろんまだテレビゲームは存在しない。


「僕って確か32って言ってたよね?どれくらいだろう?」


「みゃはレベル3でネバーはレベル546だょ」


「周りが極端すぎて普通がわからない!」


「そこら辺の奴を捕まえて見てみるか?マスター」


「いや!そんなことしなくていいから!」


「マンタおもしろーぃ」


「まったくもう……」


何はともあれ、新しい仲間の加わったマンタ達だった。


____________



______



__


「起きたか、みや」


「……」


「マスターはまだ寝ているのか?」


「ぅん」


「お前、その目__」


マンタティクスが起きる前、先にみやが起き、異能の事を知った。


「…………私を見てくれ」


みやの目にヘビの紋章が浮かび上がる。


「ネバー、異世界からの転生者、人間、__性格、暴力的」


「……」


何げない情報……だが薄々感じていた事が確信に変わった瞬間だった。


「…………」





自分の性格が変わっている。




…………暴力的。


蘇るいじめられていた記憶。



今なら理解できる。

その時、俺をいじめていた連中の気持ち……




「これは……少し考えないといけないな」




ネバーは自らの心を今後見失わない様に決心するのだった。





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