第32話 行きたくない行きたくない逝きたくない!!!


 「お父さん!お母さん!」


 クリスタルドラゴンが現れ、崩れた家の瓦礫の下に2人の魔族とその子供……


 「お父さんお母さん!逃げないと!」


 必死に声をかけるが2人はもう動かない。


 「お父さん!お母さん!お父さん!お母さん!」


 「うわぁぁぁぁぁあ!!!」


 マンタティクスの大きな悲痛な叫びはその日だけは小さな一つだった。


 __________



 ____



 __


 《地下 武器庫》


 現在、武器の全て出払い、避難用シェルターとして使用されている。


 「…………」


 ぎゅうぎゅうに詰め込まれた状態の魔族達の中、出来るだけ冒険者と思われないような服にわざわざ着替え、シェルターに来たマンタティクスは隅っこの壁に体育座りで心を消していた。


 「……」


 何も考えない。

 感情も出さない。

 その方が楽だからだ。

 

 「……」


 近くを通る他の魔族達も声をかけない……その状態のマンタティクスはここでは普通だから……


 寧ろ何も声を出さないだけマシな方だ。

 周りにはクリスタルドラゴン討伐に夫を強制連行された人や前のクリスタルドラゴン襲来がトラウマでブツブツ言いながら頬を掻き続ける者も居る。


 「……」


 ここには誰一人もプラスの感情を持っている者はいないだろう。

 

 「お、おい、あれ見ろよ」


 「ほんと、何考えてるのかしら」


 そんな中、わざわざ“冒険者の格好”でガシャガシャと音をたてながら歩いている奴がいた。


 「冒険者は討伐に行ったはずだろ」


 「……」


 ぎゅうぎゅうなはずなのにその冒険者の周りから円状に離れていく。


 「……」


 そして__


 「__居た」


 その冒険者は真っ直ぐとマンタティクスの方へ。


 「……」


 「……おい」


 「……」


 「迎えにきたぞ、マンタ」


 「……」


 「ほら、早く」


 冒険者、ライトはマンタの腕を掴み強引に連れて行こうとする。


 「離して!僕なんてほっといてよ!」


 先程の魔王城の時の様に振り払われる。


 だが、今度は場所が違い、それを見ていた周りの声がヒソヒソと聞こえてくる。


 「(迎えにきたって言った?あの冒険者)」


 「(てことは、あの人も冒険者?)」


 「(逃げたいって気持ちはわかるけど……)」


 「(魔王様の目を盗んで着替えたの?そんな事……)」


 ヒソヒソ話はヒートアップしていき、ついには声を上げる者まで出始めた。


 「冒険者はさっさと災害討伐に行け!」


 「そうよ!あなた達だけズルいわ!」


 「そうだそうだ!俺の息子は強制的に行ったんだぞ!」


 そう。


 相手は災害クリスタルドラゴン……誰一人として死にに行きたくないのだ。


 だが冒険者は別。


 元々町の周辺を守るのが主な仕事と言う職業。


 クリスタルドラゴンが災害であれ魔物ならば戦わなければいけないのは道理である。


 「早く行けよ!冒険者!」


 「いーけ!いーけ!」


 マンタとライトに浴びせられる言葉。


 押しつぶされそうなプレッシャーの中__


 「黙れええええええええええ!!!」


 「っ!?」


 静寂を斬ったのはマンタ本人だった。


 「なんでみんなそんな事言うの!相手はクリスタルドラゴンだよ!?僕なんか行ったって死ぬだけじゃん!」


 「……」


 「みんなが僕に言ってることは死にに行けって事だよ!解ってて言ってるんでしょ!」


 「マンタ」


 「僕は嫌だよ!みんながなんと言おうと__」


 「マンタ!」


 「っ!?」


 必死に訴えるマンタをライトは思いっきりぶん殴った。


 「いいから、来い」

 

 「だから僕は__っ!」


 もう一度ぶん殴る。


 「っ……」


 「……」










 お互いに睨み合ってる中、その争いを強制的に止めたのは一言。








 「青春ですね」









 






 「っ!?」


 「!!!!!!!?!?」



 まさに鶴の一声……魔王ウジーザスがいつの間にか来ていたのだ。


 「な!?」


 「ま、魔王様!?」


 マンタ、ライト、他に周りの民衆もこうべを垂れる。


 

 「クリスタルドラゴン討伐は遅かれ早かれ終わりを迎えます」


 「……」


 誰も何も言わないが結果が悪い方だと理解している。


 「……ですが、みなさん、安心してください」


 魔王は自分の胸に手を当てもう片方の手で2人を指差す、


 「私とこの者たちでクリスタルドラゴンを討伐して見せます」


 「っ!?!?!?」


 あまりに唐突な言葉にライトとマンタは見上げてしまう。


 「フフッ、私もあの災害には色々悩まされてましてね、そろそろ本当に死んでもらおうかと………ほんとに………クソが」


 「「「「「「「っっっっ!!!」」」」」」」


 

 そこに居る全員の胃に違和感。


 血巡りのリズムが崩れそれを強制的に治そうとする感覚……いや、魂と言うべきか……


 魂を風船と例えるなら空気が入り続けている感覚に陥る。


 「あら、ごめんなさいね皆さん、こんなにぎゅうぎゅうなのにゲロで臭くしたらダメですよね」


 不思議とその言葉を聞いた後は先ほどの感覚は無くなった。







 「さぁ、行きますよ、冒険者達」



 

 




 


 

 


 



 


 


 

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