第10話 ゴーストネットワーク
表示されたウェブページは一見、「5ch」の形式を真似たようなシンプルなデザインの掲示板のようだ。ただし、背景色が真っ黒で、真っ赤な文字色であるところは、ゼロ年代に乱立した個人が運営するオカルトサイトを思わせる。
ページを移動して、立っている板をざっと眺めるだけでも壮観だ。
「【魂の繋がり】ガターシャメイトの相談場所 二」「霊伝波動の窃取について」「【取引所】スピリチュアルピル part21」「宇宙との更新記録報告スレ Part.7」「サークル魔術 25」
とにかく、途方もないほどの意味不明な固有名詞の羅列だ。試しに適当な掲示板を覗いてみようとクリックすると、5chには見られないようなポップアップが表示された。どうやら、会員登録のようなことをしなければ掲示板の中へはアクセス出来ないらしい。しかも、「招待コード」という記入欄があることから完全招待制のようだ。
まいったな、と思う。
待てよ? そういえば、冴羽から貰った名刺に……。
確認してみると、やはりそうだ。名刺の裏にはここのアドレスと、行を分けて謎の文字列が書き込まれている。
これが招待コードというわけだ。恐らく、この招待コードは発行した冴羽のアカウントと紐付いていて、不審な数の新規ユーザ登録があったりすると冴羽自身のアカウントが無効になったりするのだろう。
しかも、厄介なことにこの掲示板では一月に一定以上の発言が無ければ、自動的にアカウントが無効にされる仕組みのようだ。つまり、この怪しいコミュニティへの参加には、宇宙人や幽霊の存在を、少なくとも信じるように演じる必要がある。
上手い仕組みだと僕は思った。
インターネット上の振る舞いというものは、本人が思っている以上に現実へ影響を及ぼすものなのだ。例えば、SNS上で演じる人格がいつの間にか現実の人格を支配しているということはよくある。
信じることを参加前提としているこの掲示板においては、にわかな参加者同じ界隈に引きずり込む仕組みであり、既に深みに沈んでいるユーザの夢を覚まさない仕組みでもあるわけだ。
取り敢えず、俺は目に付いた検索ボックスに「こっくりさん」と入力して検索してみた。
半ば予想していたことだが、膨大な数の掲示板がヒットする。ここから事件と関わりのあるトピックを探すのは途方もない苦労だ。
俺は少し考えて、「テーブルターニング」という言葉で検索してみる。これは、冴羽たちと車中で話しているときに出てきたワードだ。何となくだが、その筋の人間が使う語彙であれば、同じような趣向の人間が見つかるのではないだろうか、と思ったのだ。
「うーむ」
ところが、検索結果の総数は「こっくりさん」と大して変わらない。
何かが足りないんだ。
事件を取り上げているトピックを、一意に特定する検索ワード……。
(待てよ。そういえば、一連の被害者の中に議員がいたはずだ)
唐突に思い当たったのは、選挙演説で急死した道議員。
椎葉――
「テーブルターニング 椎葉」と言葉を並べて検索する。
一件のスレッドがヒットした。件名は、「【ミトリ様】ゴーストネットワーク【三】」
ゴーストネットワーク?
聞き慣れない言葉だ。何か別の都市伝説か何かか。
この掲示板では、一体どういう文脈で椎葉の名前が出たんだろうか。中を見てみると、「>>33 テーブルターニングが椎葉議員を殺したのか」という書き込みが検索にヒットしたようだ。33番目の書き込みを見るとこうあった。
「椎葉という悪徳政治家には我々の天罰が下った。我々のネットワークは既に札幌都市近郊の中ではマジョリティになりつつある。ミトリ様の御宣託を受け入れろ」
「受け入れろ」という言葉に次いで、onionドメインのURLが貼られている。そして、書き込みはこう続いた。「宣託を受け入れろ。救われる唯一の方法。宣託を受け入れろ。宣託を受け入れろ」……と、怪文書的な書き込みが延々と続く。
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