ドア一枚隔てて
雨乃よるる
1 美亜
「理亜。」
部屋には鍵がかかっていた。色の濃い木のドアが、やけに重厚に感じた。夏なのに、裸足の足に床の冷たさが染み込む。生ぬるい風がふくらはぎに当たって、なぜか寒気がした。
「PCR陽性だって」
どうやって自分が声を出したかわからなかった。その短い言葉の後で、喉がカラカラに乾いた。一瞬目の前のドアノブに手をかけそうになって、やめる。自分の胸からお腹まで、何か悪いものが渦巻いているような気がして、それが時々吐き気に変わる。座り込みたいほど疲れている自分がいるのに、美亜はドアをぼんやりと見つめたまま突っ立っているのだった。
「私とお父さんとお母さんは陰性だった」
いいことなのか悪いことなのかわからない。
「夕飯食べる?」
いつか綺麗だなと思っていたドアの木目が、無機的な、そっけないものに見える。部屋でかすかに物音がした。布と布がこすれ合う音だった。その後長い沈黙があって、何も返事はなかった。
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