後日談 その後……


 みゆきちに告白し、家に帰った俺はキッチンにいる母親のもとに行く。


「母さん、ただいまー」

「おかえり…………」


 帰ってきた俺の顔を見て、母親が嫌そうな顔をした。


「なんでそんな顔をするん?」

「鏡で自分の顔を見てきなさい。すごくウザい顔をしているわよ」


 ひで。

 あんたの息子やで。


「まあいいや。母さん、見て、見てー」


 俺は携帯を取り出し、母親に見せる。


「んー? ミユキちゃんね。この写真はこの前も見たわよ。あんたが送ってきたやつでしょ」


 写メを見た母さんが何を言ってんの?っていう顔で俺を見てきた。


「この子ね…………俺の彼女!」

「…………はじめてお腹を痛めて産んだ我が子を殴りたくなったわ」

「今日という日を忘れないようにね!」

「…………浮かれてるわねー」


 俺は呆れ切った母親を置いておき、2階に上がる。

 そして、妹の部屋にノックもせずに入った。


 妹はベッドの上でうつ伏せになって携帯を弄っている。

 俺が扉を閉めると、妹は首だけを動かし、こちらを見た。


「おかえりー。どうだった?」


 俺は何も言わずに妹の横に寝転ぶ。


「どうだったと思う?」

「いや、もうそのテンションでわかるよ。これでフラれてたらお兄ちゃんを病院に連れていかないといけない」

「かわいくない妹め! このー!」


 俺は妹に抱きつき、頭をわしゃわしゃと撫でる。


「うぜー……死ぬほど、うぜー……実の兄に100回以上も告白されるという苦行の後にこれかー……ちゅーした?」

「それはね、夏休みの花火の時!」


 花火が終わった帰り道にチュッとね!


「もう決めてんだ…………えっちは?」

「夏休みの終わりに…………いや、妹に何を言ってんだ、俺は…………」


 なんだろう?

 急に冷静になった。


「夏休みの終わりは早くない?」

「早いかもしれん。場所のこともあるしな。いや、そんなことをお前と話す気はない。気持ち悪いわ」

「実を言うと、私はお兄ちゃんに告白された時からずっと気持ち悪いって思ってるよ…………」


 告白の練習って言ってくれない?

 じゃないと、俺がヤバいシスコン野郎に聞こえるよ。


「まあまあ。おかげで、みゆきちと上手くいったよ。ありがとなー。お前が5歳の頃に欲しがってたお姉ちゃんが出来るぞ」

「わーい…………お兄ちゃんじゃなくて、お姉ちゃんが良かったって言ったんだけどね…………」


 俺に新宿2丁目に行けって言うんか!


「月曜からはみゆきちのことをお姉ちゃんって呼んでもいいぞ」

「ないわー……それでお兄ちゃん達が別れたら最悪じゃん」

「いや、別れねーから。死んでも一緒のお墓だから」

「すごい! 天国か地獄かはわからないけど、そこまで付きまとう気なんだ!」


 いや、地獄って……

 あと、ストーカー扱いはやめろ。

 これは純粋な愛なんだ。


「あ、そうだ! アリアに自慢しなくちゃ!」

「やめなよ。今頃、春野先輩が話してるでしょ」


 ありえーる。

 アリアは今度にするか…………

 よし! 尊敬すべき稗田先輩に電話しよう!


 俺は自室に戻り、稗田先輩に電話をかけ、報告と感謝を伝えた。

 なお、最初の頃は良かったねーと言ってくれていた稗田先輩だったが、1時間くらい経つと、『着拒していい?』って聞かれた。


 先輩、ごめんなさい。




 ◆◇◆




 翌日、6時に起きた昨日とは一転して、俺は10時まで寝ていた。

 実は昨日の夜はみゆきちと遅くまで電話をしていたのだ。


 正直に言うと、電話をする気はなかった。

 でも、向こうからかかってきちゃったんだよね。


 彼女からの初電話。

 まあ、内容はいつものしゃべる特訓なんだけどね…………

 でも、やはり長電話になってしまった。

 昔、アリアとやった『いっせーので、切ろっか』をリアルにやった。

 とはいえ、さすがに1時になりそうだったので切ったが、それから興奮して眠ることが出来なかったのだ。


 俺はベッドから起きると、この日は何もやる気が起きずに自室でダラダラと過ごした。

 テストが終わり、昨日が超濃密な一日だったので、さすがにこの日は何もやる気が起きなかったのである。


 俺は俺のことをウザそうに見る家族を尻目に夏休みどうしようかなーと思いながら日曜日を終えた。


 そして、翌日の月曜日。

 すでに夏休みまで1週間を切っており、今週はほぼテスト返しだけだろう。

 俺の頭の中は春であり、夏休み気分というよくわからない状態だったが、一応、手ごたえのあるテスト結果は気になったので頑張って学校に向かう。


 家を出て、最寄りのバス停に着くと、ちょうど来ていたバスに乗り込むが、アリアはいなかった。

 でも、三島がいた。


「みーしーまーくん! おはよう!」

「…………おはよう。どうしたん?」


 俺の軽快な挨拶に三島がちょっと嫌な顔をした。


「まあまあ。お前、夏休みはどうするん?」

「んー? 部活とバイトかねー? まあ、親父がじいちゃんとばあちゃんにこってり絞れられたおかげで金はどうにかなったんだけど、遊ぶ金が欲しい」


 そういえば、こいつはそれで図書委員をやめたんだったな。

 今思うと、三島の親父はナイスだわ。

 三島と三島のおふくろさんには悪いけど…………


「そっかー…………彼女とかと遊ばないの?」

「……………………あー……お前、もうしゃべらなくていいぞ」

「なんでぇ!?」


 話の振りでしかないのに!


「いや、もうね……察する。そのウザそうな笑顔も何もかもでわかる。クモの巣に引っかかった春野さんが見えるわ」

「誰がストーカーだ!」

「ストーカーとは言ってねえよ。女バスは言ってるけど…………」


 いい加減、ストーカーと呼ぶのをやめさせたいな。

 まあ、いずれその悪評も消えるか。


「お前、図書委員はどうすんの?」

「あー……復帰してもいいけど、嫌だろ?」

「うん、邪魔。受付に2人で座って、こっそりと手を繋ぐっていうのをやりたい」

「お前って、すごいな…………発想がロマンティックに聞こえないこともないが、なんか怖い」


 引くんじゃないよ…………


「別にいいだろ。ほっとけ。まあ、内申点はバスケで稼いでくれ」

「そうするかなー。大学は行きたいし」

「行けるん? 金的な意味で」


 頭はひとまず、置いておこう。


「じいちゃんが全部出すから行けってさ」

「お前の家、じいちゃんとばあちゃんと同居したほうがいいんじゃねーの?」

「おふくろが頼みこんでたな…………」


 おふくろさんも同居は嫌だろうに…………

 三島の親父は1回捕まった方がいいんじゃねーの?


 俺は三島の家に幸あれと思いながらバスに揺られた。


 学校に着くと、三島と共に教室に向かう。

 そして、教室の前まで来ると、俺はいつものように深呼吸をする。


「それ、いつまでやるん?」

「今日を最後にしたい」

「なんでだろうね? お前を見てると、全然悔しくもないし、羨ましくもないんだわ」

「素直に悔しがれよ。面白くない…………」


 俺は深呼吸を終えたので教室に入る。

 そして、自分の席の隣を見た。

 そこには俺の素晴らしい彼女が…………いない。

 代わりに俺の後ろには美人が座っていた。


「美人で有名な田中さん、おはよー」


 俺は自分の席に着きながら後ろの席の田中さんに挨拶をする。


「おはよー、リア充」


 あり?

 リア充で有名な小鳥遊君?


「俺がリア充なことを知ってんの?」

「昨日、山岸さんからめっちゃ連絡が来たね」


 おしゃべり女だなー。


「まあ、実はそうなんだよ。田中さん、ありがとうね」

「私は何もしてないよ」

「相談に乗ってくれたじゃん。それにあの3ポイント占いが良かった。あれで俺の覚悟が決まったし、上手くいった」

「良かったね。でも、それでいくと、三島君はダメか…………」


 そうなっちゃいますな。


「田中さんが芸能界に入ったらグラビアの写真集を買うからね!」

「ありがとう。でも、グラビアの写真集に限定したところですごく嫌な気持ちになったよ……」


 CDも出したら買うよ!


「ところで、みゆきちはどこ?」


 教室にはいない。

 みゆきちは登校時間が早いからまだ来てないってことはないだろう。


「山岸さん達数人とトイレに行った」

「連れションか……」

「いや、多分、被害者の事情聴取だね」


 加害者は誰だい?


「ボイスレコーダーを買っておけばよかったなー。そしたら俺の無実が証明できるのに」

「録音したものを永遠と聞きそうだね。今日の小鳥遊君は浮かれてるんだろうけど、発言の9割がぶっ飛んでるよ」


 ほぼ全部じゃん。


「前に田中さんに抑えろって言われたし、セーブしてるよ?」

「それで?」

「土曜日の夜に稗田先輩に着拒していい?って聞かれた」

「私に電話してくれなくて、ありがとう」


 どういたしまして。

 あんなにやさしい稗田先輩もあんな低い声を出すんだなって思ったよ。




 ◆◇◆




 今日は本当に大変だ。

 学校についたら事情聴取。

 休み時間も女子トイレに連行。


 そして…………


「あのー、春野先輩、ちょっといいですか?」


 今は授業も終わり、久しぶりの部活の時間。

 ずっと練習をしていたのだが、顧問の先生がいなくなると、一年生数人が私の所にやってきた。


 聞きたい内容はわかっている。

 だって、今日一日、そればっかりだったし、何より、この子達は桜中だった子達だ。


「なーに?」

「すと…………小鳥遊先輩と付き合ってるって本当ですか?」


 ほらね。

 というか、ストーカーって言おうとしてた。

 いつぞやは『キャプテン、すごい!』ってキャッキャッしてたのに……


「うん。そうだね。この前の土曜からだけど」

「…………ほら、やっぱりだよ」

「…………キャプテン、しつこいもんね」

「…………あれとおふざけとうるさいのがなかったらかっこいいのにね」

「…………わかるー」


 私に聞いてきた1年の子の後ろで他の1年の子が盛り上がっている。


 こうして見ると、小鳥遊君は本当に人気だ。

 精一杯、彼氏のことを良く言ってみました…………


「えーっと、おめでとうございます」


 私に聞いてきた1年の子も後ろの声が聞こえているらしく、気まずそうに言ってくる。


「ありがとう。でも、言っておくけど、小鳥遊君はストーカーじゃないよ?」

「そ、そうですよね。純愛ですよね。当人達が良ければそれでいいんですよね」


 すごく引っかかる言い方だ。


「それ、誰が言ってたの?」

「キャプテン……じゃない。小鳥遊先輩です」


 だと思ったわ。


「ちなみにだけど、私と小鳥遊君が付き合ってるって、誰に聞いたの?」

「ヒカリちゃんがお兄ちゃんが死ぬほどうぜーって言ってたんで、なんとなく…………」


 ウザかったんだろうなー……

 教室でも田中さんにウザがらみしてた。

 小鳥遊君、田中さんに背中を殴られてたし……


「まあ、土曜日にね。デートして、そこで……」


 私は今日、何回、この説明をしただろうか?


「どこに行ったんです?」

「ほら、隣町にアミューズメント施設があるじゃん。あそこ」

「あー、あそこですか! 良かったです? 夏休みに皆で行こうってなってるんですよ!」

「色々あって楽しかったよー。バスケのコートもあった」


 そこで告られた。

 あ、思い出したら顔が赤くなりそう。


「バスケですかー。小鳥遊先輩とバスケしました?」

「したね、軽くだけど」

「あー…………空気を読まなかったでしょ?」

「あ、わかる、あの人、女子相手でも本気出す人だもん」

「ガチでやってくるよね。あの辺がモテないところ!」


 後輩女子軍団が盛り上がり始めた。

 めっちゃ愚痴りだしてる。

 中学の時の小鳥遊君は何をしたんだろう?


「あー、そういえば、フリースローの10本勝負をして、全部決められたね」


 全部、正確無比に決められた。

 途中からなんとなく全部決めそうだなとは思った。


「ほらー! 絶対にそう!」

「春野先輩だってシュートがめちゃくちゃ上手いのにそれを越えてくるキャプテンだもんね」

「三島先輩は空気を読んで外してくれるのにねー」

「…………うん」

「…………まあね」


 まあ、三島君はね……


「春野先輩、小鳥遊先輩でいいんです?」

「いいよ」


 これだけははっきり言わないといけない。


「断言した!」

「食い気味だったね!」

「よし! 今度、小鳥遊先輩を殴ろう!」

「それだ!」

「いいね!」

「ヒカリちゃーん、お兄さん、殴っていい?」


 後輩達はヒカリちゃんのもとに走っていく。


 私はちょっと疲れたが、小鳥遊君は慕われてたんだなーと思った。

 なお、ヒカリちゃんはすでに土日で合計5発殴っていたらしい…………


 まあ、確かに電話した時も若干、ウザかったけど…………




 ◆◇◆




 俺は家に帰ってくると、母親に今日帰ってきたテストの点を見せた。

 まさかの90点越えだ。

 自分でもすごいとは思うが、泣かなくてもいいと思う…………


 そして、今度、みゆきちを連れてこいって言われた。

 何を言う気だろう?


 俺はそんな母親を無視しながら晩御飯を食べ終えると、2階の自室に行き、椅子に座った。

 そして、電話をかける。


 電話の相手はアリアである。

 俺はみゆきちと付き合ったことをまだアリアに報告していない。

 一番相談に乗ってくれたのも、一番手伝ってくれたのもアリアである。

 だが、今日一日、アリアと話す機会はなかった。

 女子共は休み時間になると、どっかに行っていたからだ。


 ちゃんと自慢……じゃない、感謝を伝えねば。


『はーい?』


 電話の発信音が消えると、アリアの声が聞こえてきた。


「アリアー? こんばんはー」

『こんばんはー』

「山岸先輩、こんばんはです! さっきぶりです!」


 ベッドで横になっているヒカリちゃんが叫ぶ。


 何故いるし…………


『ヒカリちゃんもこんばんはー。それで小鳥遊君、何か用? 自慢と惚気なら切るよ?』

「切らないでー。いやね、知ってると思うけど、みゆきちと付き合うことになったわ」

『知ってるー。ミユキに聞いたし。おめでとー』

「ありがとう。お前には散々、世話になった。ありがとよ」


 あと、馬って、言ってごめんね?


『まあ、いいってことよ。それよかさ、ようやく言えるよ……あんたらさー、2人して私に相談すんな。探りを入れてくんな。いいからはよ付き合え!ってずっと思ってた!』


 なんかごめん。


「みゆきちがアリアに俺の背中を押すように頼んだんだっけ?」

『そうそう! ミユキには悪いけど、お前は大人しく告白を待っとけって思ったわ!』


 俺がアリアに告白しようと思うって相談してる時にみゆきちはアリアに小鳥遊君が告白するように背中を押すことを頼んでいた。

 アリアからしたらめんどい状況だろうな。


「ごめんね」

『そして、ミユキからも感謝という名の惚気を聞かされ、今、小鳥遊君に感謝という名の惚気を聞かされそうになっています』


 うぜーな、俺達。


「じゃあ、感謝はこれくらいにしとくわ。あのさー、相談があるんだけど、いい?」

『えー……まだあんのー? 私も彼氏が欲しいよ』

「紹介してやろうか?」

『三島君はいいや』


 ひで。


「女バスはホント、三島を軽く見てんな」

「お兄ちゃんのせいじゃん。いっつも三島君を先生に怒らせ係にしてたからじゃん」


 それはあいつがいっつも先生が来るタイミングでバカなことをしてるせいだよ。

 俺はたまたまその場にいないだけ。


『いや、三島君を軽く見てるわけじゃないけどね』


 良い子であるアリアが三島をフォローする。


「あいつは良いヤツなんだんだよ。なにしろ、給食のチーズとプリンを交換してくれたんだぞ」

『ただの好みじゃん。まあ、プリンの方が絶対に良いけど』


 だよな?


「まあ、三島のことはどうでもよくてな…………」

『絶対に小鳥遊君の方がひどいじゃん……で? 相談って?』

「あのさ、このままみゆきちって呼んでいった方がいいかな? お前的にはミユキかミユキちゃんのどっちがいいと思う?」

『クソどうでもいい!』


 クソって…………


「ほら、みゆきちってさ、俺の病気がゆえに呼んでるあだ名じゃん? でも、彼氏彼女だったら呼び方ってのがあるじゃん。まあ、みゆきちでも良いのかもしれないけどさ」

「私的には絶対に呼び捨て! ヒカリって呼ばれたい!」

「ヒカリ」

「死ね!」


 ヒカリちゃん、ひどい…………


『電話先で兄妹喧嘩しないでよー…………私も小鳥遊君の発言はないと思ったけどさー…………うーん、どっちでもいいなー。名前によるんじゃない? 私はアリアちゃんって呼ばれることがほぼないしねー。ミユキはどっちでもありじゃん』

「じゃあ、ミユキって呼ぼうかなー…………呼べる気がしないけど」


 無理無理!


『ダメじゃん。というかさー、ミユキの呼び方を変える方が先じゃない? 小鳥遊君って呼んでるじゃん。下の名前で呼んでもらおうよ。話はそこから』

「下の名前ねー…………」


 あんまり呼ばれないんだよな。


『…………というかさ、小鳥遊君の下の名前って何だっけ?』


 おいコラ!


「あれ……? お兄ちゃんの下の名前って何だっけ?」


 おい、家族!


「お前ら、最悪だな」


 こいつらはダメだわ。

 みゆきちに下の名前で呼んでもらうように頼むか…………

 みゆきちならわかるだろ。


 え?

 …………わかるよね?

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入学式の日にプロポーズしたらその子としゃべれなくなりました……どうしよう!? 出雲大吉 @syokichi

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