第015話 3人での勉強会


 みゆきちと一緒にテスト勉強をしようと提案した俺は見事に色よい返事をもらい、上機嫌だった。

 正直、勉強は嫌いだが、みゆきちと一緒なら頑張ろうって気になるってもんだ。


 俺は土日を使って、じっくりと今後の計画を練っていた。


 アリアからみゆきちが好きそうな映画等をリサーチし、これまでの筆談ノートを見返して、みゆきちが好きそうなものを思い返していたのだ。


 大体の計画は練り終えた。

 あとは誘うことだろう。

 また、テストを頑張るということも忘れてはならない。

 ここでデートのことばかり考えて、テストの点数が芳しくないと、みゆきちの評価が下がると思われる。


 何しろ、いっしょに勉強までしたのに点数が悪いと、『何だこいつ?』と思われる可能性が高い。


 むしろ、点数を上げ、感謝を伝えたほうが今後の為にも良い。

 お礼と称して、次のデートにも繋げやすいし、今度の期末も一緒に勉強が出来るだろう。


 なお、このことをアリアに伝えたら、また、真っ黒兄妹って言われた。

 このくらい、誰でも考えるだろうに……

 失礼なヤツだ。


 俺は月曜になると、3年の教室に行き、先輩から過去問を受け取った。


 そして、木曜日。

 授業を終え、放課後となると、みゆきちとアリアの3人で図書館に向かった。


 図書館はすでに多くの人がテスト勉強をしている。

 ちょっと出遅れたようだ。


「多いねー」


 みゆきちがボソッとつぶやく。


「だねー。ファミレスに行く?」


 アリアがみゆきちに答え、ファミレスへの移動を提案した。


 俺的にはファミレスは嫌だなー。

 だって、明日、みゆきちと行くんだもん。


「この感じだと、ファミレスも多いだろ。ちょっと待ってな」


 俺は2人をこの場に残し、図書館の受付に向かう。


「こんちゃーす」


 俺は受付で勉強をしている2人の先輩に声をかけた。


「あ、小鳥遊君、こんにちは」

「こんにちはー」


 稗田先輩と浅間先輩が顔を上げ、挨拶を返す。


「今日、お客さん、多いです?」

「お客さんって言い方はどうかと思うよ。まあ、いないね。ごらんの通り、皆、勉強でしょ」

「おかげで私達も勉強に集中できるよねー」


 ふむふむ、なるほどねー。


「奥、借りていいです?」

「奥? 休憩室のこと? いいけど、どうかしたの? 寝るの?」


 なんで、わざわざ放課後にそこで寝ないといかんのだ。


「人が多いじゃないですか? 奥の静かなところで友達と勉強しようかと思ってー」

「友達……? あー…………」

「あー…………春野さん」


 稗田先輩と浅間先輩は入口付近で立っているみゆきちとアリアを見つけたようだ。


「…………小鳥遊君、理性を保ってね……」


 浅間先輩は完全に俺をヤバいヤツと思ってんな。


「変なことをしませんよ。もう一人いるし、ちゃんと勉強です」


 俺は今週、マジで勉強してんだぞ!


「まあ、いいんじゃない? たまに私らも入るかもだけど」

「だねー。好きに使っていいよ」


 稗田先輩と浅間先輩は快く許可をくれた。


「あざーす」


 俺は先輩2人にお礼を言うと、みゆきちとアリアが待つ入口に戻る。


「よっしゃ、休憩室を借りたぞー」


 俺はみゆきちを視界に入れないようにアリアを見ながら報告した。


「よく頼めるね…………」

「俺とみゆきちは図書委員だから」

「先輩達には悪いけど、せっかくだし、あそこにしよっか」


 みゆきちがそう言うと、俺は携帯に返事を打ち込む。


【だねー。稗田先輩も浅間先輩も快く貸してくれたし、勉強を頑張ろう】

【おー!】


 俺がグループメッセでみゆきちへの返事を書くと、みゆきちもノリノリで返してくれた。


「早く病気を治しなよ…………」


 その光景を見ていたアリアがボソッとつぶやく。


「そのうちなー…………」


 あんま自信ないけどね。


 俺達3人は受付にいる2人の先輩に頭を下げ、奥の休憩室に入った。

 そして、席に座ると、みゆきちがお茶を淹れ始める。


「初めて入ったなー」


 アリアが部屋を見渡す。


「普通は入らないからなー。あ、これ、お前の分の過去問」


 俺は事前にコピーしてきた過去問をカバンから取り出し、アリアに渡す。

 そして、みゆきちのカバンが置いてある俺の隣にも置いた。


「ありがと。わざわざコピーしたんだ。あ、お金…………」

「いや、大丈夫。職員室のコピー機を使ったから」

「え? それいいの?」

「うん。社会の木下先生にお願いしたらいいよーって」


 社会の木下先生は優しいじいさんの先生だ。

 生徒の頼みは断らない。


「人を選んで頼んだのか…………黒い」


 そら、担任の岡林先生に頼んだら絶対にダメって言われるのはわかってるしな。


「提案したのも頼んだのもヒカリちゃんだけどね」


 一緒に行って、一緒に頼んだ。


「ホント、真っ黒な兄妹だわ。あんたら、変な仕事を始めないでね。私に絵とかツボを売りつけないでね」

「しないよー。そんなことより、転売に興味ない? 俺がお前に1000円で売るからお前はそれを2000円で売るという素晴らしい商売」

「それ以上は説明しなくていいよ。いっぱい買ったらランクが上がって安く買えるやつでしょ」


 何のことかなー。


「はい、お茶どうぞー。あ、小鳥遊君、過去問ありがとー」


 みゆきちがお茶を淹れて戻ってきた。


「う、うん…………」


 俺はすぐに携帯を取り出し、返事を書く。


【ううん。お茶、ありがとー】

【どういたしまして】


 みゆきちも返事を書くと、俺の隣に座った。

 俺とみゆきちが隣に座り、アリアが対面に座るという配置だ。


 正直、違和感がないことないが、まあ、俺とみゆきちは筆談なので、仕方がない。


 俺達は教科書やノートを広げ、過去問を眺めたりしながら勉強を開始した。

 たまにしゃべったり、筆談をしたりすることもあるが、基本的には各自で勉強している。

 じゃあ、1人でしろと思うかもしれないが、まあ、見張りみたいなもんだ。

 それにわからないことをすぐに聞き合えるのは助かる。

 主に俺とアリアがみゆきちに聞くんだけどね。


「生徒会長の解説、ホントにわかりやすいねー」

「ホントだよねー。すごくわかりやすい」


 みゆきちとアリアが過去問を見ながら頷き合っている。


 これは俺もそう思う。

 予想以上に丁寧に解説を書き込んでくれている。


 好きな人にも見せるんだーって言ったから気合を入れてくれたようだ。

 本当にいい人だわ。

 今度、菓子折りでも持っていくかね。


「どんな感じ? 赤点は回避できそうかー?」


 俺は顔を上げずに勉強を続けながら聞く。


「何とかセーフにしたいねー。過去問でなんとかなると思う」

「俺とほぼ同じだなー」


 まあ、俺とアリアは似たような成績だからなー。


「私は赤点は大丈夫かなー…………」

「みゆきちはそうでしょうよー。アリアへの嫌味だ」


 みゆきちは点数が良いもん。

 アリアからそう聞いている。


「………………ア、アリアはもう少しできると思うけどなー」

「………………そうかなー。というか、小鳥遊君も私と点数変わんないじゃん」


 ふっふっふ。

 俺は今回、結構自信があるのだ。

 そら、全部80点以上みたいな点数を取れるとは思っていないが、70点は超えるつもりである。


「ふっ……さようなら、アリア。俺は一つ先のステージに行くよ」

「うぜ…………だからおしゃべりのくせに、さっきから黙々と勉強してんのか」


 その通り!

 今後の作戦の為には今回のテストでコケるわけにはいかないのだ!


 俺達はその後も勉強を続けていると、ドアが開いた。

 俺達が顔を上げて、ドアの方を見ると、稗田先輩が立っていた。


「そろそろ閉館だからねー」


 稗田先輩はそう言うと、ドアを閉じる。

 時計を見ると、時刻は6時前だった。


「今日はこれくらいにしよっか」


 みゆきちはそう言って、勉強道具をしまい出した。


「だねー。めっちゃ勉強したし」


 アリアもまた勉強道具をしまう。


「お前ら、先に帰っていいぞ。俺は先輩達の片づけを手伝ってから帰るから」


 俺は解いている問題の途中だったため、問題を解きながら先に帰るように促す。


「私もそうしようかなー。部屋を貸してもらったし」

「だねー」


 2人は顔を見合わせながら頷く。


「そんなに人はいらんだろ。俺は浅間先輩に探りもいれないといけないしなー」

「ん? なんで浅間先輩?」


 アリアが聞いてくる。


「それは言えない。三島に悪いだろー」


 俺は友人想いなんだなー。


「ほぼ答えを言ってんじゃん」

「あいつ、浅間先輩が気になるらしい。彼氏の有無くらいは聞いてやろうと思ってな」

「全部言ったし」

「まあ、そういうわけだから先に帰っててー」


 みゆきちのことを相談するフリをして聞こうと思ってんだからみゆきちがいると困るんだよね。


「ん-? まあ、わかった。じゃあ、先に帰るよー。ばいばーい」


 アリアがカバンを持って手を挙げた。


「ばいばーい」


 俺も問題を解きながらだが、手を挙げた。


「小鳥遊君、じゃあね」

「うん、また明日ー。今日は勉強を見てくれてありがとー」

「どういたしまして」


 みゆきちとアリアは部屋を出ていった。


 それから数分後、問題を解き終えた俺は勉強道具をしまい、カバンを持って、休憩室を出た。


 図書館にはすでに人がいなくなっており、稗田先輩と浅間先輩が受付でゴソゴソと片付けをしていた。


「お疲れ様でーす。片付けを手伝いますよー」


 俺は先輩2人に声をかける。


「あ、小鳥遊君、悪いねー。じゃあ、窓の施錠をチェックしてもらえる?」

「はーい」


 俺は稗田先輩に言われたので、窓のチェックを始める。

 開いている窓を閉め、鍵をかけていった。

 そして、すべての施錠を終えたので受付に戻る。


 受付では先輩2人が片づけを終えたらしく、カバンを持って待っていた。


「ごめんねー」

「手伝ってくれてありがとー」


 先輩2人は俺にお礼を言ってくる。


「いえいえー。ただの鍵閉めですよー。部屋を貸してもらったし、お安い御用です」


 俺達はそのまま図書館を出ると、稗田先輩が入口の施錠を行い、職員室に向かった。


「俺らの勉強中に休憩室に入ってこなかったですね? 気を使われましたか?」


 俺は歩きながら2人に話しかける。


「邪魔しちゃ悪いかなーと思って」


 稗田先輩が遠慮がちに言うが、別に邪魔にはならないと思う。

 勉強してるだけなんだから。


「だよねー。せっかく小鳥遊君が春野さんと勉強するっていうわけだし」


 なるほど。

 そっちの邪魔と思ったわけか。


「本当に真面目に勉強してましたよー。まあ、基本、俺と山岸さんは春野さんに教えてもらってばかりですけどねー」

「頑張ってねー」


 どっちかな?

 まあ、両方か……


「ところで、まだ筆談してるの?」


 稗田先輩が聞いてくる。


「病気が治んなくて…………どうすれば治りますかね?」

「うーん、荒治療したら?」

「荒治療? みゆきちにちゅーでもすればいいんすか? 俺、退学になりません?」


 それで治ったとしても退学は嫌だよ。


「小鳥遊君って、色々とすっ飛ばすよね」

「こんなんだからいきなりプロポーズなのかー」


 先輩達の目が冷たいぜ!


「じゃあ、荒治療って、何です? 抱きつくとか? 俺、警察はちょっと……」


 それで治ったとしても補導→退学は嫌だよ。


「肉体接触から離れてくれるかな?」

「ストー…………小鳥遊君が言うと、シャレにならないから」


 浅間先輩、今、俺のことをストーカーって言おうとしたろ。


「じゃあ、何です?」

「目を見よう!」

「…………それが荒治療? 小学生みたいだなー」


 人と話す時は目をちゃんと見ましょう!的な。


「小鳥遊君がそのレベルだからでしょ…………」


 ごもっとも…………

 でも、目を見るか……

 やってみるかなー。

 しゃべれないんだから少しずつやっていこう。


 俺達は職員室に鍵を返し、バス停まで一緒に帰ると、バスが来るまで話をしていた。


 なお、調査の結果、浅間先輩に彼氏はいない模様。

 チッ! 三島には黙っておこう。

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