閑話 この幼なじみは嘘をついていると思う
私は今日もミユキの部屋に遊びに来ている。
家というか、マンションの部屋が隣同士だったこともあり、昔は毎日のように遊びに来ていたが、中学に上がったくらいから週一くらいに落ち着いていた。
だが、高校2年生になったくらいから再び、毎日のように遊びに来ている。
原因というか、そうなった理由はクラスメイトの男子だ。
ミユキに想いを寄せている男子。
今年から同じクラスになった小鳥遊君だ。
小鳥遊君は1年の春、入学式の日にミユキに告白した。
私はその時のことを忘れないだろう。
それほどまでにインパクトがあった。
何しろ、告白というか、色々なものをすっ飛ばしたプロポーズだったのだ。
ミユキは子供の頃からモテていた。
友達びいきに見ても、かわいいと思うし、明るくて優しい子だ。
実際、何度も告白されているし、そのたびに相談に乗ってきた。
だから小鳥遊君がミユキの事を好きになるのも理解できる。
だが、小鳥遊君はミユキの事を好きすぎじゃないだろうか?
しゃべれないし、目も合わすことが出来ないって相当だ。
下手をすると、トラウマレベルに嫌いなんじゃないかと思ってしまう。
私がミユキの家で漫画を読んでいると、携帯の着信音が鳴った。
私は携帯を取り出し、見てみる。
【お前、明日からバスを1本遅らせた方がいいぞ。きっといいことがある】
もはや、この男の思考回路がさっぱりわからない。
何故、私が学校に行くのを遅らせないといけないのか…………
多分、私と一緒に学校に行きたいのだろう。
しかし、それはミユキに送るべきだし、百歩譲ったとしても、あんたが1本速めればいい。
あの男の中で私は完全に彼女以上の地位にいる気がする。
何故にあの男は私にここまですり寄ってくるのか…………
「小鳥遊君?」
携帯を見ていたミユキが顔を上げて、聞いてくる。
「…………うん」
私はそう答えて、ミユキに携帯を見せる。
「好かれてるねー」
ミユキは楽しそうに笑った。
「ミユキに言えって送ろうかな?」
「アリアに話があるんじゃない?」
「いや、絶対に内容はミユキの事だし…………」
「じゃあ、尚更、私は誘われないよ」
そりゃあ、そうなんだけど、ミユキはミユキでちょっとおかしいな。
「ミユキさー、実際のところはどうなの?」
「どうって?」
「小鳥遊君とどんな感じ?」
「うーん、普通に話してるよ。筆談だけどね…………見る?」
ミユキはそう言って、鞄からノートを取り出し、私に渡してくる。
「見ていいの?」
「いいと思うよ。小鳥遊君は気にする人じゃないし」
まあ、小鳥遊君は色々とオープンな人だからなー。
ニヤニヤしながら『見るなよー』って言う人だ。
私はノートを受け取ると、最初のページを見る。
最初のページの1行目は始まりとしては不自然な言葉が書いてあった。
「あのさ、これ何冊目?」
「3冊目。最初の2冊は小鳥遊君に取られた」
あの男、読み返してるな。
そして、分析してるな。
めっちゃ計算高い腹黒野郎だし。
というか、3冊って…………
こいつら、めっちゃ話してるというか、筆談してるし…………
「よくこんなに書けるね」
「まあねー。面白いのが小鳥遊君の字がどんどん上手くなっている所かな」
こんだけ書けばねー。
いや、多分、それ以上に字の練習をしてそうだな。
小鳥遊君だし。
私はのぞき見しているような気分になるが、ミユキと小鳥遊君の会話を読んでいく。
「ホント、猫被ってるね」
このノートを見ると、ちゃんと春野さん呼びだし、普段、下の名前で呼び捨てな私の事も山岸さんって書いてある。
「でしょー。私達3人のメッセもだけど、小鳥遊君、私の前では大人しいというか、真面目ぶってる。というか、みゆきちって何? そんなあだ名、呼ばれたことないよ」
ミユキは笑っている。
何がそんなに面白いんだろう?
「嫌じゃない? 自分にだけ態度が違うってさ? あの男、私には結構、ひどいんだけど」
たまに電話するし、教室で話したりするが、結構、ひどい。
「アリアは好かれてると思うよ。小鳥遊君、楽しそうだし。まあ、私は気にしないかな。裏でそうなら気にするかもだけど、小鳥遊君、一切、隠さないし」
確かに隠す気はないと思う。
ミユキの目の前で私と話す時もみゆきち呼びをする時もあった。
「ぶっちゃけたことを聞いていい?」
「いいよ」
「小鳥遊君の事、好き? 向こうは100パーセント好きだと思うけど」
プロポーズしてるし。
「…………うーん、嫌いではないかな。楽しい人だし」
「付き合う?」
「どうかなー? というか、小鳥遊君にその気がないと思うな」
あー…………
小鳥遊君、しゃべれないのを気にして、1歩引いてるからなー。
「でも、プロポーズしてきたじゃん」
「あれはびっくりだね。あー、小鳥遊君だーって思ってたらいきなりだもん。焦って頭の中が真っ白になっちゃた」
ん?
「ミユキ、小鳥遊君の事を知ってたの?」
「え? 桜中の小鳥遊君じゃん」
いや、知らん。
「有名なの?」
「有名というか、桜中と練習試合した時にいたじゃん。試合中にめっちゃしゃべる人」
桜中との練習試合?
確かに、桜中にお邪魔して、試合をしたことはある。
新築の綺麗な体育館だったことを覚えている。
めっちゃしゃべる人…………
…………あ! いた!
確かにいた!
めっちゃうるさくて、先輩や先生に怒られてた人だ。
あれが小鳥遊君だったのか…………
というか、女バスにも似たようなのがいたわ!
あれが小鳥遊君の妹のヒカリちゃんだ!
「思いだした…………男バスに女バスにもいた」
「ヒカリちゃんもいたねー。向こうの監督さんが小鳥遊兄妹、黙れ! ってめっちゃ言ってたよね」
言ってたような気がする…………
それも何度も…………
「確かに…………しかも、そいつら、めっちゃ上手かった気がする」
男バスである小鳥遊君とは直接試合をしたわけではないが、よくしゃべりながらあんな動きが出来るもんだと感心した。
ヒカリちゃんは当時1年だったはずだが、先輩達を差し置いて試合に出ていた。
小さいのにちょこまかと動くめんどくさいヤツだなーと思った。
そして、両者ともにシュートを打つ時にうるさかった。
あー、思い出した。
ヒカリちゃんがよく練習中に『華麗なレイアーープ!!』って叫んでるが、あの時も言ってたわ。
「全然、変わってないよね。小鳥遊君はアレだけど…………」
あれがアレになるのだから本当にびっくりだ。
「だからさっきのシュートがあんなに上手かったのか…………」
先ほど、部活の終わりに小鳥遊君が珍しく、田中さんを連れて体育館に来ていた。
ヒカリちゃんを待ってたらしいが、男バスの三島君を合わせた3人で楽しそうにしゃべっているかと思ったら三島君がシュートをしだしたのだ。
三島君は外していたが、小鳥遊君はきれいに決めていた。
よくあんな距離から入れれるものだ。
私には無理。
というか、まず届かない。
「すごかったねー」
ミユキは嬉しそうだ。
「小鳥遊君、元バスケ部だったのか…………」
どうりで周りにいた後輩が『さすがはキャプテン!』ってキャッキャッしてんだ。
小鳥遊君、あんなんでキャプテンだったのか…………
よくキャプテンになれたな……
しかし、あんなに上手いのに高校でバスケ部に入っていないのは…………
やっぱりミユキかな……?
「…………小鳥遊君、多分、またコクってくるよ」
私は色々、考え、言葉を紡いだ。
「なんでそう思うの?」
「あの人、すごく行動的だし、このまま、良いお友達で満足する人じゃない」
「ふーん。よくわかるねー」
伊達に電話をしたり、一緒に学校に行く関係ではない。
明日からもう少し寝れるよ…………
「小鳥遊君はさ、すごく馴れ馴れしいし、距離感が近い人じゃん」
「だねー。ヒカリちゃんもそう」
あの兄妹は多分、合コンとかがめっちゃ得意そう。
「だからこそミユキへの接し方がわからないんだよ。計算高くて、友達を作るのが得意すぎ。だから好きな人にどうすればいいのかわからない。友達を作れても恋人は作れない」
「なるほどねー。別にそのままでいいのにね」
本当にそう思う。
ミユキの事がなかったら私の事が好きなんじゃないかと思うわ。
「ミユキはそうなったらどうすんの?」
「まだわかんない。楽しいけど、そこまでは考えてない」
「小鳥遊君はストーカーとかにはならないと思うけど、小鳥遊君の想いはガチだから真剣に答えてあげてね」
多分、次にフラれたら本当に引くだろう。
近づくのが速い人は離れるのも速いと思う。
「アリア、私の事を気にしてると見せかけて、実は小鳥遊君寄りだねー。本当に仲が良くなったみたいだね」
「…………悪い人じゃないしね」
真剣なのはわかる。
真剣すぎだけど。
「私もすごいことを聞いていい?」
「…………いいよ」
「もし、私の事がなくて、小鳥遊君に告白されたら付き合う?」
…………わーお。
「…………多分、良いよって言うかな。小鳥遊君ほどの恋愛感情は持ってないけど、一緒にいて楽しい人だし、付き合ってみてもいいんじゃないかなとは思える」
「だよねー。そんな感じはした」
「まあ、絶対に付き合わないけどね」
私は小鳥遊君のぶっちゃけた話を聞きすぎたわ。
「田中さんはどうかなー? 今日も一緒にいたし、あれからご飯食べに行ったでしょ」
正直、何故、あそこに田中さんがいたかがわからない。
「田中さんは幼なじみみたいなものでしょ。三島君もだけど、幼稚園の頃からの仲らしいよ」
あそこはお互いに恋愛感情はなさそうだ。
相手を貶す時も褒める時も笑い合ってるし、良くも悪くも男女の緊張感がない。
「あー……今日のあれは幼なじみの集合みたいなものか」
「じゃないかな? 小鳥遊君も田中さんも三島君とは仲が良いって言ってたし」
実際、クラスでも3人が話している所はよく見る。
ただ、3人が特に仲が良いというわけでなく、他のクラスにも幼稚園からの付き合いの人はいるらしい。
私達が通っている高校はほぼエスカレーターになっているみたいだ。(小鳥遊君談)
「小鳥遊君がアリアや田中さんに接するみたいに私に接する時が来ると思う?」
「…………来ないと思う」
まったく想像が出来ない。
「だよねー。うーん、アリアが小鳥遊君の肩を持つから真剣に考えてみたんだよ」
「どんな感じ?」
「アリア、小鳥遊君に言いそうだなー」
私、完全に小鳥遊君側の人間に思われてるし…………
まあ、否定はできないけどね。
さすがに相談を受けすぎたし、真剣なことは十二分に伝わってくる。
相手は幼なじみのミユキだし、純粋に応援もしたくはなるだろう。
「絶対に言わない。小鳥遊君を応援する気持ちはあるけど、それとこれとは別」
さすがに比重はミユキ寄りだ。
物覚えが付いた時から一緒だった大切な友達なのだから。
「どうするかはわからない。これからの付き合いで考えるし、安易な答えを言うつもりはない。でも、決めてることがある」
「何?」
「筆談で告白してきたら断る。プロポーズしてきても断る」
………………………………。
「…………やっぱ教えちゃダメ?」
めっちゃやりそう…………
「ダメ」
小鳥遊君、ごめん。
フラれたら田中さんと一緒に慰めてあげるよ…………
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