第013話 作戦会議inファミレス
俺達兄妹は田中さんと共にファミレスに向かった。
ファミレスに着くと、妹と田中さんが並んで座り、俺がその対面に座る。
そして、各々が食べたいものを頼み、料理がやってくると、食べ始めた。
「田中さん、今日はごめんね。お兄ちゃんが無理やりでしょ」
「うん。そうだね!」
妹が隣に座っている田中さんに謝ると、田中さんは即答した。
「田中さんには相談に乗ってもらってたんだよ」
「相談? 春野先輩のことだろうけど、何の相談?」
妹は予想がついているが、一応、確認したいらしい。
「正解!」
「まあ、それしかないよね。おかげで私は帰れなかった」
「お兄ちゃん、田中さんに迷惑をかけたらダメだよ」
「さーせん。でも、田中さんのおかげで迷いが取れたよ」
花占いみたいだったけど、成功した。
「というか、よくあの距離で入ったね。本当にバスケ上手いじゃん。続ければいいのに…………」
「何、何? さっきお兄ちゃんが成功して、三島君が失敗したやつ?」
今さらだが、妹は田中さんと三島を幼稚園の頃から知っているため、タメ口だ。
ただ、三島に対しては部活中は敬語らしい。
「それ。小鳥遊君と三島君は自分達の恋の想いをバスケボールに込め、シュートした」
「あちゃー。三島君、失敗…………バスケ部なのに……」
まあ、あいつはそんなにシュートが得意な方ではないからなー。
「お前、見てたん?」
「そら、見るでしょ。ってか、皆、見てたよ。体育館の半分を3人で占拠して、何か話してたもん。しかも、バスケ部の三島君と美人で有名な田中さんと元キャプテンのお兄ちゃん」
「俺って、元キャプテン枠でいいの?」
「正直に言っていいなら春野先輩のストーカーになっちゃうけど、そこはキャプテンにしといた。女バスでも同じ桜中学校のバスケ部員も多いし」
だよね。
正確に言えば、ストーカーになった元キャプテンだろう。
なまじ知ってる人間だけに同中だった女バス連中は嫌だろうなー。
「お前、弁解しとけよ」
「言ったよ。これからご飯に行くって。でも、わざわざ体育館に来るところがねー……だって」
わーお!
女子ってこわーい!
皆、エスパーだぜー。
「まあ、あいつらなんかどうでもいいわ!」
「でも、3ポイントシュートはかっこよかったって。さすがはキャプテンだって」
「…………許してやるか。女バスとは言え、同じバスケをして、青春の汗を流した仲間だからな」
かわいい後輩に信頼すべき同級生、そして、尊敬する先輩達だ。
「ちなみに、三島君は?」
俺が満足げに頷いていると、田中さんが妹に聞く。
「だっせー……、相変わらずシュート下手、練習しろ」
女バス、ひでーな。
でもまあ、三島はそういうキャラだからな。
良く言えば、ムードメーカー。
普通に言えば、いじられキャラ。
「みゆきちも俺のかっこいいシュートを見たかな?」
「見たと思うよ。あ、思い出した。あのストーカーはそこまでしてアピールしたいのか? ってのもあった!」
聞くんじゃなかった…………
「まあいい。周りがストーカーと思おうが、みゆきち一人がそう思わなければ、これは純愛なんだ」
「いや、そうかな?」
田中さんが首を傾げる。
「そうだよ。これでみゆきちが嫌がって、先生や警察にチクれば俺が悪だが、良い仲になれば正義だ」
実際、みゆきちはそんなに嫌がっていない。
多分ね?
…………嫌がってないよね?
「で? 作戦会議って言ってたけど?」
「俺がダメだと思うところは何だと思う?」
「いっぱいあるけど、一番ダメなのはしゃべれないことだと思う」
「だね。お兄ちゃん、あんなに山岸先輩とぺちゃくちゃ楽しそうに話してたのに春野先輩には無口なんでしょ? 私が春野先輩の立場だったらそんな人、絶対に関わりたくないよ」
まさしくその通り!
「どうすれば、しゃべれるようになるかな?」
「わかるわけないじゃん。私は小鳥遊君やヒカリちゃんみたいに社交的な方じゃないけど、さすがにしゃべれないってことはないし」
しゃべれないって、相当だからなー。
しかも、ただ一人に。
「私が怖いのは私に好きな人が出来た時に同じことが起きるんじゃないかってことなんだよね」
「お前は大丈夫だろ。神経が図太いもん」
「いや、お兄ちゃんの方が図太いよ」
「どっちもどっちだよ…………」
俺と妹が図太さを押し付け合ってたら田中さんが呆れるとようにつぶやいた。
「もういっそさー。そのままでいくのがいいんじゃないかな?」
「そのまま? 筆談のままってこと?」
「そうそう。春野先輩が嫌がっているなら治すべきなんだろうけど、そうじゃないんでしょ? というか、春野先輩から筆談を提案してきたんでしょ? じゃあ、それでいいじゃん」
みゆきちというか、稗田先輩の提案にみゆきちが乗っただけだ。
「でも、それでいい関係になれると思うか?」
具体的には付き合うとか、結婚とか、子供とか、老後とか…………
「そんな関係は見たこともないし、聞いたこともないからわかんないよ。でも、そんなのどうでもよくない? それこそ、周りがどう思おうが、当人達がそれでいいならそれでいいじゃん。人には色んな形の関係性があると思うよ。世の中には会って数ヶ月で結婚する人もいれば、ネットとかで知り合って、会ったことない人と付き合う人もいるし」
ふむふむ。
さすがはヒカリちゃん、ポジティブだ。
名は体を表すとは良く言ったものである。
「田中さんはヒカリちゃんの意見をどう思う?」
俺は田中さんに振ってみる。
「まあ、その通りだと思う。私なら嫌だけど、春野さんは別に気にしてないっぽいし、楽しんでそうだしね」
うーん、2人がこう言っているし、無理に治す必要はないのかもしれない。
それよりも関係性を進める方がいいのか。
いつ治るかもわからない病気の治療を待つより、病気のままで進むべき……
それで受け入れてもらえないのならば仕方がないし、もしかしたら関係性が進んだことで治るかもしれない。
「…………デートに誘うか」
「いいと思う」
「でも、どうするの? 外で筆談はきついし、室内? わかってると思うけど、家に呼ぶのはやめた方がいいよ。家に行くのはもっとやめた方がいいよ」
家は俺も嫌だわ。
耐えれそうにない。
いや、性欲という意味ではなく、心臓がって言う意味ね。
「秘策がある」
とっておきの秘策。
「ゲスいの? 言ってみ」
田中さんの中の俺って、最低なんだろうね。
「映画に誘う」
「ごめん、すごくまともだった…………確かに映画はいいかもね」
「うん。横に並んで見るから目も合わさずに済むし、会話もないもんね。見終わったらどっかの喫茶店で映画の感想を筆談で話せばいいし、ピッタリかも」
「目を合わさなくていいのがいいね」
ナイスアイデアだと思う。
すげー情けないけど。
「その言い方だと春野さんが嫌いな相手に聞こえるよ…………でも、喫茶店では目を合わすでしょ? こんな感じで対面に座るんだから」
田中さんはそう言いながら指で自分と俺を交互に差す。
「隣に座るから大丈夫。この前、このファミレスに2人で来た時も並んで座ったし」
図書館の受付で並んで座っていた時の延長で並んで座った。
そっちの方が筆談も楽だしね。
「…………それ、上級者カップルのやることじゃない? 絶対に周りはカップルだと思ってたでしょうね」
「一言も発せずにノートに書きこんでいたから勉強を見てもらっている人にしか見えてないと思う」
「ファミレスで並んで座った男女が一言もしゃべらなかったのか…………」
「ちょっと見てみたい光景だねー。というか、さりげにファミレスに誘ってるし…………」
あの時は話がいいところで図書館の閉館時間が来たのだ。
だからもうちょっと話していこうよって誘った。
筆談でだけど。
「来週の金曜の放課後にここに来ると見れるぞ。一緒にテスト勉強しようって、誘おうと思っている」
今、思いついた。
他の日に誘ったらアリアもついてくるだろうが、金曜はまず2人だ。
アリアが間にいた方が良い気もするが、関係性を一歩進めるなら2人がいい。
というか、映画に誘う場合はアリアには悪いけど、アリアが邪魔になる。
「あー、テストか…………そろそろ生徒会長の岩田君に過去問をお願いしないとなー」
岩田君とは例のテストで95点以下を取ったことがないことで有名な生徒会長だ。
俺の1個上の先輩だが、家が近所だったため、俺も妹も昔から知っているし、よく遊んだ。
しかも、勉強を見てもらったこともある。
そして、小中高と同じ学校のため、毎回、テストの過去問を貰っている。
「俺はすでに頼んだ。来週の月曜にもらう予定」
「回してね」
田中さんが頼んでくる。
今日、付き合わせたしねー。
まあ、ずっと同じクラスの田中さんには毎回、回しているんだけど。
「よし! 来週、テストが終わったら映画に行こって誘うぞ」
「がんばー」
「お兄ちゃん、財布に入れてるやつは置いて行きなよ。絶対に使うことはないから」
男子高校生のお守りを置いていくなんてとんでもない!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます