第009話 月曜の朝の辛さは異常


 金曜の夜、アリアとみゆきちと3人でメッセージアプリで交流を深めていると思っていた。

 しかし、アリアはみゆきちの家におり、アリアと電話をしながらメッセをしていた俺(+妹)の本音は全部、みゆきちに筒抜けだったのだ。

 せっかく、丁寧で良い人なふりをしていたのに、すべて水の泡である。


 特にまずかったのがこれ。


【へー、春野さんって、お菓子作るんだー。何が得意なの?】


「みゆきち、お菓子作るんだってさー」

「お兄ちゃん、甘いものが好きって言うんだよ! もらえるよ! 本当は甘いものが好きじゃないけど、好きって言うんだよ!」

「俺、今から甘党になるわ」


【得意って言うほどじゃないけど、クッキーとか】


「クッキーだってさー」

「チャンスだね! すごいって、褒めるんだよ! よっしゃ! 私が今度、その話題に触れて、教えてもらうように頼んで家に呼ぶよ! あとはいい感じに…………」

「急すぎるわ! それはもうちょっとしてからだ。今はさりげにもらえるように仕組む!」

『この兄妹、ヤバいわ…………あんたら、前世はクモでしょ』


 俺はその日と翌日に弁明した。


【あれはね、ちょっとした冗談なんだよね。妹と悪ふざけをしていただけ。そう、妹は思春期だから】

【いや、小鳥遊君って、クラスでもそんな感じじゃない? メッセ見ながらこの人、誰だろうって思ってたw】

【私は面白かったけど、あんたら兄妹の黒さがひどかったw】

【俺はあんま黒くなくなかった? 主に妹だと思うな。あと、実は本当に甘党なんだよね】

【無理ない?w】

【そこまでしてほしいの?w】


 このように何とか笑い話で済んでよかった。


 俺は安堵しながらも今後の距離の詰め方を妹と話し合い、土日は終わった。


 そして、多少、焦ったが、楽しかった土日を終え、憂鬱な月曜となった。

 もちろん、朝から嫌な気分で起き、学校に向かう。

 俺は学校に向かうバスに乗り込むために、バス停に向かうと、バス停にはチラホラと同じ学校の制服が見える。


 俺はその中に知り合いを見つけたので声をかけることにした。


「よー、三島。元気かー?」


 そいつは図書委員を代わってやった三島だ。

 実はこいつの家は俺の家からそこそこ近かったりする。


「おー、小鳥遊。月曜に元気なわけないな」


 三島が挨拶を返す。


「まあなー」

「それよか、図書委員を代わってもらって、あんがとなー」

「いや、それはいいんだけどさ。俺、帰宅部だし」


 暇といえば暇だ。

 バイトをしているわけでもないし。


「お前、バスケ辞めたんだもんなー。春野さんのせいかと思ったけど、図書委員は春野さんだから違うのか…………怪我でもした?」


 うーん、説明がめんどいな。


「怪我はしてないなー。まあ、ちょっと思うところがあったんだよ。しかし、お前が図書委員ってめっちゃ意外だわ。部活あんのに」


 三島は春野さんと同じくバスケ部だ。

 ちなみに、三島と俺は小中と同じ学校なので、当然、チームメイトだった。


「ぶっちゃけ、内申点だなー。図書委員って、めっちゃ楽だろ?」


 確かに、楽そうではあった。

 座って、本を貸し出すか、本の整理くらいだろう。

 稗田先輩に任せちゃったからまだ仕事をやってないけど。


「確かにね。しかし、お前、春野さんと2人きりであそこに座ってたわけか」


 ゆるせん!


「結構、それはそれできついけどな。別に仲が良いわけじゃないし」

「同じバスケ部だろ?」

「女バスだしなー」


 小中は普通に同じバスケ部だし、交流はあったが、高校になると減るのかもしれんな。


「高校は別って感じか?」

「いや、というより、お前がいたらお前がぺちゃくちゃしゃべりだすからもっと交流もあるんだろうけどなー。先輩や監督の前で女バスに声をかけるのはお前くらいだ」


 だって、ヒカリちゃんがいたし……


 今は無理だけどね。

 みゆきちがいるから。


「ふーん、それなのに図書委員に入ったのは毛筆コンクールで金賞を取ったことで有名な稗田先輩目当てだろ」


 エロくて有名な稗田先輩!


「委員長ね。あの人、すごいよな」


 何がすごいかは言わないが、言いたいことはわかる。


「俺は中学の時から目をつけてた」

「吹奏楽部のやつな。いや、俺もその場にいただろ。お前がはしゃいでたのを覚えてるわ」


 そうだっけ?


「お前、いたっけ?」

「いたよ。お前、うるさかったわー。いや、いつもうるせーけど」

「うるさくなくね?」

「うるさくて、試合中に審判に注意されたんだろ」


 そんなこともあったね。


「俺がうるさいか、うるさくないかは議論の余地があるが、それで? 稗田先輩目当てだろ?」

「議論の余地はないけどな。小鳥が遊ぶような静かな苗字のくせにうるさいことで有名な小鳥遊兄妹だし。いや、別に稗田先輩は目当てでじゃない。俺は浅間先輩目当て」


 俺とヒカリちゃんで嫌なくくりをされてんなー……

 ん? 浅間先輩?


「あの眼鏡の人?」

「そうそう。知ってんの?」

「最初に稗田先輩に挨拶に行った時、図書館の受付にいた」

「ああ、同じ組だしな」

「へー、あの人かー。俺がお前の代わりに来たって言ったら口を開けて固まってたなー」


 多分、ストーカー扱いで引いてたと思う。


「俺もお前が俺の代わりとは思わなかったわ。頼むから春野さんに迷惑をかけるなよ。俺まで巻き込まれて女子からバッシングは嫌だぞ」

「大丈夫。ちゃんと上手くやるから」


 俺にはアリアと妹がいるし。


「頼むぜ…………あんなにうるせーのに春野さんが近づくと、ピタッと黙る光景は異様だぞ……クラス中が引いてる」


 マジ?

 田中さんも言ってたけど、完全に俺が変な空気を作ってんだな。

 でも、もう大丈夫!

 俺には筆談があるから!


 俺と三島がバスを待っていると、学校に行くバスがやってきたので2人で乗り込む。

 俺はバスに乗り込み、アリアを探すが、今日はいなかった。


「アリアがいねーな」


 俺は開いてる席に座りながらつぶやく。

 隣に座って、作戦会議をしようと思ったのに…………


「アリア? 山岸さんか? あの人はもっと早く行ってるだろ」

「そうなん? この前、一緒だったけど」

「いや、知らねーけど、俺らの後に教室に来るイメージがない。そん時は遅れたんじゃね?」


 うーん、アリアに明日からは遅らせるように言うか、俺が早く行くかだな。

 というか、みゆきちは?

 家がどこかは知らんが、家が隣だし、一緒に来てんのかね?


 俺は気になったので携帯を取り出す。


「酔うぞー」


 携帯を取り出した俺を見た三島が忠告してくる。


「ガキじゃねーんだから酔うか。ちょっとアリアに聞きたいことがあるんだよ」


 俺は携帯のメッセージアプリを起動させ、3人のグループに書き込む。


【おはー。山岸さん、もう学校?】

【おはー。うん、学校】


 アリアは相変わらず、たんぱくだなー。


【この前一緒だった時は遅れたん?】

【だねー】


 三島の推理で当たりか……


【春野さんは一緒じゃないの?】

【おはー。私はもっと早いかな。最初はアリアと一緒だったんだけど、アリアが徐々に遅れてくるから】

【眠くて…………】


 うーむ、アリアでも結構、早い気がするが、それより遅い俺らはどうなんだって話だ。

 しかし、どうしよう?

 おそらく、乗るバスは一緒だろうし、早く来て、交流を深めるか?

 いや、さすがに、バス内で筆談はないか…………

 上手く書けないし、それこそ酔いそうだ。

 アリアに後でもう1本遅らせるように言おう。


「三島ー、バスケ部は朝練とかねーの?」

「この時期はない。もうちょっとしたらあるかもなー」


 ふむふむ。

 まだ4月だし、朝練はもうちょっとしてからかね。


 俺は今後の計画を考えながらチラッと隣を見た。


「ハァ……アリアと隣が良かったなー」


 なんで三島と隣なんだろ。


「悪かったな。俺だって、うるさいお前じゃなくて、浅間先輩が良かったわ。っていうか、そこは山岸さんじゃなくて、春野さんって言えよ」

「しゃべれないから無理よ。あと、この距離だと、心臓が止まっちゃうかもしれん」


 金曜の時もちょっと近くて、心臓がバクバク鳴ってた。


「お前、マジで何なん?」


 病気なんだよ。

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