第008話 アリアは悪いヤツ
俺はアリアにみゆきちを入れた3人でのグループメッセージのやり取りを提案した。
「ちょっと待ってね。ミユキに確認を取るから」
優しいことで有名なアリアは了承してくれたらしく、みゆきちに確認をしてくれるらしい。
しかし、ガチャガチャ音がするのは何でだろう?
携帯をいじるだけでは?
ん?
今、ピンポーンって音が聞こえましたよ?
「おい! お前、直接、みゆきちの家に行ってるだろ!」
俺は携帯に向かって怒鳴る。
『え? だって、直接言った方が早いし…………』
「せめて、電話を切ろうぜ!」
『自分で切ればいいじゃん』
それもそうだな。
「よーし、いっせいのーで、切ろっか」
『そんなに焦ってるのに、それでもふざけるがすごいわ』
「いっせーのーで………………もう、アリア、切れよー」
『いや、そっちも切ってない――あ、ミユキー、あのね――――ピッ』
俺は即座に電話を切った。
ギリセーフだね。
俺は携帯を机に置いたまま、下に飲み物を取りに行こうと思い、ドアを開けた。
「――痛っ!!」
ドアを開けると、悲鳴に似た声と共に何かがつっかかったため、顔だけ出して、外を覗き込むと、妹がうずくまっていた。
「ヒカリちゃん、何してんの?」
「ううん。何でもない」
何でもないだってさ。
盗み聞きしてたくせに。
俺は妹をどかせ、部屋から出ると、階段を下り、キッチンに向かう。
「ねえねえ、アリアって、山岸先輩でしょー。何を話してたの?」
妹はキッチンまでついてくる。
「ちょっと世界情勢について話してただけ」
「山岸先輩もお兄ちゃんも絶対に話題にしそうにないじゃん」
いや、誰もしなくね?
俺ら、高校生だよ?
俺は妹を無視し、冷蔵庫からコーラを取ると、再び、2階に上がる。
「ねえねえ、付き合ってるのー? 春野先輩から山岸先輩に乗り換えたのー? 今日、春野先輩と図書委員で一緒だったんじゃないの?」
うるさい子だなー。
余計なことを教えるんじゃなかった。
「普通に電話してただけだろー」
俺は自室の扉を開け、部屋に入る。
「あんま付き合ってもない異性に電話しなくない? そんなに仲いいの?」
こいつ、普通に部屋に入ってきおった。
「ちょっと相談というか、頼みごとがあったんだよ」
「えー! でも、いっせーのーで、切ろうとか言ってたじゃん。恋人のやり取りじゃん」
うるさい子だなー。
しかも、ベッドでくつろぎ始めたぞ…………
居座る気だ。
「冗談に決まってんだろ。山岸さんはノリのいい子だから乗ってくれるんだよ」
「まあ、そんな人だけど…………」
わかった?
わかったなら部屋に戻れよ。
俺はコーラを飲みながら椅子でぐでーとしていると、携帯から着信音が聞こえてきた。
俺はその携帯をじーっと見る。
「出ないの?」
妹が聞いてくるのでベッドを見ると、妹は漫画を読み始めていた。
俺は仕方がないので、通話ボタンを押す。
『あ、出た出た』
聞こえてきた声は当然、アリアである。
「お前、こんな時間に異性の男子に電話するなよ。俺はお前の彼氏じゃないぞ?」
『小鳥遊君はふざけないと死んじゃう病気か何か?』
嫌な病気だわ。
俺は別の病気ですー。
「それで、みゆきちは何てー? 聞いてくれたんでしょ?」
『また、ナチュ無視だよ…………』
ほら、ノリがいい。
「じらさないで言えよー」
『自分で断ることはまずないって言ってたじゃん。その通りになりました』
やったねー。
計画通りだ!
「よかった、よかった」
『うんうん。とりあえず、私が招待するねー』
「ちょっと待って…………お前、その漫画を持って行っていいから出ていけ。これからは大人のチークタイムだ」
俺はベッドで漫画を読む妹に去るように言う。
「チークって何?」
………………知らん。
「アリアー、チークって何?」
『知らないよぅ…………というか、そこにヒカリちゃんいるの? おーい!』
呼びかけんなや!
「こんばんは! 昨日ぶりです!」
妹はベッドから降り、机の上に置いてある携帯に向かって叫ぶ。
「うるせーよ、体育会系! 何時だと思ってんだ!」
『どっちもどっちじゃない?』
携帯から呆れたような声が聞こえる。
「うるせー、バスケ部! ほら、ヒカリちゃん、お前にはまだ早いから帰りなさい。アリアが下ネタを言いづらくなるだろ?」
『言わないし! 言ったこともないし! 言うわけもないし!』
三段活用みたいだな。
「お兄ちゃん、さいてー」
『さいてー』
女は群れると、急に強くなるから嫌だわ。
「チッ! 大人しく漫画を読んでろ」
俺は妹を諦めた。
妹は再び、ベッドに戻り、漫画を読み始める。
『何の漫画ー?』
「人がバンバン死ぬやつです」
『さすがはサイコ――』
「サイコパスって言うな」
そういう漫画の1つや2つくらいなら誰でも持ってるだろ。
『反応早いなー』
「お前、俺をサイコパスって言うのをやめなさい」
実は結構、ダメージがある。
『田中さんも同意してくれたんだけどなー』
田中さん、ひでーな。
まあ、田中さんがひどいのは知ってるけども。
「田中さんはどうでもいいわ。みゆきちはどんな感じだった?」
『どうでもいいって…………言い方を気を付けてね…………ミユキ? 普通にいいよーだって』
うーむ、あの人、優しすぎないだろうか?
今日、筆談する前はあんなに無視した男に優しすぎる気がする。
みゆきち、大丈夫かな?
将来、騙されないだろうか?
「みゆきちって、どんな性格なん? 優しすぎない?」
『自分で聞きなよ。はい、招待したよー』
アリアに言われて、携帯のアプリを開くと、確かに俺とアリアとみゆきちの3人のグループが出来ていた。
「サンクスー! さて、最初が肝心だなー…………ヒカリちゃん、好感度がちょっと上がりつつ、これから期待が持てそうだなーっていう最初のメッセは何?」
俺はこういうことをやらせたら右に出る者はいないことで有名な妹を頼る。
『わーお! 初手から妹頼み! やっぱ情けねー』
うっさい、アリア!
「うーん、今日、図書委員で一緒だったんでしょ? そん時の話題を軽く触れて、お礼を言えば? そんでもって、これからよろしく的なことを言えばいいんじゃないかな? 最初からがっつかない方が好印象だよ。あと、ちゃんと山岸先輩も話題に入れるんだよ。女子の場合、片方の友達を放っておくと、良くないから」
ふむふむ。
さすがはヒカリちゃん!
『…………なんか純粋そうなかわいい子だと思ってたのに、急に全部、計算に見えてきたなー……』
言っておくが、本当に純粋な子は嫌われるんだぞ?
「みゆきちとアリアは同じバスケ部で同じクラスだからその辺をつけばいいか?」
「だねー。共通の話題がいいと思う。私をダシにしてもいいよ。ついでに、色んな好みをリサーチしておくと、後々、武器になるね」
「あ、覚えてくれたんだ! 的な?」
「そうそう。女子はそういうのに弱いから」
作戦は決まったな。
『すごく嫌な兄妹だなー…………』
俺はボソボソ言っているアリアを無視し、メッセに書き込み始める。
【春野さん、今日はありがとう。筆談だったけど、楽しかったよ。来週から一緒に頑張ろうね】
【山岸さんもこの機会を作ってくれてありがとう】
ちと、長いが、最初だし、こんなもんだろ。
俺はこの2通を送信した。
『誰!? 丁寧だし、猫をかぶりすぎ!』
なんでアリアと電話しながらメッセージのやり取りをしているんだろう?
【ううん。私も話せて楽しかったよー。何気にちゃんと話したの始めてだよねー。これからよろしくね~】
みゆきちから返事がきた。
やっぱええ子や!
【よろしく】
アリアからも返事が来た。
たんぱくすぎじゃね?
「お前、やる気なさすぎ」
『だってねー…………』
しかし、俺、メッセージアプリでもちゃんとしゃべれるな。
以前はそれでも無理って思ってたが、今日の筆談の影響で文字なら大丈夫になったようだ。
それから俺は時にアリアを混ぜながらクラスの事や部活の事などを話し、交流を深めていった。
そして、ふと気付くと時刻は12時を回ろうとしていた。
「そろそろお休みの時間かもしれんな」
「初日から飛ばすのは良くないよ。そのくらいで打ち切るべきかな」
「だよな。向こうも寝たくても最初だし、断りにくいかもしれん」
「うんうん。初日はそんなもん。でも、ちゃんと毎日連絡するんだよ」
「わかってる。その辺の駆け引きは得意だ」
理想は連絡するのが当たり前になる関係を築くこと。
こっちからしなくても向こうからしてくるようになる感じ。
『ホント、嫌な兄妹だわ…………』
結局、アリアと電話を繋げたままだったな。
おかげで、アリアの返信はやけにたんぱくのままだった。
「お前、もうちょい盛り上がる返信を打てよ。俺は電話してるからわかるけど、みゆきちから見たら違和感がすげーぞ…………まあいいか。そろそろ打ち切るから電話を切るぞー」
『もう12時だしねー。ミユキー! 今日、泊まってもいい?』
ん?
「は!?」
「ほえ!?」
アリアのまったく予想に出来ないセリフに俺と妹はほぼ同時に声を上げた。
『いいよー』
携帯から聞き覚えのある声が聞こえる。
俺はそっと通話を切った。
…………………………。
あいつ、みゆきちの家から帰ってねーのかよ!!
「俺、ヤバいこと言ってないかな…………?」
下ネタは言ってないし、悪口は言ってないと思う…………
「お兄ちゃん、もうダメかも…………作戦はバレた瞬間に好感が嫌悪に変わる可能性が大…………」
まだだ!
まだ終わらんよ!
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