第004話 事態が急変したと思ったらもっと急変した


 アリアと共に学校に行った俺は教室に着くと、いつものようにみゆきちと目が合わないように席に着いた。

 そして、いつものように授業中にみゆきちの後姿をチラ見しながら午前中の授業を受けた。


 昼休みになると、昨日の練習結果を田中さんに報告しながら一緒にご飯を食べていた。


「小鳥遊君、ちょっといいかしら?」


 俺が食べ終えた弁当箱を鞄にしまっていると、担任の先生である岡林先生が教室に入ってきて、俺を呼びだした。


「あ、ロリのくせに出来る女風なしゃべり方で有名な岡林先生、どうしたんですか?」

「いや、背伸びをするちびっ子先生で有名な岡林先生だよ」


 俺が岡林先生に返事を返すと、すかさず、田中さんが訂正してくる。


「そうだったわ。先生、ごめんなさーい」


 俺は先生に謝罪をし、頭を下げた。


「その、何とかで有名なって言うやつをやめなさい! 誰がロリですか!? 誰がちびっ子ですか!?」


 あんただよ。


「すみません。ブームでして…………」

「どうして、桜中学高卒業生はその有名なの件を言うんですか…………」


 マジでブームだったんです。

 そのあだ名を付けられていない生徒、先生はいない。

 ちなみに、一番良いあだ名は校長なのに話が短い事で有名な高田校長先生だ。


「で、なんです? 俺、悪いことしてないですよ? 今朝だって、山岸さんの健康的な足をガン見してただけですし」


 下を向けば目に入るからね。

 仕方ないね。

 これが有名な不可抗力ってやつだね。

 …………アリア、俺を軽蔑した目で睨むんじゃない。


「お願いですから余計なことを言わないでください…………」

「さーせん」

「ちょっと職員室まで来てください」


 岡林先生はそう言って、教室を出ていった。


「小鳥遊君、本当に何かしたの?」


 岡林先生がいなくなると、田中さんが聞いてくる。


「いや、マジでわからん」


 何もしてないと思う。

 当たり前だが、警察にお世話になることはしてないし、授業だってちゃんと受けてる。


「ついに山本ちゃんが訴えたかな?」


 山本ちゃんと言うのは、俺があだ名を付けた隣のクラスの村山君が好きな事で有名な山本さんのことである。

 好きな人をバラせれたことをガチギレしていて、今でも俺を見ると、睨んでくる。

 おかげで、付き合えたんだからいいじゃん。


「うーん、今さら訴えるかな? あいつら、幸せそうじゃん」


 俺は村山君とは仲が良いので、よく惚気話を聞く。

 もし、俺が山本さんに殺される時があるならば、それはあいつらが別れた時だろう。


「違う人かもね。小鳥遊君って、素でひどいから」


 田中さんの俺の評価って結構、低いんだな。


「まあ、行ってくるわー…………アリア、行ってくる」


 俺は近くの席で携帯をいじっているアリアに声をかける。


「いちいち、私に言うな。他の人が誤解するでしょうが!」

「ウケる」

「はよ行け!」


 俺はアリアにちょっかいをかけた後、教室を出て、職員室に向かった。


「失礼しまーす」


 職員室に着くと、おなじみの挨拶をし、岡林先生の元に向かう。


「せんせー、なんですかー?」


 俺は自分の席についている岡林先生に声をかけた。


「あ、来ましたか。実は小鳥遊君にお願いがあるんです」


 お願い?


「先生。僕、好きな人がいるんで先生の気持ちには答えられません」

「誰も告白してません!」


 違うのか……


「いくら恩師である先生とはいえ、お金はちょっと…………」

「恩師…………えへへ…………いや! 違いますから!!」


 えへへと言う教師も中々だな。


「じゃあ、何ですか?」

「えーっとですね。小鳥遊君は部活も委員会も入ってませんよね?」


 面倒な予感…………


「まあ、僕も勉学に勤しんでいますからね」


 誰かにメガネを借りてくればよかったな。

 きらーんってできたのに。


「そういうセリフは私の数学の授業を真面目に受けてから言って下さい」


 数学、難しいんですよー。


「すみませーん。それで何ですー?」

「小鳥遊君、図書委員に入ってください」


 図書委員…………


「何すか、それ? 図書館で本を貸し出す人ですか?」


 うちの高校にも図書館はある。

 いや、ない所はないか。


「まあ、そんな感じです。あとは整理とかですかね? 実はウチのクラスの図書委員である三島君が家に都合により、図書委員を続けられそうにないんです」

「えー! 平均点50点以下のくせに保健だけ100点を取ったことで有名な三島がー?」

「それやめません? 確実にいじめに繋がる気がするんですが?」


 人を選んでるから大丈夫。


「俺のあだ名は知ってます?」

「珍しい名字で有名な小鳥遊君」


 よく知ってんじゃん。


「今はアホな告白をして、秒で玉砕したことで有名な小鳥遊君です」

「………………同じクラスにしてごめんね?」


 ホントだわ…………

 普通、避けない?


「いや、100パーセント俺が悪いのでいいんですけどね。ただ、春野さんに悪くて…………自分の身勝手さのせいで本当に申し訳ないことをしたなと」

「こんな気を使えるいい子なのに何故にふざける!?」


 それはしゃーない。

 そういう人間だから。

 …………サイコパスって言うな。


「まあ、いいじゃないですか。それよりも図書委員ですかー。臨時って感じですかね? 三島は大丈夫です?」

「出来たら臨時じゃなくて、今年1年は努めてほしいかな。詳しくは言えないけど、三島君も大変だから」

「まーた、あそこの親父が借金でも作ったな。三島も大変だわ」


 三島の親父は博打好きで有名だ。


「濁している意味を理解して欲しいな…………」

「先生、三島とはあなたよりも付き合いが長いんです。当時、小学生だった俺らに馬の調子の見方を教えるような親父ですよ?」

「三島君…………」


 先生と三島、頑張れー。


「まあ、三島が大変なのはわかりました。昔、給食のプリンとチーズを交換した仲です。図書委員も代わりましょう!」


 なお、俺がプリンで三島がチーズだ。

 プリンよりもチーズを取る三島が理解できんかった。

 今でも理解できない。


「お願いします。早速なんですが、今日の放課後、図書館に行ってください。図書委員長には説明してありますから」

「図書委員長って誰でしたっけ?」


 俺は図書館には縁がない人間なので、知らない。


「3年の稗田さんです」

「稗田?」


 誰だろう?


「知りませんか? 小鳥遊君と同じ桜中学高なんですが…………」

「あー、見たことはあるかも…………」


 稗田はそこそこ珍しい苗字だし、1個上の先輩の人でいた気がする。

 スラッとしてるくせに、出るとこが出てる先輩だった気がする。


「多分、その子です!」


 岡林先生はそう言って、目をキラキラさせながら俺を見てくる。


「…………すみません。さすがに先輩のあだ名まではわかんないっすわ」

「あ、そうですか…………」


 岡林先生がしゅんとした。


 期待に沿えなくて、すんませーん。




 ◆◇◆




 先生から図書委員に入るように言われた後、教室に戻った俺は午後の授業まで適当に時間を潰し、午後の授業に備えた。

 そして、午後の授業も真面目に受けると、放課後になったため、図書館に向かう。


 図書館は校舎とは別館であり、面倒だが、一度、外に出る必要がある。

 俺は下駄箱で靴を変え、すぐ近くにある図書館に入る。

 そして、図書館の受付前に行くと、受付に座っている眼鏡をかけた子を見つけた。


「すみません。稗田先輩はいらっしゃいますか? 岡林先生に言われて来たんですけど」


 俺は受付の眼鏡の子が先輩か同級生かわからなかったので、敬語で話しかける。


「あ、奥にいます。ちょっと待ってくださいね」


 眼鏡の子はそう言い、奥の部屋に入っていった。


 俺はそのまま待っていると、眼鏡の子と共に奥からスラッとしてるくせに、出るとこが出てる女の人が出てきた。


 確かに、稗田先輩だ。

 面識自体はないが、中学で見かけたことが何回かある。


「お待たせしました。岡林先生に言われて来たらしいけど?」


 稗田先輩はかわいらしく、首を傾げる。


「先生から聞いてませんかね? ウチのクラスの三島がちょっと図書委員を続けるのが難しくなったんで代役で来ました」


 俺は事情を説明する。


「あー…………三島君、やっぱりダメだったかー。岡林先生が話してみるとは言ってたんだけどねー。結局、図書委員を代えることにしたんだね」


 先生、稗田先輩にあんま説明してないな。


「ですねー。そういうわけで三島に代わり、今日から図書委員になります。2年3組の小鳥遊です」

「え?」

「小鳥遊…………君?」


 なんだ、この反応?

 いや、あの有名な小鳥遊君って反応はまだわかるんだが、眼鏡の子も稗田先輩も口が空いている。


「小鳥遊ですけど…………」


 何かマズいのだろうか?

 本とは無縁なことがわかるのだろうか?


「あ、いや、ごめんなさい。私は稗田ミカです。同じ中学だったよね?」


 稗田先輩は普通に戻ったようだ。

 なお、眼鏡の子はまだフリーズしてる。


「ですねー。先輩は吹奏楽部でしたね」

「接点ないのに良く知ってるね」


 下世話だが、何かのイベントで吹奏楽部が体育館で演奏を披露していた時に友達と盛り上がったことがある。

 あの人、大きいねー的な。


「先輩も珍しい苗字だし、吹奏楽部のイベントを見ましたんで」

「あー、あったね。君はバスケ部だったよね?」


 意外と知ってるもんだなー。


「ですねー。同中の先輩と一緒で嬉しいです」

「お世辞でもありがと。よろしくね」

「よろしくお願いします」

「うんうん。じゃあ、ちょっと説明するから奥にどうぞ。浅間さん、後はお願いね」


 稗田先輩は俺を奥に促すと、いまだにフリーズしている眼鏡の子に声をかけた。


「あ、はい。すみません」


 ようやく再起動した浅間さんが俺に謝ってくる。

 俺はよくわからないが、浅間さんにぺこりと頭を下げ、奥の部屋に入った。


 奥の部屋はそこまで広くない休憩室みたいになっている。

 部屋の真ん中にはテーブルが置いてあり、テーブルを囲むように椅子が置いてあった。


「適当に座って。お茶を淹れるから」

「はーい」


 俺は遠慮せずに適当な椅子に座り、お茶を待った。

 稗田先輩は俺に背を向けて、お茶を準備しているが、本当にスタイルの良い人だと思う。

 後ろ姿だが、背中から腰、お尻、足にかけてがすごく美しい。

 ってか、エロい。


 三島め!

 これを黙って、1人で堪能してやがったな!


「はい、どうぞ」


 俺が稗田先輩を見ていると、先輩がこちらを向き、お茶を俺の前のテーブルに置く。


「あざまーす!」


 俺はお礼を言い、お茶をいただく。


「うんうん。早速だけど、図書委員の仕事を説明するね。まあ、基本、受付に座ってるだけ」

「そうなんですか?」

「あんまり本を借りる人いないし、勉強する場所として使う人が多いかな」


 テスト前に図書館で勉強する人っているもんなー。


「受付で本の貸出しとか、返却はどうやるんです?」

「受付にパソコンがあるからそれで管理かな。詳しいことは一緒にいる人に聞いた方がいいと思う」

「一緒にいる人って?」

「図書委員は2人1組でローテーションなの。昼休みと放課後ね」


 だるそう…………とは言えない。


「さっきの浅間…………さんは1人でしたけど…………」

「あー、浅間さんは3年だよ。私と同じクラスで私とセットなの。ただ、私がちょっと休憩してただけ。その辺は組む人と相談してね」


 あの人は先輩だったのか。

 しかし、あの反応は何だったんだろう?


「わかりました」

「小鳥遊君は明日の放課後だからよろしくね」

「はい。ちなみに、俺の相方さんは誰っすか?」

「………………うん。君のクラスの図書委員の子かな」


 三島じゃねーの?

 他にもいたっけ?

 俺は委員会を決めた日は風邪で休んでたから知らないんだよね。


「すみません。マジでわかんないです。どちらさま?」

「…………野さん」

「はい?」


 大きな声でしゃべってー。


「春野さん…………」


 ………………神様、ありがとう。

 でも、ちょっと勘弁してほしいです…………


 そして、岡林先生、絶対に恨むぞ。


 何が同じクラスにしてゴメンね、だ!

 同じ委員にするんじゃねーよ!

 見た目通り、バカなんか?


 俺は明日の放課後、どうしようかと悩んでしまった。

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