入学式の日にプロポーズしたらその子としゃべれなくなりました……どうしよう!?

出雲大吉

プロローグ サクラチル


 一目惚れ。


 意味はその名の通り、一目見ただけで惚れてしまうことだ。

 お米ではない。


 中学を卒業し、高校に入学した初日、この悩ましい恋の病にかかった者がいる。


 何を隠そう、俺である。


 俺はおぎゃーとこの世に生を受けて以来、人を好きになったことがなかった。

 いや、両親も妹も好きだし、じいちゃんやばあちゃん、おじさん、おばさんだって好きだ。

 昔からの友達やお世話になった人達も好きである。


 この場合の好きはそういう意味の好きではなく、異性に対する好きの事だ。

 英語で言えば、ラブ。

 甘酸っぱく言えば、初恋の事である。


 初恋なんて、学校や幼稚園の先生だったり、同級生、近所のお姉さんなんかでさっさと済ますのが普通であろう。

 だが、俺はそうはならなかった。

 別に寂しい人生を送ってきたわけでなく、ただ単純に異性を見て、ドキドキだったり、夜眠れないよぅ……的なことがそれまで一度たりともなかったのである。


 それに関して、特に思うこともなかった。

 性欲は普通にあったし、クラスの子を見て、あの子、かわいいなーと思うことはある。


 でも、それだけだ。

 自ら積極的に行動して、付き合おうとかは思わない。

 多分、告白されたら付き合うだろうが、残念ながら俺はそこまでモテるわけでもない。


 そこそこいる友人と適当に騒ぎ、クラスメイトとも程よい距離感を保ちながら過ごしてきた中学生活。

 クラスの中心人物というわけでもないが、弾かれ者というわけでもない。


 多少、うるさいとか黙れとかを言われることはあったが、クラスに一人はいるであろう平々凡々な人間が俺である。


 いや、俺であった。


 そんな普通の中学生活を送ってきた俺は高校から変わってしまった。


 あれは桜の花びらが舞い散る朝、高校に入学した俺は中学からの友人数人と自分達のクラスが何組なのかを校舎の玄関に貼られた紙で探していた。


 俺は残念ながら中学からの友人とは別クラスである1-1組だった。

 まあ、残念ではあるが、また、クラスでの新しい友達達と笑って過ごすのだろう。

 何の根拠もないが、漠然とそう思っていた。


 しかし、クラス表をぼーっと見ていた俺の隣には女子2人が『同じクラスだねー』とキャッキャッしている声が聞こえた。


 俺は良かったねーと思いながら隣をチラッと見た。


 そこにいたのは黒髪ロングをした女神だった。

 きれいな髪、背は俺よりも少し低いくらいだろう。

 胸は平均よりも少しくらい大きい程度だ。


 顔や体つきが好みであることは間違いない。

 ただ、同じような子はこれまでの人生で何回かは見ている。

 正直、顔だけで言えば、中学の同級生で同じ高校に入学し、今年もまた同じクラスになった美人で有名な田中さんの方がかわいいと思う。


 なのに、俺はその子を見た瞬間に固まってしまった。

 まるで、電流が走ったかのような感覚に襲われると、すぐに動けなくなってしまったのである。


 その女神は優しそうな顔で一緒にいる友達と笑い合っている。

 だが、俺がその子をずっと見ていたので、その子と目が合ってしまった。


 多分、いつもの俺ならすぐに目を逸らしただろう。

 だが、身体が動かなかった俺は目を逸らすことが出来なかった。


 いつまでも自分を見てくる俺を不審がった女神が怪訝そうに頭を少し傾けた。

 それに気づいた女神の友達も俺を見てくる。


 そこまでの状況になったのに俺の身体は動かなかった。

 金縛りのように動かず、目線を切ることすらできない。


「あ、あのー……何か?」


 女神の友達が何か用なのかと聞いてくる。

 変な雰囲気を察した周囲にいる人達も俺達を注目し始めていた。


 俺はそれでも身体が動かなかったが、口だけは動かすことが出来た。

 何も考えられない頭でとっさに自分が考えている言葉が出てしまった。



 出てしまったのだ…………



「好きです!! 結婚してください!!」


 …………この日、伝説が生まれた。


 そして、俺はこの日、ドキドキだったり、夜眠れないよぅ……的なことが起きた。

 そう、これは恋のせいだと思う。

 

 …………違うか……違うよね。


 来年、同じ高校に入学してくるであろう妹よ。

 すまん。


 小鳥遊という珍しいことで有名な苗字を持つ我が家を恨んでくれ。


 この高校で小鳥遊を名乗ることは並外れた精神力が必要になってしまったのだ。


 お前は多分、あの小鳥遊君の妹さんと呼ばれるであろう…………



 そして、あの日から1年が経った。

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