高宮睦月の快傑騒動
簾舞茨人
第1話 「不意打ちのファイアーボール」
「これは・・・・・・少々まずい状況になったかな」
赤い髪の少女を前に、僕は小さく呟いた。
「僕・・・・・・死ぬかも」
そんな弱気な発言を一言。けれど許してほしい。なにせ、僕は今、武器となるものを何一つとして持っていない。彼女が能力を使い、僕に攻撃を仕掛けようものなら、『ひたすらに逃げる』という選択しか存在しないのだから。
「ねえ」
少女が僕に尋ねる。
「何でしょうか?」と思わずの敬語。すでに僕は心で負けていた。
「貴方、もしかして私の邪魔をする気?」
「邪魔? どういうことかな?」
「邪魔は邪魔。私の復讐の」
必要最低限の、端的な口調。それだけでも彼女が本気であることは読み取れるけれど、何より――少女の目には、一切の迷いがなかった。
「ねえ。早く答えてよ。私の邪魔をする気なの? それとも、ただ見ているだけ?」
こうなっては仕方ない。次の一言で確実に彼女は僕を敵認定するだろうけど、言わないわけにはいかない。
「君が今得たその力で何かをするというなら、僕は君を止めなくちゃいけない。だから、僕は君の邪魔を――うおっ!?」
僕が全てを言い切る前に、彼女は僕に手を向けた。すると、彼女の手の先から炎の球のようなものが生成され、間髪入れずに僕へと向けて発射された。
僕はギリギリで火炎球を躱し、彼女の方へ視線を戻す。すると、すでに彼女は二発目の火炎球の準備をしていた。
「マジか!? やっば!」
再度放たれた火炎球を前に、僕はもう一度躱す。今度は余裕を持って避けられた。
「危ないな! 人に火の玉ぶつけちゃいけませんってお母さんに教わらなかったのか!?」
「貴方が私の復讐の邪魔をするなら、何度でも狙う。邪魔が出来なくなるまで、何度でも」
「君がそこまで復讐したい相手っていうのは、一体誰なんだい?」
「言わないわよ。貴方に言っても、意味がないもの」
そう言って、彼女は三発目の火炎球を生成しようとした。だが、彼女はここで自分の手元を見て目を大きく見開いた。
「――っ!?」
一発目と二発目に比べ、火炎球の生成が異様に遅かった。おそらく、彼女と能力が上手くなじんでいないのだろう。だから火炎球の生成に時間がかかる。
彼女は少し戸惑いながらも、僕へと向けた手は決して下げなかった。
「――ここで貴方を倒すのは、無理そうね。でも、これ以上私の邪魔をしないで。次はもっとこの能力を扱えるようにする。今よりも、ずっと」
そう言い切ると、彼女は生成中の火炎球を無理矢理に放出した。僕が後ろへ数歩飛び退くと、僕の少し前でそれは地面に着弾し、爆発した。
「ゴホゴホッ――ちょっと待って! って、あれ」
煙にむせながら、僕は彼女を追うために前へと出た。
けれど――。
「もしかして――やっちゃったかな? これ」
既に、彼女の姿はそこにはなかった。
僕こと
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