イタチ小叙

かまきりりゅうご

幕開け

 イタチ、あのイタチ。野山に暮らし、愛くるしい姿でありながら小獣を喰らうイタチ。直立不動して僧の如く乞食こつじきをやってみせるイタチ。そんなイタチ。

 イタチが私達の前に姿を顕す。不思議な気持ちになるのだ。ついこの間、街で見たイタチ。真っすぐ伸びたフォルムは路地を突き抜け、民家と民家の隙間にするりと入っていった。

 『珍しいものを見た』

 一つの感動がそこにはあった。

 

 イタチが人を騙すというのはあまり知られている話ではない。ここ古田の伝承は国中を探しても珍しいと聞いたことがある。イタチは人を騙す。化けて騙す。


 私は騙されたのだろうか。その姿は卑賤いやしい鼠から、驕傲ふてぶてしい猫にまで擬態する。お前は誰だと聞いても、やはり素知らぬ顔で奔り去る。それがイタチだったかどうかなど、今となっては分からない。過去を振り返ることは、現実いまという真実との距離を別の角度から測る方法である。人を惑わすイタチには、その定規さえ通じない。

 『イタチは人を騙す。』

 今日の日記の一隅に私は注意を書き残しておいた。

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