僕たちはまだ最期を探している
語辺 カタリ
第1話 日常から非日常へ
厚くて重い扉を開けると、そこにはパイプ椅子に腰を掛ける青年が座っていた。僕が入ってきたことに気が付いたのか、感激の表情を浮かべていた
その表情の感じを見て僕は思い知らされる。
この青年は僕の知っている幼馴染だったということに。
2018年2月半ば、21歳の時
冬の寒さが残る中、僕は自室のパソコンの前で悩んでいた。
『推理小説のラストが決まらない』
厳密に言えば決まってはいるのだが、主人公と犯人の最期の会話が一向に決まらない。普通の生活をしていたら到底出てこないような悩みに苦しんでいた。
そんな時、僕の隣に温かいコーヒーが置かれる。置いた主は僕と同じ大学に通う、現在同棲中で後輩彼女の
「無理はダメですよ、先輩。たまには息抜きなんてどうですか?例えば私とデートなんかどうです?」
冗談交じりに彼女は言ったのだろうけど、それは今の僕にとってなかなかいい提案であった。たまには息抜きをすることは大切である。だから軽く肯定しながら、僕は湯気の立つコーヒーを飲のんだ。
彼女と
なんとも優しい彼女だなあ、と感心していると半開きになったドアの先から彼女の声が聞こえてくる。
「先輩!ちょっと来てください!」
先ほどまでに比べて少し声が荒げているようにも感じる。心配になった僕は先の彼女のように駆け足でインターホンに向かう。
だが、そこには彼女の姿はなく、玄関の方から話し声が聞こえてくる。駆け付けると、そこには黒いスーツを着た人物が二人立っていた。一人は髪に白髪が目立つ老人ともう一人は僕よりも少し年上に見える女性だった。
「
「はい、そうですが」
自分の名前がそうである以上そう答えるしかなかった。それよりもこの二人は何者なのだろうか、そのことが気になっていたことが顔に出ていたのか、老人の方が胸ポケットからあるもの取り出す。
「公安警察の
ポケットから取り出したのはもちろん本物の警察手帳だった。それでも、警察だからと言って安心できるわけではない。警察が来たということは、何かあったということである。
後ろで見守る後輩は不安そうな顔をして僕の方を見ている。だが、当の本人にも心辺りは全く無かった。これまでの人生はそれなりに
「いや、別に有村さんが何か悪いことしたから逮捕しに来た…… 何てわけではないですよ」
後ろに居た女性刑事が冷静な口調でそう言った。その瞬間、僕と後輩は胸を
「あなたの昔馴染みと思われる
無意識のうちに、困惑の声が喉からこぼれ出る。知らない誰かが逮捕されたわけでも、有名俳優が逮捕されたわけでもない。ただ、僕はその人物を知っていた。それだけで前者の誰よりも衝撃が強かった。
「それは本当に僕が知っている相川 修平何なんですか?」
僕は確認していた。事実を。確認せざるを得なかった。心臓の鼓動はどんどん早くなっていく。
「相川本人があなたを昔馴染みだと発言していました」
文章でよく用いられる「あまりの衝撃で声も出ない」とはこういう時の事なのだと実感する。そうしているうちに、老刑事は話を続けていく。
「驚かれるのも無理ありませんが本当です。そして、今日来させていただいた理由は一つです。あなたに捜査の協力をご依頼したい。」
頭の中の整理がつかず、老刑事の話が全然入ってこない。
『これは本当の事なのか?』『何かのドッキリとか、、、』『ユーチューバーになったのかも』『警察手帳は本物』『捜査のご協力?』『逮捕されたんじゃ』『僕に捜査協力?』『いるか?』『轢ひき逃げ?』『盗み?』『そうだ、やっぱり嘘だ』『いや、本当の事だろ』『同姓同名とか』『可能性はいろいろある』『でも僕を知っている』『なんで?』『どうして?』
その時、後ろに居た後輩が肩に手を置く。
「先輩、今は一旦落ち着きましょ。ほら、深呼吸です。はい、ヒーヒーフー」
ツッコミどころはあったが、確かに今は後輩の言う通りに落ち着く時だ。僕はすぐさま大きく深呼吸をする。そして得られている情報をまとめていく。
そうして出てきた一つの疑問。
「なぜ、僕なんですか。なんで僕に捜査協力何ですか。確かに仲良かったですけど、僕よりもアイツの事を知っている奴なんて山ほどいるでしょ。それに、僕と相川は小学校卒業以来、会ってないんですよ」
僕は相川と学校で一番仲が良かったと言ってもいいほどの関係だった。でも、会っていないのだ。理由は簡単、僕が卒業と同時に親の仕事の関係で引っ越しをしたからである。だから、彼の噂も、今どこに住んでいるか何なんかも全く知らないというわけだ。だからこそ、なぜ?
だが、その答えは予想の斜め上を来た。
「これは取引なんです。私ら警察と大量殺人鬼の」
大量殺人鬼、相川の罪状は盗みとか、轢き逃げ程度のモノじゃなかった。相川は取り返しのつかないことをしている。それを聞いて僕の手先は少し震えた。
そして、老刑事は最後に言う。
「その交渉材料っていうのが、あなたなんです。有村 公さん」
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