第2話
私たち二人は、無意識のうちに暗い道を避けていたため、本来のルートから外れてしまっていたようだ。
ついには、ナビ代わりに使っていたスマートフォンも、運悪くバッテリー切れを起こしてしまっていた。
2時間ほど歩いたところで、私たちは、歩く方角が完全に間違っていることに気が付いた。
私たちは、まったくの別方面へと向かっていたのだ。
今いる場所から最寄りの駅までたどり着き、そこで地図を確認し、向かう方角をしっかりと把握してから、私たちは再出発する。
今度こそ、間違いなく自宅にたどり着けるはず、だった。
進む道に人通りはほぼなく、車道には車が一台も走っていない。
ライトもない、スマートフォンのバッテリーもない、街頭の明かりは心許ない、そんな状況が私の中で得体の知れない恐怖を掻き立てる。
恐怖心からか、焦りからか、私たちは家路を急ぐあまり、周囲の確認を怠っていた。
車道を渡る途中に、路地から、大型のトラックが右折してくる。
慌てた恋人が、そのまま車道を渡り切ってしまおうと反対側目掛けて駆け出した。
それが、間違いの元だった。
トラックは、私たちの存在に気付いていなかったのだ。
そして、そのトラックは反対車線をショートカットするような形で侵入してきた。
そのため、先を行く恋人は、運悪くも、トラックに轢かれてしまったのだ。
トラックは、人間を轢いたことには気が付かず、そのまま前進し続ける。
――メキメキという音と、何かが破裂するような不快な音が私の耳の中でこだまする。
トラックはそのままいなくなり、残されたのは、無残な姿となり果てた恋人と、ただ、呆然と立ち尽くす私だけ。
その光景は、私の脳裏に焼き付き、恋人がトラックに轢かれる瞬間の、あの不快な音が、私の頭の中でループし続けていた。
その音は、その時よりもさらに激しさを増し、グシャグシャという音や、ビチャビチャという肉片の飛び散る音、恋人の叫び声までも追加して、その状況が頭の中で勝手に補完されていた。
精神が崩壊する寸前のところで、私は我に返り、近くにある公衆電話まで走り、緊急ダイヤルに電話をかけた。
私は心が張り裂けそうだった。
――そこからはよく覚えていない。
おそらく、そのまま現場に戻り、恋人の無残な姿を、ただ眺めていただけなのだろう。
いや、恋人と話をしていた、そんな気もする。
何を話していたかな? 『今日の花火大会、綺麗だったね』とか、『ファミレスで、ドリンク、もう少し飲んでおけばよかった』とか、かな。
どうやって自宅に戻ったのかも覚えていない。
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