第11話 変わりゆく季節にかこつけて

 夏休みも随分前に終わり、少しずつ秋へと移り変わってくる。

 あの日、推しと推しの弟のあの紳士さ(?)に疑問を抱いたものの、1ヶ月ほど経った今でも未だ解消される兆しはなく、あっという間に時が過ぎ去っていった。


 夏休みのある日、推しは家の用事で部活を休んだ。何でも海外に行ったらしく、お土産ももらった。

 家の用事って旅行とは別なのだろうか?

 それにしても海外に行くなんて私には別世界の話みたいだ。


 推しってちょっぴりお嬢様だったりするのか……?

 話し方だって丁寧で、中学1年生に見えないほど大人っぽい。

 お家について、今すぐに教えてもらおうとは思っていないが、いつかは知りたいものである。


 ちなみに、うちの部活はそこまで厳しくないようで、夏休み期間中に旅行でお休みする子もいた。文化祭までに作品が間に合えばいいらしい……なんとも緩い部活だ。そんなところも気に入っている。


 文化祭に展示する作品は大きさも題材も自由。だが実際にはほとんどの子は絵画、またはイラストを描いている。

 私は推しの弟と行った美術展で刺激を受けて、細部まで凝った絵にしたいと思っている。


 肝心の文化祭まであと少し。


「有志で何かやる人もいるみたいだね」

「そうね」

「すごいな~」

「紗綾さんは何かやりたいことでもあったの?」


 やりたいこと……


「特にないなぁ……」

「人前でやりたいことってなかなかないわよね」

「そうそう。披露できる特技もないからなぁ……栞さんは披露できるものとかある?」


 推しなら何かありそう。聞く前からワクワクしてきた。


「披露できるもの……ヴァイオリンを習ってはいるけれど……」

「わぁ!すごい! ヴァイオリンが弾けるの!?」


 すごいすごい!ヴァイオリンって特に手に取りにくそうなのに!

 この世界ではそうでもないのかな?

 でもどっち道すごいことには変わりないよね!

 今まで私の周りの人で弾ける人はいなかったもの!


 実は以前の"私"の時に、クラシックが題材となったゲームがあり、ヴァイオリンに興味があったのだ。

 結局習うことはなかったけど、今でも少しやってみたい気持ちがある。


「紗綾さん、クラシックに興味あったの?」

「うん!ピアノ習ってるんだ」

「まぁ!そうだったのね!今度聴いてみたいわ」


 そう、実はヴァイオリンではなくピアノを習っているのだ。

 目覚めた時すでに教室に通っている状況で、その流れのまま今まで通わせてもらっている。ありがたいことである。


「頑張って練習するね!」


 推しに聴かせるのだもの、気合いが入れて練習せねば。

 それにしても、思わぬ所で推しのことを知ることができた。これは嬉しさで練習に熱が入りそうである。

 いつ披露するかわからないながらも、練習を重ねるのであった。


 ────


 さて、文化祭も無事に終わり、真っ赤に色づく紅葉が美しい今日この頃。


 え?文化祭はさらりと終わりましたよ。

 漫画やアニメにあるような催しはうちの中学にはありませんでした。

 ええ、事前に知っていたとはいえとっても残念。

 楽しみは先にとっておくものなのでしょうか……というかそんな未来はあるのでしょうか、謎であります。


 あ、でも部活の作品は期間内に出来上がったことだし、制作は楽しかった。

 それだけで満足とは言わないけれど、今までで一番力を入れた作品ができたから良かったと思う。


 現在、季節は完全に秋となり少し肌寒さを感じ始めてきた所ではあるが、秋と言えば何だろうか。

 読書の秋。芸術の秋。スポーツの秋。食欲の秋。

 もはや何でもござれとでもいうような並び。

 季節にかこつけて本を読み漁るのもよし。自らの芸術センスを爆発させるもよし。スポーツと名の付くゲームをやってみるのもよし。食欲を爆発させるもよし。

 もはや全てをやるのが良いのかもしれないが、そんなことはおいといて。


 秋と言えば!さつまいも!

 秋の味覚として有名な秋刀魚さんま、栗、松茸も魅力的だが、私の中で不動の1位はさつまいもなのである。


 特に焼きいもがたまらなく好き。

 甘味料がなくとも、焼いただけでも十分甘くて美味しいし、焚き火で焼きいもをつ作るのも良いよね。


 そういえば、推しにお菓子をあげれたらなと以前考えていたが、何もせずに月日が経っていたのを思い出す。

 さつまいものお菓子といえば、王道のスイートポテトとか……?

 でも持って行きずらいし、初めて渡すお菓子がそれでいいんか?

 クッキーとかマフィンとかのが受け入れやすそうだよな……


 ひとまず推しが食べられないものを調査せねばなるまい。


「栞さん!」

「どうしたの?」

「苦手なものとか食べられないものはありますか!」

「え……? 特にこれと言ったものはないけれど……」


 おっと、脈略がない上に勢いが強すぎたようだ。

 訳がわからないのか、推しがきょとんとしてしまっている。


「そっか。じゃあお菓子とかは大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。それにしても、どうしてそんなことを?」

「いや!なんでもないよ!」

「……そう?」

「そう、ちょっと聞いてみたかっただけだよー」


 上手いこと誤魔化せなかった気もするが、上手く作れるかわかんないのに、正直に言えない!

 上手くできたら食べてほしいなんて!


 こうして、食欲の秋にかこつけて、お菓子作りへと取りかかるのであった。

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