ライトノベルな暇つぶしは難しい

火雪

第1話 青春の燃えカス

「 ――― はい。チャイムが鳴ったので、今日はここまで」


教卓の上で、資料を纏める。

いつも通りの行動パターン。生徒たちは何も言わずに、僕へ礼をする。適当な所作で対応する子。形だけで、何も感じていない子。そもそも立ち上がる事もしない子。


多感な時期だ。


そこで僕が怒っても仕方ない。

怒ってしまえば、僕は教員という立場から格下げされてしまう。


彼らは僕を煙と思うだろう。

所詮、僕は青春の燃えカス。リスペクトはない。人生の指標にも値しない。そんな存在だ。


僕だって、学生だった時、先生なんて邪魔だった。

知ってる事だけを並べ、偉そうにしている生き物だと、見下していた。はっきり言えば、嫌いだった。


だから分かるんだ。

生徒たちも僕を嫌っている。邪魔だと思っているんだ。でも、だからって、これ以上は嫌われたくない。好きでもない。嫌いでもない。そんな中間で僕は仕事がしたい。

それが教員としての務めだ。

たまに教員でも、生徒との距離感がバグっている人がいる。

別段、良いんだ。

それはそれで、その人は、そういう教育方針ってヤツだ。僕が否定する事も、肯定する事もしない。


ただ、羨ましいって、思うんだ。

僕も本音では、人気の先生に憧れている。けど、根本的に教員は嫌われる事を痛感しているんだ。

だから理想と現実の間で、苦悩しているんだ。


「ふぅ」


教室を出た瞬間にため息が出る。

あと何時間あるんだろうか? いや、今、一時間目が終わったばかりだからあと五時間以上か。

帰りたい。

こういう所は、学生の時と変わっていない。

教師という仕事にもっと、責任感を持たないと駄目だ。

分かっているんだけど、自然と逃げ腰というか、嫌気が差してしまう。


「ため息は駄目ですよ。村野先生」

「え?」


振り返ると小春先生が、胸に黒いカバーの出席簿とチョークケース、そして英語の教科書を持っている。顔はやれやれという笑顔をしていた。

身長が小さいけど、可愛らしい先生だ。

生徒からも大人気なのは、知っている。

それに教員連中からも、ワンチャン狙われている。


「聞こえましたよ? 大き過ぎるため息」

「あ、すみません」

「それも駄目です。直ぐに謝るぅ。生徒たちに舐められますよ? 村野先生、生徒たちにラクソンって言われていますよ?」

「ラクソン?」


聞き慣れない言葉に、つい聞き返してしまう。


「楽勝の村野。略して、ラクソン」

「そこはムラという読み方からソンという読み方に変わるんですね。ある意味、新時代ですね」

「何を言ってるんですか! 新時代でも旧石器時代でも関係ないですよ? 村野先生は、教師です! しっかりして下さいよ。舐めれているのは、少し可哀想ですよ」


はぁ。

僕って、可哀想なんだ。


続く。

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