缶詰の中の世界

euReka

缶詰の中の世界

 その缶詰は絶対に開けてはいけない。

 だから、指で簡単に開けられるようになっていないし、斧で叩き割ろうとしても傷さえつかない。

「この缶詰は、あらゆる道具や兵器を使っても開かない設計になっています。缶詰の中には別の世界の一つが閉じ込められており、開けてしまうと、われわれの世界が壊れてしまいます」

 別の世界は無数に存在するため、その缶詰は大量生産されていて、コンビニに行けば二千円程度で買える。

 持っていても何の役にも立たない缶詰だが、誰でも一つの世界を所有する満足感が得られるということで案外人気がある。

「缶詰は絶対に開けられませんが、あなたは別の世界の神になれます!」

 私はこんな缶詰に興味はなかったが、店で見かけた缶詰からなぜか懐かしい声が聞こえたような気がした……。


「缶詰の中の世界を観察したい場合は、モニタリングオプション(月額一万一千円・税込)に加入すれば、缶詰の中の映像や音声を視聴できます」

 購入した缶詰の説明書にはそう書いてあり、あくどい商売だなと思ったが、そのときは少しお金に余裕があったから、思い切ってオプションを申し込んだ。

「モニタリングオプションへの申し込み、ありがとうございます。ご視聴いただく場合は、PCやスマートフォンの画面に表示される世界地図の、任意の場所を拡大すると、その場所の映像や音声を確認できます」

 説明通りに操作すると、その世界に住む人々や街の映像が画面に現れて、音声も聞こえてきた。

「あ、やっと見つけてくれたのね」

 画面に現れた少女はそう言った。

「最初に地図を拡大するとき、絶対あたしがいる場所になるよう強引に設定しておいたの」

 モニタリングオプションはただ映像などを視聴できるだけで、実際に会話をするためには、さらに五万五千円・税込のオプションに加入する必要があるはず。

「聞いて。この世界は、あなたに妹が生まれた場合の世界。でもこの世界のあなたは戦場の兵士でたぶん死にかけている。会話オプションの料金は支払い済みだから」

 急な話でよく分からないけど、私にどうしろと。

「とにかく缶詰を壊してほしいの。塩の中に一日突っ込んでおけば案外簡単に壊れるから」


 彼女の言った通りにすると、次の日、突然爆音がして部屋が吹き飛んだ。

「お兄ちゃん、無事だった?」

 目を開けると、焼け野原が広がっていて、そこに少女が立っていた。

「世界は壊れたけど、戦争は終わったみたいだね」

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缶詰の中の世界 euReka @akerue

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