第1話 龍に睨まれた蛙
終わった……。
席替えでここまでの喪失感を覚えるのは初めてだ。
窓側から2列目の一番後ろ。ラブコメ作品なら隣の席のヒロインと仲良くなれる絶好のポジション。
だけどこのクラスにおいては全然違う。高校生活……いや、下手したら人生の終わりすら意味する。
机の手前側に隠したスマホの画面がメッセージの受信を知らせる。そこには短く『ご愁傷様』と表示されていた。
メッセージの送り主である竹田は教壇の目の前。竹田自身は真面目に授業を受けるタイプな上に教師の死角になりえるその位置は大当たりの席と言える。
その証拠に僕の左斜め前に座る梅原さんは顔が真っ青だ。おそらく背後に感じる恐怖に耐えられないのだろう。それに比べれば僕はまだ左側を目視できるので咄嗟に逃げることも可能だ。
「ひっ!」
悲鳴を上げそうになった口を手で押さえて平静を装う。
長い黒髪とマスクで半分隠れるくらいに小さな顔。それゆえに強調される鋭い眼光が僕を捉えた。
まるでモデルみたいなスラっと長い脚と適度に主張する胸は男子なら一度は視線を奪われる。が……その一度で満足する。その一度を一生の思い出として、二度と関わろうとしない。
「ち……」
隣の席に座る彼女は舌打ちをして窓の外に視線を移した。
ああ……梅原さんの顔がますます青く……。だけどごめん。僕に君は救えない。
誰だってそうだろう? 街でヤの付く自由業っぽい人がいたら視線を逸らすし、誰かがトラブルに巻き込まれてもスルーする。
それと同じ現象が今この教室で起きている。
隣の席に座る彼女の名前は
「ねえねえ、
この質問の答えがイエスでもノーでも海に沈められそうだから誰も確認できない。いや、みんな薄々勘付いているんだ。あの眼光は只者じゃないって。
生まれた時から極道を進んだからこそ放たれるそのオーラはごく平凡な高校に通ったからと言って隠せるものじゃない。
むしろ極道専門の高校があるならそっちに進んでほしかったくらいだ。
新学期最初の自己紹介でもドスの利いた声で教室を凍り付かせていた。
一人一人の、僕みたいな陰キャの自己紹介にすら茶々を入れた松井くんですらも
あの時、
そのメッセージを感じ取った僕らは
今度は僕の席がその壁に含まれる番というわけだ。幸い竹田の席はここから離れている。今日からあそこが僕の安息地だ。
刺激しなければカタギには出を出さない。それを信じて僕は
そう決めたはずなのに、僕の意志はあまりにも弱かった。
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