複製
長万部 三郎太
うまくはいきませんよ?
昔のアニメでとても便利な道具が出てきたのを覚えているだろうか。
覆面ヒーロー業に従事する少年が、周囲に正体を悟られないよう、アリバイ作りとして動かす『コピーロボット』だ。
複製された人間の記憶、感情、意思を備え、同じ人間のように振る舞うことができるハイテク道具。しかも、1日の終わりに互いのおでこをくっつけることで、その日の出来事を共有することができる優れものだ。
社会人デビューを果たし、念願の出版社に入れたものの、膨大なタスクに追われる日々。鉄火場とはまさにこの業界だなと痛感していた。
そんなある夜、締め切りに追われる先輩方はイライラを紛らわすためか、こう冗談を言い合っていた。
「コピーロボットがあれば4時間仮眠をとるんだけどなぁ」
「一緒に校了作業すれば半分の時間で終わるんじゃない?」
作業を手伝っていたわたしもつい軽口を叩く。
「いや、コピーロボットでもそんなにうまくはいきませんよ?」
先輩は『半人前のお前が偉そうに“編集”を語るな』と言わんばかりの目で威圧する。
わたしは慌てて自分の仕事に戻った。
それから十年以上が過ぎてわたしも一端の編集者となり、あの頃の先輩たちのように夜通し働く日々が続いた。
三徹、四徹は当たり前、連続稼働60時間を余裕で超えるような難しい案件を抱えたわたしは、幻覚と幻聴のピークを迎え一旦仮眠をとることにした。
どれくらい眠ったのだろうか。
わたしは顔をつつかれて目を覚ました。
「おい、起きろ!」
床で寝ていたわたしが身体を起こすと、そこにはもう1人の自分がいた。
何が起きたか理解できていないわたしに向かって、彼はこう言い放った。
「お前はわたしが起動させたコピーロボットだ。自分はこれから仮眠をとるから、代わりに続きの作業をしておいてくれ」
流石に同一人物だ。目の前の男の考えていることが手にとるように分かる。
しかしこの男は気づいているのだろうか。
『彼にはできず、わたしにしかできないことが1つある』
わたしはもう一度床に座ると、自分の鼻を押してコピーロボットに戻った。
(すこし・ふしぎシリーズ『複製』 おわり)
複製 長万部 三郎太 @Myslee_Noface
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