第17話 2人揃っての欠席

 どうやら悪口作戦は、私の考えがあまりにも浅はか過ぎて、2人の想いの邪魔をするつもりが、ただの空回りで終わってしまった!


 半年という期間は、志原君にとって長いようなニュアンスだったけど、心変わりするのに十分な時間が有るという意味なのかな……?

 私の作戦なんかに引っかからない2人の強い気持ちが確認出来て、半年くらいの交際禁止期間なんて、目じゃないと思うんだけど……


 あ~、何かもっと、有効な手立ては無いかな?


 あの時以来、クラスの女子の中で、私は孤立する事が増えて、やっぱりイヤな雰囲気になる時間が多くなった。

 でも、その分、志原君はモチロン、あの岸沼君まで気を遣ってくれて、気さくに私に話しかけるようになってくれているから、体育の前後の着替えとか、そういう女子だけの行動時間の他は、それほど孤独感は無いかも。

 

 志原君は皆の味方の『微笑み係』だから、私にも良い顔してくれるのは分かるけど……

 岸沼君の場合は、自分のせいで巻き込んでしまったような罪意識も有るのかな?

 表面上のものだけだとしても、女子からハブられてしまった私にとって、そんな2人の気配りが、とても有難かった。

 

 その2人の優しさを当たり前に感じるくらい慣れて来た頃、なぜかその日に限って、2人揃って欠席していた!


 欠席ってだけなら、まだ孤独でも何とかなりそうだったのに……

 担任が、ホームルーム中に、私に向かって発した言葉が地雷だった。


「申し訳無いが、提出が明日が期限の進路希望調査のプリントが有る。同じ微笑み係だし、家も同じ方面だから、綿中がよく交流している岸沼と、志原の家にも届けてもらえないか?」

 

『よく交流している』などというワードまで含めて、担任が私に頼んで来たから、またクラスの女子の嫉妬混じりの視線が一気に集中しまったじゃない!


 どうして、私が志原君と岸沼君のよりによって自宅にまで、学校のプリントを届けなきゃならないの?


 それって、『微笑み係』の任務の範疇に有った?

 何だか、私に押し付けて、担任がラクしたいだけに思えるんだけど.....


 あっ、でも、もしかしたら……

 これは大きなチャンス到来って事かも!


 だって、彼らの家に行って、親御さんが、どんな感じなのか情報をゲット出来るのだから!

 志原君の家の事情は、真緒に伝えて、もしかしたら、それがきっかけで、また仲良しに戻れる可能性だって有るかも!

 

 そうと決まれば、さっさと済ませなきゃ!

 まずは、どちらの家から行くべき?


 志原君の親御さんは、きっと彼の性格からも滲み出ているように、きっとフレンドリーなんだと思う。

 岸沼君の親御さんは、彼と同様、悪い人じゃないけど、最初はクセが有って、取っ付き難い感じかも知れない。


 やっぱり、試練を先に持って来て、岸沼君の家から行ってから、楽勝っぽい志原君の方を後に取っておこう!


 担任からもらった地図で辿り着いた岸沼君の家は、確かに私の家から5分くらいの近さの所に有った。

 あまり築年数の経過して無さそうなキレイな4階建てのアパートの4階。

 学校帰りで授業道具の入ったリュックを持ったままだったから、4階まで上るのは、なかなかきつかった!


 そんな体のきつさよりも、正直、気持ちの方がキツイ……


 だって……

 ここが、岸沼君の家なんだ!!


『微笑み係』やってなかったら、私、ここに来るどころか、岸沼君の家を知る由も無かったのかも知れない。

 今の私には、訪問する理由が有って、こうして岸沼君の家に来られたんだから、結局は『微笑み係』で役得だったのかも!

 

 だけど、学校の用事とはいえ、こんな改まって家にまでおしかけて、すごく緊張しているんだけど……

 上手く話せるかな?


 岸沼君の体調が悪いんだから、お母さんと話をしなきゃならないんだけど、岸沼君のお母さんって、どんな人なんだろう?

 ゲイの岸沼君の家に女子が来たんだから、お母さん、疑問に感じそう……


 あれっ、でも、お母さんは、岸沼君がゲイだって、そもそも知っているのかな?


 家族にはカミングアウトしてなくて、ノンケを装っているのかも知れない。

 覚悟を決めて深呼吸してから、インターホンを押してみた。


 てっきり、そこでまずは岸沼君のお母さんと話のやりとりしてから、プリントを手渡す事になると思っていたのに、いきなりドアが開いた!

 それだけでもビックリだったけど、出て来たのが、お母さんじゃなくて、病欠のはずの岸沼君!


 これは、明らかに想定外過ぎて、ドキドキが止まらない!!


 岸沼君、パーカーにジーンズ、これって、病気で布団に入っていた服装じゃないよね?

 もしかして、ズル休み……だったの?


「何だよ、お前か」


 テレビドアホン越しの会話も無く、多分、画像で確認すらしてない様子で、いきなり岸沼君本人が現れて、そんな風に言われるなんて心外過ぎる……


「あの……担任から、明日提出期限のプリント届けるように言われて」


 リュックからファイルを出して、岸沼君にプリントを手渡した。


「プリント? そうか、サンキュー」


「あの……岸沼君、体調悪かったんじゃなかったの?」


 つい聞かずにいられなかった。

 ズル休みするにしても、やっぱり、理由を知りたい。

 それ以上に、せっかくだから、私服姿の岸沼君と、少しでも長くいたいって気持ちも強いし……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る