第16話 想いの重み
岸沼君は、一途過ぎ!
まあ、見るからに頑固そうだから無理も無いかも。
そんなだから、私の噓八百に対しては、全く揺るがなかった!
こうなったら、ダメ元で、志原君にも嘘情報を伝えよう!
休憩時間に、なるべく他の生徒達の目を避けられるタイミングを狙ってみた。
志原君が珍しく1人で廊下に出たタイミングを見逃さず、私も少し遅れて席を立ち、足早に追いかけた。
すぐさま、私の気配を感じ取って振り返った、志原君。
「綿中さん、何か話が有った? やっぱり、女子との険悪ムードはまだ続いているようだから、交代して欲しいとか?」
志原君も、それに気付いていて、私の事を心配してくれているのかな?
それとも、単に岸沼君と一緒にいたいだけ……?
「ううん、今朝登校する時、岸沼君と玄関の所で一緒になって、少し話していたら、なんか意外な事を聞いてしまって......だから、志原君には、伝えておいた方がいいと思ったの」
今朝は早めに登校していた志原君は、私と岸沼君が一緒に投稿している事を気付いていた。
「岸沼君についての事って、どんな内容?」
岸沼君の事となると、志原君の方も食い付きが違う!
はあっ……
罪意識強まる一方だけど、ここは気持ちを強く持って!
「岸沼君って、手短な所から攻めるというか、つまみ食いというか、そういう性格しているみたい。だから、つい好奇心で、志原君に手出した……って白状していた」
「……」
ショックが強かったのか、沈黙してしまった志原君。
あっ、ちょっと言葉が過ぎたかな?
「岸沼君は別に悪気が有ったわけじゃなくて……ただ、転校したてで、知り合いがいなくて寂しかったし、そんな時に、志原君みたいなキレイ系な男子が世話してくれたから、勢いで手が出てしまったみたい」
思わず、岸沼君を庇うように付け足してしまった!
志原君、何とか言ってよ!
志原君の反応を見ないと、私の計画が進まないんだから!
「……それで」
「えっ……?」
それでって、まだ何か岸沼君が不利になる事を並べなきゃならないかな?
まだ、不十分だった……?
「それを岸沼君から聞いて、綿中さんは、嬉しかった?」
「嬉しかった……って? どうして?」
予想外の言葉が志原君の口から発せられて、返答に困ってしまった。
「綿中さんは、岸沼君が好きなのかな……って思ってるんだけど」
「志原君は、私が岸沼君の事を好きだから、そんな話を作り上げたなんてふうに思っているの?」
作り話は作り話だけど、理由は、そんな私の私情からじゃない。
クラスの女子達の為に、クラスのアイドルである2人の仲を裂き裂いてあげたかっただけ!
……って、ホントに言い切れる、私?
「作り話なの? もしかして、岸沼君にも、何か伝えている?」
「うん......ごめんなさい! だって、クラスの人気者の志原君と、転校生で目下、注目株の岸沼君がくっ付いたら、皆がショックを受けると思って......」
岸沼君は騙せても、志原君の目は誤魔化せないと思って白状した。
「そんな心配いらないよ! 僕は『微笑み係』で、まだ任期も半年残っているし、その間は交際禁止って事くらい、綿中さんも分かってるよね?」
私に確認をしてくるような志原君の言い方。
「でも、その解禁前から岸沼君にコンタクト取って2人の仲を暖めておいたら、任期終了した時に、即、交際宣言出せるし......」
「綿中さんの想像、なかなか面白いけど、半年はけっこう長いよ! その半年の間に、2人の気持ちとか、色々変化有るかも知れないじゃん」
えっ、半年って、長いのかな……?
『微笑み係』になって、既に半年過ぎたけど、この半年間は、気付くとアッと言う間だったよ。
そんなアッと言う間みたいな間に、2人のこの相思相愛な気持ちが変化する?
私には、そうはとても思えない!
だから、こんなバレバレの下手な小細工するしかなかったんだけど……
もしかして、志原君は、岸沼君の気持ちほど強く無いのかな……?
岸沼君の想い > 志原君の想い
……という感じなら、志原君の言っている意味も分からないでもない。
そもそも、志原君のようにバイだったら、岸沼君に限らず、時に女子にときめいたりもするもんね。
でも、そんな感じになったら、岸沼君が気の毒だな……
あんなに一途に、志原君の事を想っているのに……
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