第7話 クシャミ地獄

「はーっくしょん!!」


 このタイミングは、どう考えても恥ずかし過ぎる!!

 学ラン脱いだ途端、クシャミするなんて。

 

 しかも、女の子らしい可愛い感じじゃなくて、オッサン的なけっこう大きなクシャミしちゃっていたし……

 

「お前さ~、寒いんだったら、遠慮しないで着てろよ!」


 私が遠慮して学ランを脱いだとでも思っているらしい岸沼君。


「いいえ、けっこうです! はっ、はーっくしょん!」


 あーっ、もう、何なの?

 今は、クシャミなんかしたくないのに!

 止められなくて連発でしてしまうなんて……

 クシャミのバカー!!


「ははは、お前、ヘンな奴だなー!」


「岸沼君に、ヘン呼ばわりされたくないです!」


 私が、嫌味のように言い返しても、まだ笑っている岸沼君。


 なんか、ムカつく!!


 でも、あれっ……


 ムカつくのに……

 何だか違う印象も湧いて来ると思ったら……


 そうか、分かってしまった!


岸沼君の笑い顔って、ドストライクなんだ……!


 パッと見は、ちょっと強面な感じなんだけど、笑った時に目尻が下がると、なんか別人のように人懐っこく見えてしまう。


 こういう笑い方が出来るなんて、ズルイ……

 

 事務的に対応して、さっさと用件を済ませようとしているのに、調子が狂ってしまうもん……

 

「ほら、取り敢えず、今は特に人目も無さそうだし、学ラン着とけよ!」


 そう言って、私の肩に再び、学ランをかけてくれた岸沼君。


 あったかい。

 何だか、さっきとはまた違う感じがしてる……


「へ~っくしょん!」


 あれっ……?

 私に学ランを貸してくれたせいで、今度は岸沼君の方がクシャミした。

 それも、私並みに大きいやつ。


「あっ、やっぱり、これはお返しします! はーっくしょん!」


 脱いで、岸沼君に学ランを返した途端、また今度は私がクシャミ。

 おまけに鼻水まで、少し出て来た!


 あ~、もうイヤだ~!!

 こんな大失態を岸沼君の前でさらしてしまうなんて!


 早く、ティッシュ、ティッシュ!

 もう、ホントにここにいるのもイヤになる......


「だから、言ってるだろう! ムダにヤセ我慢しない!」


 鼻を噛んでいる私に、また学ランをかけてくれた岸沼君。

 ふわっと暖かさが伝わって来る!


 ぶっきらぼうだけど、意外と優しい面も有るんだ。


「へ~っくしょん!」

 

 また、岸沼君の大きなクシャミ。


「ヤセ我慢は、ハッキリ言って、岸沼君の方です! 私達、クシャミ合戦しているわけじゃないですから!」


 そう言って、学ランを返そうとしたが、今度は断固として受け取らない。


「男子というのは、ヤセ我慢してもいい生き物なんだ!」


 よく分からない主張してくる岸沼君。

 わけわかんない所も有るけど、やっぱりどこか憎めないというか、志原君が岸沼君を好きになったわけが分かる気がしてきた。


 えっ、どうしたんだろ、私……?

 

 まだ、志原君と交代して1日目だっていうのに、私、こんなにも早く、この男尊女卑的な態度満々で、ぶっきら棒な転校生のペースにすっかり乗せられてしまってる!


 ダメだって!!

 しっかりしなきゃ!!


 転校生をリラックスさせて、このクラスに早く溶け込むようにさせるのが『微笑み係』の務めなのに……

 私の方が、転校生の岸沼君にお世話されちゃっている感じになっていたら、まるで立場逆転じゃない!


 こんなんじゃあ、志原君の代理なんか務まらない!

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