第3話 交換条件の提示

「あっ、違うの! 勘違いさせてゴメンね! 知りたいのは、私じゃないから! 志原君のファン多くて、もし、聞けそうなタイミング有ったら是非、聞いて欲しいって頼まれていたの」


 志原君の誤解をすぐに解こうとして、慌てて言い訳した。


「いいよ。内容によっては、ノーコメントも有りなら!」


 気さくに引き受けてくれた志原君。

 やっぱり、天使!


「交際禁止だから、今は付き合っている人はいないとしても、志原君って、好きな人っているの?」


 こんな事を聞いて、早速ノーコメントにされたら、二の句が継げなくなりそう。


「今は、どうせ付き合えないし、好きにならないようにしている」


 好きにならないように……って、何だか、好きな人がいそうにも思えそうな返答をしてきた志原君。

 

「志原君の好きな人のタイプは? 可愛い系? キレイ系?」


「う~ん、どっちも有りかな」


 相手の容姿に関して、あまりこだわりが無い?

 まあ、志原君と同レベルを求められても、困るけどね……

 

「あとね……これは、ごく一部の女子から疑問が上がっていて……なんか、ちょっと聞きにくいんだけど、志原君は、男子とかって好き?」


 もうっ、真緒ったら!

 こんな聞きにくい事まで、私に質問させないで欲しかったのに!


「それをノーコメントにすると、余計怪しまれてしまうよね? ハッキリ言うと、男子も好きだよ」


......って! どっちもOKって事は、バイなの、志原君?」


 えっ、本気で?

 こんなちょっとヤバイような内容の事なんか聞いたのに、ホントにそんなに正直な返事が来ると思わなかった!


「まあ、そんな感じ」


「えっ、じゃあ、どちらかというと、どっちが好きなの?」


 ここまで来たら、もう、つい意気込んで確認したくなってしまう!


「どっちもかな~。その時その時で違うから」


「あっ、それなら、ズバリ、岸沼君みたいなタイプは好き?」


 もしも、志原君が岸沼君を最初からタイプとして、『微笑み係』という職権乱用みたいな下心で接近していたとしたら……

 誘惑されて、つい出来心でキスしてしまった岸沼君の行動も、非難できなくなる!


「だから、僕達は、今、交際禁止期間だし......」


「それは、クラスメイト達が決めたルールだけど、志原君としては、どうなの? 来年度、この係を退任した時、岸沼君と交際したい?」


 そう質問しながらも、今まで、男子同士の交際シーンなんて、目の当たりにした事が無いから、正直なところ、頭の中はパニックになっていた。

 でも、ここまで質問し続けたんだから、真緒の為にも、ハッキリさせたい気持ちも強かった!


「そうだね。その時点まで、気持ちが続いていたら、付き合いたいかも」


 志原君、まさか、そんな風に岸沼君の事を思っていたなんて……!

 本心を知りたいとは思っていたけど、いざ志原君の口から直接伝えられると、意外過ぎて、すぐに対応できない……!


「そうなんだ……」


 取り敢えず、何とか、相槌を打った……

 でも……

 せっかく、こんな新事実に辿り着くまで追及したものの、真緒に、この事を伝えるのって、かなりキツイ気がする……


 現在、志原君は、転校生男子に夢中だなんて!!


「……あれっ、待って! だったら、別に、私と交代する必要って無くない?」


 岸沼君が好きなら、『微笑み係』の職務を全うしながら接近出来て、志原君にとって損は無いどころか、絶好のチャンスなのに!


「それはつまり……僕って、一応こう見えても、頭の中では貞操観念強いから、いくら好きな男子が相手でも、まだ一線は超えたくない! でも、岸沼君と一緒にいると、自制心が効かなくなりそうで、ヤバイから」


 一線……って、言ったよね?


 それって……男同士で、身体の関係になっちゃうって事?


 志原君と岸沼君が......?


 そんなのイヤ~!!

 イヤ過ぎて、想像全体が砂嵐モードになってしまった~!!


「あっ、そっ、そうなんだ! うん、そうだよね! 私達、まだ高2だし! うん、志原君の言う通りだと思う!」


 もう、頭の中がパニックになって、単調な事しか言えてない感じ。

 質問に対しての答えが思っていたより、ずっとハード過ぎる内容に、私の経験値からは、返答するのが難し過ぎる~!


 そんなスゴイ事を何でもない事のように、サラッと、この天使みたいな顔して言ってしまうなんて!


 今の言葉、いっそ、聞かなかった事にして、記憶に修正液をぶっかけて忘れてしまいたい!

 

 こんな展開になるなんて、真緒には、どう説明すればいい?


「綿中さん、今、話した内容だけど、他の人達には秘密にしておいて」


「えっ、秘密って? どこから?」


 志原君のキュートな天使顔が、間近に迫って来ると、フワフワした気持ちにさせられて、会話内容を遡ろうとしても、なかなか上手く戻れない。


「取り敢えず、岸沼君との事は、キスも含めて秘密って事で」


「うん、分かった」


 確かにね……

 人気者の志原君にしても、転校したばかりの岸沼君にしても、自分達にとって不利になるような話を周りに広められたくないよね。


「女子の好みとかの話はしてもいいから。約束だよ!」


 志原君と私だけの約束!


 あっ、でも、正確には、岸沼君も入っているって事なんだよね……


 なんか、私、結構、前途多難な役回りを引き受けちゃった気がしないでもないんだけど、大丈夫かな?

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