責任の迷走

一色 サラ

第1話 下釜野乃花


 野乃花は、白鳥果歩のアパートのチャイムを鳴らすも、応答がない。 2度、3度と鳴らすも、何も起きなかった。どうすることも出来ず、オートロックの掛かったエントランスで、呆然と立ち尽くしてしまった。

 タタッタ、タタッタと着信がなる。スマホの画面を見ると上司の池田の文字があった。

『今、どんな感じ?』

「居ないみたいです」

『なんで』

 電話越しの池田の声が怒りと呆れたように聞こえてくる。

『もういいわ。とりあえず、警察に連絡して、中の様子見れる確認して』

「何で、私が」

『しかたないでしょう。そこにはあんたしか、いないんだから』

 不愉快で言葉が詰まってしまう。

「わかりました」

 ここに来ているのだから仕方がないことなのだろう。何の連絡もなく、会社を休んでいる白鳥のせいで、ほとんど面識のない野乃花がここに来る羽目になった。


「すみません。遅れてしまって、トウヘイ管理会社の杉山と申します。」

 アパートの管理会社に来てもように、警察の方に言われていた。なので、白鳥の部屋の鍵を持って来てくれた。

「まだ、警察は来てないです」

「そうですか…何もなかったらいいですが…」

 白鳥の部屋がもの家の殻とか、死んでいたら、会社として困るのだろう。要領の悪い野乃花が慰めの言葉なんて浮かんでくるはずもなく、重い空気が漂っていった。

「どうも、こんばんは」

 笑顔で、呑気に自転車を漕いで、警察がやってきた。

「どうも、堤と申します。では、部屋の方へ行ってみましょうか」

 野乃花も杉山も黙って、堤の指示の元、そのまま白鳥の部屋に行くことになった。杉山がドアのカギを開けた。開けると、部屋の中は暗くて、少し腐ったような臭いが漂って来た。

「すみません。ここで待っていてください。僕一人で中を確認してきます」

 堤は、先ほどの吞気な顔と違って深刻そうな顔になって、一人で部屋の中に入って行った。

 少し先にある扉を開ける音と微かに中の様子見えた。さらに臭いきつくなった。ただ、部屋の中は夜の八時でもあり、されにカーテンも閉まっているので何も見えなかった。「杉山さん、救急車を呼んでください」と冷静な声で聞こえてくる。

「何があったんですか?」

「いいから」

 杉山は言葉が震えていた。中に入って、状況を確認する勇気もないようで、堤に言われるがまま電話していた。野乃花も中に入る勇気はなかった。部屋の中から堤も誰かに電話しているようみたいで、声が聞こえたきた。微かに「シボウ」という言葉が耳に入ってきた。隣で杉山は蒼白して呆然と部屋の扉を見ていた。


 救急車のサイレンが鳴り、何人かの隊員が部屋の中に入って行った。そこに堤が呼んだのだろう警察官がやって来た。

「詳しいことを状況を確認したいので、署までご同行願いますか」

 野乃花が唖然としていた。白鳥は死んでいる。でも核心はない。ただ、救急隊員が白鳥を運ばれていくことはなく、隊員は何も乗せることなく担架がアパートの部屋を出ていった。


 野乃花はそのまま、警察の車に乗った。野乃花のスマホには着信は鳴り響き始めた。池田の文字が光り続けている。警察がその電話に出た。部屋の中で亡くなっているところ確認しました、自殺とはかぎりません、警察の言葉が野乃花の耳に入ってくる。池田の奮発した声が漏れ聞こえてくる。野乃花に電話を代わるように言われいるようだが、状況を確認したので、個別にお聞きしたいと、警察は野乃花にスマホを渡す様子はなかった。


 取調室というが場所はどこか殺伐としている。疑いの目で見られている気もした。

「白鳥さんとは、同僚なんですよね。仲は良かったんですか?」

「いいえ、そんなに。話しかけられたら、聞いているだけです。」

「そうですか。ただ、池田さんからは、とても仲良くしたいたと聞いています」

「そんなことありません」

 野乃花が少し声を張ってしまった。なんで仲良く見えるのだろう。ある程度、避けていたのに、白鳥は話しかけてくるから、無視するのはいけないと思っていた。ただ、聞いていただけだった。仲は良くない。ただの同僚だ。仕事以上の関係はない。巻き込まないでほしい。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る