第12話 昼間の作戦会議

 ポテトの揚がる匂いが店内に充満する。


 土曜日の昼、ハンバーガーショップでハンバーガーを食べる2人の男女がいた。


 「コウタ、これは何だ?」

 「ハンバーガーです。パンで肉を挟んである食べ物です」

 「パン?」

 「饅頭まんとうみたいって言ったら分かります?」


 古代の中国に似た食べ物がないのかハンバーガーを不思議そうに見ている。


 首を傾げてハンバーガーを見ていると妖艶な雰囲気も台無しだ。


 「饅頭まんとうとは違う気がするが」

 「まぁ食べてみて下さいよ。美味しいと思いますから」


 小・羅刹シャオ・ラセツは訝しげな表情でハンバーガーにかぶりつく。


 すると細めていた目がカチッと見開いた。


 「美味しい」

 「でしょ?疑わないでくださいよ」

 

 そこから2人の会話は発展しなかった。


 美味しいと一言呟くいてからは、ひたすらハンバーガーを食べ続けていたからだ。


 そして、2人があらかたテーブルの上の食事を済ませ一息ついた後に会話が始まった。


 「今日はどうしますか?」

 「そうだな。コウタが学校でちびちびと瘴気を食っているが大した足しにはなっていない」


 ここ数日のことだ。


 学校でイジメを行っているような生徒にちょっとしたポルターガイスト現象を起こして不安を煽り瘴気を食らう。


 これを繰り返して瘴気を食らってはいるが、やはり微々たる量のようだ。


 辛辣なコメントは避けられない。


 「と言いますと。デカい瘴気を狙いたいということですか?」

 「そういうことだ」

 「でも暴力団の事務所を焼き払うくらいのことをしないと、まともな量が取れないとなると他に何をするんですか?」


 麻生まおうの言葉に小・羅刹シャオ・ラセツは呆れたように返事をした。


 「我々はあやかしだぞ。人を襲い恐怖に陥れる意外に何がある?」 

 「いや〜暴力的な手法は気乗りしないと言いますか…」

 「下衆なヤツに絞ればいいだろう。コウタの倫理観で選定すればいい」

 

 自分の倫理観で傷つけていい相手を選べだなんて神にでもなったつもりになれと言っているようなものだ。


 しかし、イジメを働くヤツらというのは、それを憚ることなく、やってのけてしまうのだから恐ろしい。


 「分かりました。とびっきりの極悪人を探してみます」

 「フフ。楽しみにしているぞ」


 楽しみにしている。


 小・羅刹シャオ・ラセツの様な妖艶な少女が不敵な笑みを浮かべて言うと期待の言葉で背筋が寒くなる。


 麻生まおうはこの落ち着かない気持ちを紛らわすためにジュースのストローに口をつけてすすった。


 ジュースが大して入っていないせいか氷の音がガラガラと鳴る。


 そして、ジュースをすすりながら、この任をこなす手立てを考えていると、ある疑問にたどり着いた。


 「極悪人って、どうやって探せばいいんですかね?」

 

 極悪人を探すと言っても人生でそんなに出くわすものでもないから、どう探せばいいか分からない。


 「コウタ」


 小・羅刹シャオ・ラセツは徐ろにコウタの名前をと呟く。


 「頭を使え」

 「頭…ですか」

 「そうだ。極悪人たる人物を犯罪者の集団の頭として、そいつを探すというよりこちらに引き出すと考えようか」

 「はい…」


 現時点では麻生まおうには小・羅刹シャオ・ラセツが何を言いたいのか皆目検討もつかない。


 「まず犯罪者の頭を見つけるのが難しい理由は何だ?」

 「え〜っと。隠れるのが上手いから?」

 「は〜…」

 

 麻生まおうの短絡的な解答に小・羅刹シャオ・ラセツは呆れ返りため息を思わずついた。


 「とても脳みそを経由して出てきた解答とは思えんな」

 「ど、どうゆうことでしょう?」

 「もういい、バカの考え休むに似たりだ」


 麻生まおうの質問も一蹴され、小・羅刹シャオ・ラセツはそのまま話を続けた。


 「まぁ隠れるのが上手いというのはたしかにその通りで、何故隠れるのが上手いのかという話だ」

 

 麻生まおうは何も言われないように首だけを縦に振って反応している。


 「それは汚れ仕事は全部下っ端にやらせている。これが世の常だからだ」

 「あっ…たしかに。学校のヤツらも不都合があれば他人のせいにしたり、面倒事は他人にやらせたりしていました」

 「フフフ、そんなところだ。具体的にはどうするか?それは簡単で実行犯をとっちめれば上の者が降ってくる。だるま落とし的にな」


 麻生まおうもここでようやくしっくり来たようだ。


 呆けていた顔が少し引き締まり手をパチンと鳴らすと小・羅刹シャオ・ラセツの案を要約してみせる。


 「とゆうことは、適当なチンピラを突付つっついていけば自ずと極悪人にたどり着くとゆう寸法ですね」

 「フフフ正解だ。ここまでお膳立てしてやれば流石に答えが出たか」


 小・羅刹シャオ・ラセツ麻生まおうの口から正解が飛び出してきたことにご満悦な様子である。


 「どうだ俄然やる気が出てくるだろう?」

 「いや、まぁ怖いので乗り気しないのは変わりないわけで…やる気ではないといいますか」

 「あやかしが人を恐れるなよ」

 「ボクはまだ人間です!!」


 麻生まおう小・羅刹シャオ・ラセツあやかし扱いされたことを慌てて否定する。


 すると小・羅刹シャオ・ラセツはフフフと不敵な笑みを浮かべて男が細かいことを気にするなと諭した。


 小・羅刹シャオ・ラセツの強引な私論に麻生まおうは言い返す気も起きず、と生返事をするだけだった。


 「さぁ活動開始だ。コウタ」

 「わかりましたよ…」


 小・羅刹シャオ・ラセツは与えられる物を待ち切れない子供のように勢いよく席を立ち上がった。


 麻生まおうはというと腰を重たげに上げて席を立ち、意気揚々と歩き出した小・羅刹シャオ・ラセツの後をついていく。


 意気が正反対な2人はハンバーガーショップをそれぞれの足取りで出ていった。

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チー牛変化!チー牛魔王になりました 六天舞夜 @dodai

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