第4話 麻生はチー牛魔王になる

 「牛魔王と羅刹女…って、西遊記に登場する妖魔。ですよね?」

 『そうだ』

 「実在したんですか?」

 『ここにこうしているのだから実在するのだろう』

 「本物の妖魔なんですか?」

 『先程、妖力ようりきを見せてやっただろう』


 とりとめのない会話が流れる。


 通常ならば荒唐無稽な話だと相手にしない麻生まおうだが、実際に妖力ようりきを見せられて疑えなくなっている。


 あの突風は都合よく自分を避けた人為的なものであったからだ。


 麻生まおうはとりあえず信じるという方向で話をすすめることにした。


 「すごい…本当にいたんだ」

 『物分かりがいいな空器からのうつわよ』

 

 またからのうつわと小・羅刹シャオ・ラセツは言う。


 何のことだか麻生まおうにはさっぱり分からないが、何となく自分に向けられて言われているような気もしていた。


 「あの、からのうつわってのは何ですか?さっきも言ってましたよね」

 『ん?』


 小・羅刹シャオ・ラセツは薄ら笑みを浮かべて麻生まおうを見ている。


 「…何でしょう?」

 『いや何でもない。ところでお前はチー牛魔王と呼ばれていたな』  

 

 自分で許可した覚えはないが学校の連中も街の不良たちにもなぜか勝手に呼ばれているだけである。


 しかし、それを説明するのも面倒なので麻生まおうは不満そうな表情で頷いてとりあえず肯定をした。


 『そうか!やはりな』


 何故か小・羅刹シャオ・ラセツは嬉しそうにして笑っている。


 『ワタシの聞き間違いではなかった』

 「あの…さっきから何のことでしょう?」


 小・羅刹シャオ・ラセツ麻生まおうの質問など気にも留めることもなく突然両の掌を向かい合わせた。


 そして聞いたこともない言葉で呪文を唱え出した。


 「あの何をしているんですか…?」

 

 小・羅刹シャオ・ラセツは二度の質問も無視して呪文を唱え続けている。


 呪文を唱えるのに没頭する小・羅刹シャオ・ラセツ


 暫くすると両の掌に挟まれた空間にポッと藤色ふじいろの光が発生した。


 いや、魂のようにも見える。


 「な、なんですか、それ?」

 『魂だ。父上のな』


 小・羅刹シャオ・ラセツは三度目の質問でようやく答えてくれた。


 「牛魔王の魂…?」

 『そうだ。そして、これからをお前の中にぶち込む』

 「えっ??」


 麻生まおうは終始小・羅刹シャオ・ラセツの言うことが分からなかったがついに自分に得体の知れないものをぶち込むと言われて慌てだした。


 小・羅刹シャオ・ラセツは光を麻生まおうの胸に当てようと手を伸ばしてきた。


 それを制止しよう胸の前に手を添えてブロックするがそれも虚しく光は麻生まおうの手をすり抜けた。


 『父上…これで』

 「うわっーーーー!!」


 何の抵抗もなく身体の中に溶け込んでくる牛魔王の魂。


 全身を何かが駆け巡りムズムズとする感覚を覚えた。


 しかし、それも数秒経ったころには全身に行き渡り何も感じなくなっていた。


 「ハァ…ハァ…」


 全身の力が一気に抜け落ちて、肩で息をする麻生まおう


 それを小・羅刹シャオ・ラセツは笑みを浮かべて見ていた。


 『気分はどうだ?』

 「身体が熱いです。何だろう…禍々しいエネルギーが腹の中で動いているようで気持ち悪いです」


 小・羅刹シャオ・ラセツはそれを聞くと八重歯をキラリと見せて笑った。


 『成功だ…これでお前は牛魔王だ』

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