Iron Heart

雄蛾灯

第1話

鉄は熱いうちに打て、そんな諺がある。そして今がその時だ。

「そしたらさ、もし暇だったら今度通話しない?」

「いいですよ」


 後輩にとても好きな女の子がいる。名前は実花(みか)ちゃんだ。でも、まだ名前を呼ぶに至ってないから、普段は佐々木さんと呼んでいる。

 俺が初めて大学で認知したのは、自分のゼミが一緒というだけだった。最初はなんてことはないただの大学の後輩と認識していた。見た目は黒髪で大人しく、警戒心が強いイメージだが、ネイルなどお洒落に気を使っていて、とても俺なんかが辿り着けないようなステージにいる。しかし、今は千載一遇のチャンスなのだ。

 事の発端は授業で一緒の教室だと分かったことだ。ゼミの後にこの授業がある。俺はこの単元を前に落としていたので、知り合いは誰もいない状態だろうと思っていた。しかし、そこに彼女はいた。その時は互いに存在を認知していただけで、話しかけにいかなかった。そもそも接点がなかった。そこで、俺は接点を作るためにLINEを交換しにいった。この時は好意とか関係なく、ゼミが終わったあと授業が同じなら一緒に行こうと思っていた。

「佐々木さん、この授業一緒でしょ?」

「はい、そうですけど……」

「良かった~! 俺知り合いいなくて寂しかったからさ、一緒に行く人探してて」

「そうなんですか、実は私も一人でして……」


 その流れから一緒に行くことになり、成り行きでLINEを交換することになった。そして、話していくにつれて次第と盛り上がった。

「この先生のこういう所めんどくさいよね?w」

「わかります笑 そこでいっつも寝ちゃいそうになって」


 話を聞くに、彼女はバイトを二つ掛け持ちをしているらしく大変そうだが、とても明るくその大変さを感じさせなかった。それ以降、LINE以外でも大学内でちょくちょく会うようになって声をかけている。そこから実花ちゃんの好意への片鱗が出てきた。


 そんな中、一身上の都合で一緒の授業を休まなくてはいけなくなった。そこで実花ちゃんに先生への言伝を頼んだ。

「佐々木さん、悪いんだけど今日の授業休まないと行けなくなったんで、先生に休むこと頼めない?」

「いいですよ、先輩も気を付けてくださいね」

と、その時は当たり障りの無い会話だった。しかし、その夜に流れが変わった。

「お疲れ様です先輩、先生には言っときましたよ」

「本当に助かったよ、マジで佐々木さんは頼りになるよ」

 と、少しいい感じに彼女を持ち上げてみた。すると、こんな返事がきた。

「先輩に頼りになられてありがたいです。なんかあったらいつでも言ってください、暇なんで」

 そこで衝撃が走った。感謝の言葉も驚いたが、暇なんでだって?バイトを二つ掛け持ちする子が?

 俺はそこで考えた。

 普通の返しなんだろうけど、全く眼中にない人にこんな文面で返すのか。

 それもあんなに警戒心が強そうな子が。普段使わない頭をフル回転させた。ハンドスピナーでも敵わないような回転を。

 その答えが導きだした。


「そしたらさ、もし暇だったら今度通話しない?」

「いいですよ」


 多分まだあちらは好意には至ってない。それは断言できる。だからこそ、彼女に相応しいステージにまで至ってみせる。


 この恋が熱いうちに打ってみせる!!

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Iron Heart 雄蛾灯 @yomogi_monster

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