8月1日

 8月1日、今日から8月になった。この辺りでもより一層暑い。東京はどれぐらい暑いんだろう。


 和夫は今日も朝から勉強していた。登校日が迫る。登校日に提出する宿題はほぼ済ませた。次は2学期の初めに提出する宿題だ。


 和夫は考えていた。シゲはどんな病気なんだろう。もうすぐ死ぬんだろうか? だとしたら、今年の夏休みをよく記憶にとどめておかないと。


「今日から8月か」


 誰かの声に気付き、和夫は振り向いた。シゲだ。シゲは白いTシャツを着ている。


「この1か月で変われるのかな?」

「変わろうよ」


 シゲは信じていた。この1か月で和夫は立ち直ってくれる。元の良い子に戻る。そのためにここに来ているんだ。俺は和夫を信じてる。


「大丈夫かな?」


 和夫は疑問に思っていた。だいぶ立ち直ってきたが、まだ完全に立ち直っていない。


「和夫、今日も出かけてくるから」

「どこに行くの?」


 和夫は気になっていた。ここ最近、どこかに出かけてばかりだ。それに薬が見つかった。病院に行っているんだろうか? 和夫は聞きたかった。


「と・・・、隣の町の友達の家まで」


 シゲは戸惑っている様子だ。明らかに嘘をついているような表情だ。


「ふーん」


 和夫には見えていた。シゲは嘘をついている。本当は病院に行っているのでは?


「じゃあ、行ってくるね」


 シゲは下に降り、軽トラックに乗って、家を出て行った。和夫はその様子をじっと見ている。一体どこに行くんだろう。気になってしょうがない。




 昼下がり、和夫は今日も橋の上にいた。今日は鈴木さんと話している。今日も川岸には多くの人がキャンプや釣りをしている。


 2人は先日の台風で被災した道を見ていた。まだ工事が続いている。いつになったら元に戻るんだろうか?


「まだ直らないんだね」

「うん」


 和夫は台風の恐ろしさを改めて感じた。東京では台風で電車が止まる事が多いものの、一般道はそんなに影響は出ない。山里って、そんなもんだろうか?


「台風の爪痕は大きいな」

「うん」


 2人は工事の様子をじっと見ていた。今度台風が来たらどうなるんだろう。家が壊れないか心配だ。


「シゲさん、今日も出かけてんのか?」


 鈴木は気になっていた。シゲがここ最近どこかへ出かける。一体どこに行くんだろうか? 鈴木も疑問に思っていた。


「ああ」


 和夫も気になっていた。引き出しから薬が見つかった。病院に行っているんだろうか? 気になって気になってしょうがない。寝ている時も気になる。


「大変だね」


 鈴木は何かを知っているような表情だ。和夫はその様子をじっと見ていた。鈴木は何かを隠しているのでは?


「大変って・・・」

「い、いや、何でもないよ」


 鈴木は背を向けながら答えた。必死で秘密を隠しているようだ。和夫はその様子が気になっている。


「そう。隣の町の友達の家に行くって言ってたけど、本当は何だろうね」

「和ちゃん・・・」


 鈴木は和夫を見つめた。ひょっとして、シゲの病気の事を知っているんだろうか? 鈴木は少し戸惑っている。


「どうしたの?」

「な、何でもないよ・・・」


 鈴木は冷や汗をかいていた。シゲの病気なんて話したくない。楽しい夏休みをぶち壊しにしてしまう。和夫には楽しい夏休みを過ごしてほしい。


「おじいちゃん、体悪いの?」


 和夫は気になった。シゲはどんな病気なんだ。鈴木に聞きたかった。


「え、な、なんで?」

「おじいちゃんの引き出しから、薬が見つかったんだよ」


 和夫は薬の事を話した。鈴木はますます焦ってしまった。言ってもいいんだろうか?


「そりゃあ、あの年齢になったら手放せなくなるよ」


 鈴木は何とかごまかした。だが、本当にこれでいいのか? もうすぐ死ぬってことを連想させてしまうのでは? 鈴木は少し不安になった。


「どんな病気なの?」

「何にも病気してないよ」


 鈴木は必死でごまかそうとした。死に至る病気ではない。この年齢になったら薬が手放せなくなる。これで本当にごまかせるんだろうか?


「じゃあ、どうして薬飲んでるの?」

「僕にもわからないよ」

「そっか・・・」


 和夫は寂しそうに答えた。あの薬は一体何だろう。命にかかわる病気ではないことを祈りたい。もっとシゲと遊びたい。今年の冬も、来年も、その先も。果たしていつまで遊べるんだろうか?




 夕方前、和夫は家に帰ってきた。シゲの軽トラックはない。まだ帰って来てないんだろう。和夫は下を向いた。いつになったら帰ってくるんだろう。よく出かけて、何をしているんだろう。


「ただいま・・・、いないのか・・・」


 誰もいない。寂しくなった和夫は2階に向かった。何もすることはないけど、外をじっと見ていよう。


 和夫は2階の窓から空を見上げた。夜空が美しく見える。シゲはいつになったらあのような美しい星になるんだろうか?


「薬か・・・」


 和夫は薬の事を考えていた。一体あの薬は何のためだろうか? もし、とんでもない病気のための薬だったら。シゲはあと何年生きられるんだろう。そう考えると、涙が出そうになる。


「具合悪いのかな?」


 和夫は考えた。病気になったのは自分のいじめが原因じゃないかな? もしそうだとしたら、自分がシゲを死に追いやってしまったことになる。なんて自分は身勝手だったんだろう。

「わからないなー」


 と、軽トラックの音がした。和夫は下を見た。シゲのトラックだ。シゲが帰ってきた。朝と表情は変わっていない。


「ただいまー」


 その声を聞いて、和夫は1階に降りてきた。和夫は笑顔を見せた。だが、ぎこちない。自分がシゲを病気にしてしまったんじゃないのかと思ってしまう。


「おじいちゃん」

「どうした?」


 シゲは和夫の表情が気になった。まだいじめの事で悩んでいるんじゃないかと思った。早く立ち直ってほしい。楽しい夏休みを送ってほしい。


「な、何でもないよ」


 何も悩み事なんてない。和夫は必死で笑顔を見せた。だが、わざとらしい。シゲはその表情がとても気になっていた。




 その夜、和夫はいつものように和子に電話をかけた。薬の事が気になって気になってしょうがない。和子にその事を言いたい。でも、言っていい事だろうか? 和夫はとても悩んでいた。


「もしもし」

「お母さん」


 和夫は戸惑っていた。元気がない。和子も心配していた。まだ立ち直ってないじゃないか?


「どうしたの?」


 和夫は悩んだ。薬の事を言おうか? 言うべきではないか?


「いや、何でもない」


 結局話すことができなかった。どうして言えなかったんだろう。和夫は悩んでいた。


「そう。何か悩んでることがあったら、言いなさいよ」


 和子は笑顔で答えた。早く立ち直って、元の和夫に戻ってほしい。


「だ、大丈夫だから」

「そう」


 和夫は受話器を置いた。またもや言う事ができなかった。いつになったら言うことができるんだろう。


 和夫はその場でうずくまってしまった。その様子をシゲが見ている。どうしたんだろうか? シゲは不安になった。


「どうしたんじゃ?」

「な、何でもないよ」


 シゲはとても気になった。ひょっとして、自分の病気を知ってしまったんじゃないか? 病気の事を言うべきだろうか? いや、言うべきではない。和夫には楽しい夏休みを送ってほしい。自分の病気の事を考えずに、のびのびと楽しんでほしい。

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