第123話 卒業旅行①
「福岡、初めて来たなあ」
「私も! 関西より西に行ったことなかった」
俺たちは九州の玄関口である福岡空港に降り立った。
もちろん、卒業旅行のためだ。大晦日に行き先を決めたのが懐かしい。
「福岡って、美味しいものいっぱいあるイメージだなあ」
結花はさっそくお土産コーナーを見ながら言う。美味しそうなお土産がたくさん並んでいて、買い食いしてしまいそうな勢いだ。
とりあえず帰りにもつ鍋のもとは買おう。あと旅行中にあまおう食べよう、と決めた。
「駅着いたら、少し早いけどお昼にしよっか」
「いいね、楽しみ」
待ちきれないね、って言いながら結花は微笑む。
地下鉄を降りて、俺たちは駅の地下にある食べ物屋を見て回る。
「ここにしない?」
「うん、おっけー」
結花は俺の服をちょいちょいと引っ張って、ラーメン屋を指差す。
「豚骨ラーメン、食べたことある?」
「いや、塩か醤油しか食べたことないなあ」
どんなラーメンが出てくるのか、とふたりでわくわくしながら待つ。
「「おー!」」
二人分のラーメンが目の前に置かれる。見たことないスープの色だ。
美味しそうな匂いがあたりに漂う。
「ん〜、美味しい」
結花は箸を休めることなく、麺をすする。
ほんとに結花は美味しそうに食べる天才だと思う。
結花の様子を眺めていると、俺の手が止まっていた。危うく麺が伸びてしまうところだった。
「美味しかったね」
「うん。結花が気に入ったのならお土産で買って作ろうかな」
「ゆうくんが作ったのも食べたい」
「何袋でも買います」
そう言いながら、再び地下鉄に乗り込む。春休みということで人は多いので、しっかりと結花の手を握って離さないでおく。
「ゆうくん、これからどこ行くの?」
「太宰府天満宮に行こうかと」
「わあ、行ってみたいって思ってたんだー」
今回の卒業旅行は一条優希プレゼンツ、ということで俺が行き先を考えた。
もともと秋ぐらいから多少計画は立ててたから。
結花に行きたいところ聞こうとしたら、「ゆうくんと一緒なら、どこでも楽しいから……当日までのお楽しみでもいい?」って言われた。
俺のプランニング能力を楽しみにしててください。
乗り換えをして、電車に揺られること約30分。太宰府天満宮の最寄り駅に着いた。
「お、すぐそこだね」
思ったよりも太宰府天満宮はすぐそばだった。駅を出た瞬間に天満宮の鳥居が見える。
おお……人の多さが凄まじい。
外国人観光客の群衆に気圧されていると、結花は俺の腕に自分の腕をするっと絡ませて、俺の手を握る。
「これなら、人が多くても大丈夫だよ?」
「おっ……うん」
瀕死寸前のダメージを負うところでした。
気を取り直して、参道を歩く。
梅ヶ枝餅と綺麗なスタバが気になる。あとで寄ろう。
5分ほど歩いて、鯉が悠々と泳いでいる池の上にかかる橋を越えると本殿が見えた。
「受験合格のお礼、言わないとね」
「あ、たしかに。修学旅行の時に北野天満宮行ったからね」
場所は違うけれど、祀られているのは同じ天神さまだから……大丈夫なはず。たぶん。
お参りで受験合格のお礼を言ってから、本殿を後にする。おみくじを引こうか一瞬考えたけれど、結花と一緒にいられることが既に大吉以上な気がして引くのをやめた。
「梅ヶ枝餅、食べる?」
「うん! 食べたいな」
とりあえず2つ注文してみた。どうやって作られるのか見れるのか、帰ってから作れたりするかなあ。
「「ありがとうございます!」」
「はふっ」
一口かぶりつくと、熱い黒餡が口の中に溢れ出す。想定外の熱さに、俺はもだえ苦しむ。確実に口の中をやけどした。
「大丈夫、ゆうくん?」
「ふぅ……なんとか」
結花は俺のことを心配そうに覗き込むと、そのまま俺が持つ梅ヶ枝餅に優しくふうっと息を吹きかける。
「これで大丈夫なはず」
「あ、ありがと」
「そんなに慌てたら、またやけどするよ? 味わって食べよう?」
照れを隠そうとして、俺は慌てて梅ヶ枝餅を口の中に入れようとする。そんな俺の様子を見て、結花は放っておけないとばかりに声をかける。
「もしかしてゆうくん、照れてる?」
「いや〜、そんなことないよ?」
「うーん、怪しい」
結花はぐっと近づいてきて俺の表情をうかがう。
「……ま、あそこのスタバ入ろう?」
「いいけど……むぅ」
俺がはぐらかすと、結花は少し不満げな表情になった。
どうしてこう俺ばかり照れるんだろう。このあと泊まる旅館でリベンジ狙おう……。
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