第32話 長年、付き合いがありますの
まさかの……まさかの光景。
あの旦那様が?
浮気不倫不義不貞裏切り嘘つき別居離婚あと慰謝料?
私はその様子から目が離せなかった。
きれいな金髪の若い娘だった。
地味な私より格段にきれいだ。
赤い唇がとてもきれい。ドレスも少し開放的だが、スタイルがいいので似合っている。
こうやって見ると、旦那様は、背の高い大柄でがっちりした男性で、男らしい人物だった。
ああいう少し小柄で華奢なタイプと並ぶと、本当によくお似合い。
二人がこちらをむいた。二人ともがこっちを見ると、顔立ちがわかる。
意外なことに旦那様は顔が良かった。
顔がふたつ並ぶとよくわかる。大きさは違うけど、顔立ちが整っている。
さっききれいだと思った若い女性だったが、旦那様と比べると顔立ちは少し歪んでいた。でも、にこやかに笑っている様子は、そんな点をかき消して、素晴らしく魅力的な女性だと思わせる。
二人は私と目が合うと、立ち上がった。
そして、そのままこっちへ向かってくる。
え? 私?
なんの用事があるの?
「シャーロット、一人にしていてすまなかった」
旦那様が近づくや否や、言い出した。
「いいえ」
私は大人しく答えた。この女性は誰だろう。
「紹介しよう。ヘレン・オースティン嬢だ」
「初めまして。シャーロットさんとお呼びしてもよくって?」
旦那様はちょっと焦ったように説明した。
「ヘレンは、私の騎士見習い時代の先輩の妹さんなんだ。昔、お世話になった」
「まあ、そうなんですか。シャーロットと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
これ以外、何を言えと?
「マイクは……つまり、オースティン嬢の兄上だが、訓練中にケガをしてね、それで騎士団ではなくて主計課の方に移動した」
主計課?
「つまり、会計や騎士団が必要とする品物などの管理をする部隊ですわ」
ヘレン嬢がにこやかに解説した。さすが、お兄様が騎士団に行っているだけあって、各部隊の役割などをよくご存知だ。
まだまだ至らなかったなと反省する。
「久しぶりにお会いしましたのよ。こんなに素敵な奥様と結婚されていただなんて、ちっとも知りませんでした」
なんだろう? うーむ。
嫌がらせで言ってますね? ちっとも素敵だなんて思っていないでしょう?
「オースティン嬢とはずいぶん久しぶりなもので、彼女の方から声をかけてくれなかったら気がつかなかったよ」
旦那様がなにか言っている。でも、今はヘレン・オースティン嬢の方が重要だわ。
学院にいた頃なら、多分、派閥の力を使ってケチョンケチョンにするような気がする。
そこはかとなく、私を一段下に見てる感じが漂ってきますよ? いいんですか? そんなにダダ漏れで?
私のこと、なめてますよね? 社交界ど素人なので、見当もつかずおとなしいとか?
私、社交界に関しては確かに素人で、現在絶賛見習い中だけど、女子ネットワークは着々と構成中ですの。
特にマーガレット様の忠実な徒弟ですのよ?
迷子の子羊みたいに私のことを認識してらっしゃるというなら……それは間違いですわ。
素敵な奥様だなんて全然思ってないわよね? でも、一応言っておこう。
「まあ、ありがとうございます」
旦那様はハラハラしているらしい。
「少し開幕まで時間がありますわ。少しおしゃべりしません?」
あら? 挑戦状? 全然構いませんよ? 社交界では、私は無口でおとなしいって言う評判になっているらしいわ。
実は、饒舌で論戦好きだなんて、知られたら嫁に行けなくなるって、口が酸っぱくなるほど、母と姉に言われたもので。
「あ、じゃあ、僕も一緒に」
「おお、ゴードン!」
ここで、誰かから声がかかった。
「すごい噂を聞いたぞ? なんでも伯爵になるんだって? そんなこと、実際にあるんだなあ!」
口調が親しげなのと年頃が同じくらいなところを見ると、多分、旦那様の学校時代の友達だろうか。
「そう言えば、お前、最近結婚したんだって? すごいな。幸運続きだな」
旦那様が何事か言ったので、その陽気な男性は私の方をあわてて振り返った。
「これはこれは、奥様、失礼いたしました。まだ、ご紹介に預かっておりませんので、見ず知らずの私からお願い申し上げる無礼をお許しくださいませんか? 久しぶりに会った友人同士なのです。どうかしばらく旦那様をお貸しください」
「え? あ、もちろん、もちろん構いませんわ」
他になんと言えと?
仲良さそうに話し合っている二人から、目を離すと、金髪美人がこれまた目をキラキラさせていた。
「初めてまして、シャーロットさん。私、ゴードンとは長年付き合っていましたのよ?」
わざわざ妻に言う?
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