第2話 あやしい結婚相手

だが、二十才と言う節目の年齢には何かがあるのかも知れない。ある日、突然、父が結婚の話を持ち帰った。


私は無茶苦茶に驚いたが、父の方がさらに意外そうな顔をしていて、その顔に更に私は驚かされた。


お父さま、期待していなかったのね。


まったく期待していなかったのね。


「お前を見初めたということで……」


「えっ?」


私は父の顔を見つめた。何、言っているのかしら?


父も猛烈に気まずそうに私の顔を見ている。


「見初める……」


一体、どこで。


「ええと、非常に闊達かったつに話のできる令嬢だということで、ぜひにと、婚約のお申し込みをいただいた」


闊達かったつに?」


闊達かったつ?」


あれほどまでに、社交界に出ても、完全沈黙を貫いていた私が、闊達?


闊達というのは、すべらかに自由自在に自分の意見を述べる……ことの様な気がするが、もしかして、間違っている?


いや、間違っているのは、言葉の使い方ではなくて……。


「……お父様。もしや人違いでは?」


父は虚を突かれたかのような顔に一瞬なった。


私に言われて、そうかも知れないと思ったに違いない。


あわてて、手元から紙を一枚取り出して、一生懸命眺め出した。


「いや。容姿についても一応あっている」


「なんて、おっしゃってこられたのですか?」


「書面でもらった。ほらこの通り」


栗色の髪、茶色の目、身長、体重ともにあっている。


なんだか自分で読んでいても、むなしくなる程、特徴がないけど。


しかし、まさか人違いじゃないよね?


「結婚してもいいと?」


「ああ。それもできるだけ早くと」


「……え?」


家族全員がおかしいと疑い始めた。


「あの……どなた様でございましょう?」


母が心配そうに口をはさんだ。



相手は子爵家の三男だが、騎士団に入っていて、そこそこ出世しているらしい。ならば、収入は十分だろう。


年齢は十近く上だが、文句を言うほどでもないし、騎士団に入っているくらいなら、健康に問題もないだろう。


問題は心当たりがまるでないことだ。


「ぜひ……? 結婚したい?」


言葉の使い方としては、間違ってはいないが……。


「ご両親がご病気で看護してくれる人が欲しいとか?」


「いや、さすがに三男だけあってご両親は結構な高齢だ。領地に引きこもってしまっているらしい。面倒を見てもらいたくても、王都にいなければ面倒の見ようがないし」


おかしい。


しかしながら、断る理由もないのである。


「闊達に話す令嬢って、やっぱり他の誰かの間違いじゃ……」


社交界で見かける以外、接点はあり得ない。社交界デビューの前は、私は厳格な女子修道院付属女学院にいたのだから。


でも、どの会合でも、私は男の方と話をしたことがあまりない。闊達かったつだなんてとんでもない。(初期の黒歴史会話を除く)



しかし、母が英断を下した。


「シャーロット、人違いだろうとなんだろうと、もはやどうでもいいじゃないの」


もはや、どうでもいいって……


「とにかく、騎士団でそれなりに評価されている人なら、問題はないでしょう! そんなことより、これを逃したら次がないわ」


それから母は父を睨んだ。


「万一、何かあっても、戻って来ればいいのよ! 行かず後家より離婚歴のある女の方が高く売れますわ、あなた」


その理屈の根拠はどこに?


そして離婚後高く売れるとは?


「そ、そうだなっ。未婚の男より離婚歴のある男の方が結婚回数は多いし」


お父様、それは当たり前では? 


そうではなくて、言いたいのは、結婚できない男より、一度でも結婚したことがある男の方が異性にとっては魅力的だろう、男性がそうなら、女性だって同じで、一回結婚できるくらいなら二度目もあるはずとか、そういう珍理論を展開したかったのでは?


などと口を挟む間も無く、その間に、母は申込みの文書の返事をさらさらっと代筆していた。


「つつしんでお受けいたします……と。善は急げと言いますわ! 少々特殊性癖でも、十五の小娘ではあるまいし、もう二十の大娘。きっとどうにかするに決まっているわ!」










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