見ず知らずの騎士様から婚約を申し込まれ、反対する理由がないのでそのまま結婚したけど、多分人違い。意中の令嬢と結婚したのに、信じてもらえなくて距離感微妙

buchi

第1話 行き遅れの危機

もうすぐ私は二十になる。


可もなく不可もない伯爵家の末娘。


可もなく不可もないってことは、要するに身分はあっても目立たず、目立たないってことは、つまりは貧乏。


流行のドレスも買えないし、そのため、あちこちで開かれるパーティーへの参加もままならない。


爵位を次ぐ長男ならまだしも、娘、それも末娘ともなると、親の意欲もはなはだしく減退する。


しかも、あっと驚くような美人ならとにかく、私ときたら、それこそもう、何の取り柄もない娘だった。


姉のお古で渋々社交界デビューを済ませ、誰から声がかかるわけもなく、夜会なども最低限おかしくない程度、やむを得ず出席していたが、こんな状態では嫁ぎ先が決まる訳がない。



「シャーロットも、もうすぐ二十ね。お誕生日、おめでとう」


まるで葬式の様な雰囲気だ。令嬢の二十歳は寿命なのかしら。


「もうちょっと、なんとかしてくれたら」


母の説教が始まる。


「無理は言わないわ。でも、男性を見かけると急に気分が悪くなったり、下を向いて決して顔を見ないとか、あれはないと思うのよ」


無理は言わないわって、それが無理なのです。


「女性相手なら、あれほどよくしゃべるというのに!」


とはいえ、友達も続々と結婚を決めていって、残ったのは私と、あとはどうしようもなく結婚に不向きな性格の方とか、事情がある方とか、まあ、そこはお察しということで、あんなにぺちゃくちゃしゃべっていた私も今は引きこもり気味だ。



最近は母もあきらめ気味で、どこかの大貴族の侍女になってはどうか、などと言う話を始めだした。


私は、それでもいいと思う。


男の方って、どう接したらいいか全然わからない。


真正面に立たれたら、とりあえず、まごつくばかりだ。早くどこかに行ってほしいと思う。


勇気を出して話してみても、後で、そんな答えをしてよかったのか、ものすごく反省してしまう。


それに、話題に困る。何を話したらいいのかしら。


これに関しては、対抗措置があるのではないかと思って、大分本も読み研究を重ねてみたが、女性が築城の歴史や重火器について話し始めると、大体妙な顔をされた。

土木系は好みが分かれるのかもしれない。築城の話は止めて、もう少し軟派な補給線の問題について論じてみたが、さらにダメそう。

仕方がないので、銃器の種類について論じてみたが、どうやら剣派だったらしく、またもやみ合わなかった。


その上、後で父に叱られた。


「トンチンカンな話題ばかり振るんじゃない。ドレスや花の話題なら、向こうも多少のことなら我慢して聞いてくれるから」


お父様。


それは美人の話であって、私のような平々凡々な埋没令嬢では、誰も話を聞くだけの手間をかけてくれませんわ。


以降、私は社交界の夜会に出ることがあっても、完全なる沈黙を貫き通すことに決めた。


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